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トランプデモに現れた“謎バッグ” 「私は無抵抗」クールにアピール
就任早々、難民受け入れに厳しい立場を表明したトランプ大統領。各地で抗議活動が激しくなる中、マドンナも参加した「ウーマンマーチ」では、ピンクのネコ耳のニット帽がデモの象徴になりました。実は、もう一つ、新政権誕生と同時にアマゾンで急に売れ出した「謎のバッグ」があります。中身が見える透明のクリアバッグです。なぜ、クリアバッグが反トランプのシンボルになったのでしょう?
「謎のバッグ」は、就任式の翌日、1月21日にワシントンであった「ウーマンマーチ」に現れました。デモには就任式よりもずっと多い100万人以上が押し寄せました。
3人の女性たちが「マーチをやらなきゃ」と言いはじめたことで生まれたという「ウーマンマーチ」。自然に生まれた流れを女性団体がとりまとめ、フェイスブックなどで組織的な告知が広がり、一気に参加者が増えました。
数週間前から、フェイスブックにはいろいろな人が「ウーマンズマーチに行きます!」と書き込み、職場でも「マーチ行く?」という会話が交わされていました。
例えていうと、数カ月前に予約し楽しみにしているコンサートに行く感覚でしょうか。皆とても気軽に、軽々と「ウーマンマーチ」の隊列に入っていきました。
「ウーマンマーチ」の参加者が持っていたのが「謎のバッグ」です。
形はバックパックやメッセンジャーショルダーなど様々。共通しているのは、透明で中身が見えるクリアバッグだということ。
持っている人たちに聞くと、皆、アマゾンで買ったといいます。
「参加者が交流するフェイスブックで、衝突を避けるためにクリアバッグを持ってねと推奨されていたの」
会場でよく見たバッグの一つ「Clear Tote Bag NFL Stadium Approved」のアマゾンのレビューを見てみると、トランプ大統領就任が近づいた1月中旬から「Perfect for the WOMEN'S MARCH」(「ウーマンマーチ」には最高のバッグです)など、コメントが投稿されていました。
中身が見えるバッグには「私は無抵抗だ」という姿勢を示す意味も込められています。
前日の米大統領就任式では、警察との衝突で閃光(せんこう)弾が投げられるなどし、逮捕者が約130人出る事態となっていました。
銃撃戦になった場合には身を床に下げるだけでは不十分なので物陰に隠れるようにという軍所属の参加者の情報なども共有されていました。
対する「ウーマンマーチ」のクリアバッグは、サンドイッチ、リンゴ、リップクリームなど何が入っているのが一目瞭然。ナプキンやタンポンも見えました。
普通の人が普通に参加する「ウーマンマーチ」のデモ。みんな思い思いのプラカードを掲げたり、コスプレしたり、主張することを楽しんでいました。
「あ、かわいい!写真撮っていい?」と衣装やプラカードを携帯におさめます。「その主張いいね」と書いたプラカードの文字を見てはハグしあう人も。主張のためのハロウィーンパレードといった感じです。
訴えるのは、女性の権利を守る主張だけではありません。
「強く生きよう」「分断ではなく統一を」「黒人の人権」「気候変動問題に関心を」「科学は大事」「女性も男性もLGBTQも」などさまざまです。
カップルや職場のグループ、家族で来たり、ウーマンマーチのためのツアーバスに登録して参加したりした人もいました。ワシントン・ポストによると、1800台のバスがワシントンに入ったそうです。
会場に設けられたステージ前は、開始時刻の午後1時15分になると、山手線の通勤ラッシュのホームのように、身動きがほとんどとれない状態になりました。
ただ、それぞれの参加者が統一感を持って動いていたので、暴動のようなことは起きませんでしたし、警察のものものしさも前日の就任式に比べたらありませんでした。
米メディアのほとんどが一面で「平和的に行われた歴史的なマーチ」として伝えました。
アンナ・ソフィア・アメズクアさん(39)はカリフォルニア州から飛行機で来ました。アーティストのアメズクアさんは「(このマーチに参加し)普通に呼吸できるようにやっとなりました」と笑います。
「ネットで意見は書けるけれどクリック一つですぐ消せてしまう。でもここにいることは誰にもデリートできないでしょ。トランプが当選した直後から病気のようでした。トラウマになって、落ち込んでいました。このラリーは私に力をくれました。一種のセラピーのように」
国務省で働く29歳の男性は、米自治領領のプエルトリコ出身の友人らとともに参加しました。名前は言えないといいます。
「政府で働いているので名前は決して出さないで。でも女性の権利を現大統領がないがしろにする発言をするのは許せない。女性の権利を擁護するという姿勢を示したくてきました」と「フェミニスト」というシールを胸に貼り参加していました。
ニューヨーク州北部から深夜のツアーバスで7時間かけて一人で来たというケリー・ウィクリックさん(19)は大学1年生。
「SNSでも発信できるけれど、その場にShowUpする(出てくる)のは誰も止められないでしょう。この気持ちを一緒に分かち合えるというエネルギーを感じ、United(統一)されていると確信できた」
サプライズで来たマドンナは、ステージで呼びかけました。「これは『革命』だ」と。
「Divided States of America(分断国家アメリカ)」と呼ばれる社会が露呈した今回の大統領選挙。アマゾンで売れ出したクリアバッグは、「ウーマンマーチ」の成功の象徴となりました。
現政権を支持しない人の結束をより固めた「ウーマンマーチ」。それがさらに分断を強めることになるのでしょうか。
ワシントン・ポストでホワイトハウス担当をしているデイビット・ナカムラ記者は、怒りを静かにたたえながらこう私に言いました。
「外に出たらマーチの人たちの声は確実に聞こえた。なのに、政府にコメントを求めても何も結局言わなかった。これが現政権だ」
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