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ゲストに暴言、共感も狙わない…「ねほりんぱほりん」が挑むタブー
「人形でしか語れない 人形だからこそ語れる」。そんなナレーションで始まるNHK・Eテレの異色トーク番組「ねほりんぱほりん」(水曜午後11時)が、ネットを中心に話題を呼んでいます。ツイッターでは50分の放送中に、3万8000ものつぶやきが飛び交ったことも。なぜ、ここまでネット世代に受けているのでしょうか? 番組の大古滋久・チーフプロデューサーと、コンセプトを考えた藤江千紘・ディレクターに聞きました。
「ねほりんぱほりん」は2016年10月にレギュラー放送を開始。「元薬物中毒者」「偽装キラキラ女子」「痴漢えん罪経験者」など毎回、訳ありのゲストが登場し、体験を赤裸々に語ります。
しかし、画面に「人間」は一切登場しません。MC役の山里亮太さんとYOUさんは、根掘り葉掘り聞くのでモグラに。ゲスト役は「タブー」を語るブタの姿に。トークも再現VTRも、すべて人形劇で展開されます。
――どういった経緯で、番組が始まったのですか?
大古チーフプロデューサー「私たちが局内で求められたのは、いわゆる『ネット住民』の若者たちにも見てもらえる番組作りでした。やはり若者のテレビ離れには危機感があります。しかし単純にネットの話題を振り返る番組では、若者に見てもらえないだろうと。そこでネット住民の人たちが何を求めているのかリサーチすることにしました」
藤江ディレクター「私が有名なブロガーさん20人ほどに、だーっと会いました。最初はその人たち自身に、番組に出てもらいたいと思ったんです。顔出しで生活を見せてもらって、そのうえで何を言うのか聞くという番組案もありました」
大古P「テレビからネットへの反撃だ!とね」
藤江D「しかしブロガーさんたちに意見を聞くと、ネットの有名人や話題を後追いした番組なんて見ないよと。それよりもネットの後追いではない、NHKだからできる深い取材でバズらせるのがいいと提案されました」
藤江D「ヒントになったのは、ネット掲示板によくある『○○だけど、質問ある?』といったページです。ファーストフード店員や有名企業社員など様々な肩書を名乗る人がいて業界の内幕を書いていますが、本当なのか確かめようがない。そこをきちんと取材して番組にしたら、面白いんじゃないかなと思いました」
大古P「そこで『偽装キラキラ女子』『億り人』など言葉はネットで飛び交っているんだけど、本人が表舞台に登場していない。実態を伝えればネットがざわつくような話題を探し始めました」
―――赤裸々に語ってくれるゲストを、毎回どうやって見つけているのですか?
藤江D「たとえば『偽装キラキラ女子』は、取材候補者にかたっぱしからツイッターで連絡をとり、取材依頼をしました。しかしネットで出演者を見つけられるテーマはわずかで、大半は人づての人づての・・・という感じで地道に探しています」
大古P「候補者と会い、絶対プライバシーは守りますと言っても、すぐには信頼してもらえません。承諾まで、ほとんどのゲストに合計15時間は取材しています。断られることも、多くあります」
――そういえば新作の代わりに、過去回が『アンコール放送』として流れる週があります・・・。
大古P「それだけ、厳しい取材をしていると考えてください(笑)」
大古P「実はゲストを呼ぶ収録も独特で、ラジオスタジオで音声だけ収録しています。テレビカメラを入れたり、照明たいたりしないで、山里さんとYOUさんと飲み物をのみながらリラックスして話せる収録環境を作っています。そう説明をすると、出演を前向きに考えてもらえる人も多いですね」
――なぜ、トーク番組を人形劇にしようと考えたのですか?
大古P「番組では例えば保育士のゲストに『この親だから、こいつ嫌いとかある?』といった率直な質問もぶつけています」
大古P「しかし、本音で答えているゲストの顔にモザイクをかけてしまうと、まるで悪いことをした人のように見えてしまうんですね。そこでNHKが持っている人形劇の技術を『新しいモザイク』にしよう、と発想しました」
藤江D「かわいらしい人形が語ることで、生々しい体験談でも色んなことが中和されて、見ている人にも話がすっと入ってくるのだと思います」
――人形劇で表現するのは大変ではないですか?
藤江D「人形操演のプロが2人で1体の人形を操っていますが、もちろんトーク番組は初めてです」
藤江D「ラジオスタジオでとった音声に合わせ、後日人形を動かして収録しています。しかし丁々発止のやりとりは、子ども向け人形劇のセリフの3倍のスピード。それでも違和感のない身ぶり手ぶりができるのは、さすがプロの技だと感じます」
大古P「しかも、この人形劇がネットで思わぬ効果を発揮してくれました」
――どういうことですか?
藤江D「番組を始めてみると、画面を取り込んで感想つきでツイートしてくれる人がものすごく多いことに驚きました。画面をはりたくなる番組なんだなと」
大古P「全く予想しないことでしたね。それで番組作りでも、SNSで拡散してもらいやすい画面作りを考えるようになりました」
大古P「見た目が毎回似てしまうトークシーンだけでなく、人形劇による再現VTRなどを意識的に多く盛り込んでいます。『炎上は拡散力』といったゲストの名言は、巻物風のテロップで表示して映えるようにしています」
藤江D「再現VTRなどに登場するブタの人形の洋服や小道具は、もう700種類くらい作りました。巫女服とか、板前の服とか、二度と使わなそうなものまであります」
――ネットに合わせた番組作りがあるわけですね。
大古P「番組PRの面では、ネットで話題になったあと、見ていない人が追いかけられる情報を用意することが重要になっています」
大古P「たとえばYouTubeには、過去回を5分間にまとめた動画も載せています。視聴者をテレビやNHKのサイトに呼び込むのではなくて、逆に番組コンテンツをSNSや動画サイトにばらまいていく形に変えています」
――番組をつくるうえで、大切にしていることは何ですか?
大古P「番組を単なる職業紹介にはしたくないんです。番組の最後にも必ず『ニンゲンっておもしろい』と画面に表示しているのですが、さまざまな人の赤裸々な体験を伝えることで、人間の面白みであったり、悲しみを伝えていきたい」
大古P「MC役の山里さんとYOUさんの役割は大きいですね。YOUさんには、どのようなゲストが来るか全く伝えていません。ですから、思ったことをぶつけてもらっています。それがゲストの素の姿を引き出す力になっている」
大古P「たとえば『養子』の回でも、ゲストが出てきたときの第一声が『子どもじゃねーか、聞きづれーわ』ですから。宝くじ1億円当選者の回で『当選セックスする?』と聞いたのにも、びっくりしました。放送で使わせてもらいましたけれど(笑)」
藤江D「ゲストに共感してもらう必要はないと思っています」
藤江D「でもあなたのこと嫌いだけど、その気持ちは分かるよとか。人間って馬鹿だけど面白いよねとか。視聴者の方に番組を通して、何かを発見してもらえればうれしいですね」
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