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元「男の娘」AV女優、大島薫が語る性と生 「ボクは概念になりたい」
「好きなものを着て、好きな人を好きって言ってるだけ」。元・男の娘AV女優でタレントの大島薫さんが、過去・現在・未来を語りました。
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「好きなものを着て、好きな人を好きって言ってるだけ」。元・男の娘AV女優でタレントの大島薫さんが、過去・現在・未来を語りました。
「女性よりもかわいい」と言われる容姿を武器に、かつて「男の娘AV女優」として人気を博した大島薫さん。女性ホルモン投与も手術もしない「ノンホル・ノンオペ」を貫く理由や、「もはや女装はしていない」という言葉の意味、そしてあのスキャンダルの真相は……。AV引退後、マルチタレントとして活動する大島さんが、自身の過去・現在・未来を語りました。
――お生まれはブラジルですね。
そうですね。おじいちゃんの代でブラジルに渡って、父母が生まれて、ボクなので、日系3世という言い方になるのかな。2歳の時に日本へ移り、大阪で育ちました。
ブラジルの思い出といえば、5歳ぐらいで一時帰国した際に、家族で2泊3日のクルージングツアーに参加したこと。スペイン人の一家と仲良くなって、船内で一緒に行動していました。向こうのご家庭には、ボクと同じぐらいの男の子とキレイなお姉さんがいて。
甲板にあるプールで遊んでいると、そのお姉さんがプールから上がってきたんです。そうしたら上半身に何も着ていなくて……。ブロンドの長い髪の毛でキレイな顔立ちをされていたので、てっきり女性だと思っていたんですけど、実は男の人だった。その時、見てはいけないものを見たような気になっちゃったんですよね。
――その光景が大島さんにとっての原体験になっているのでしょうか。
どうでしょう。いま思えばそうなのかな。「なんだ、男性だったのか」じゃなくて、「見てはいけないものを見た」と感じたっていうことは、元々そういう素養があったのかもしれません。
――女装のキッカケとして、ネットとの出会いが大きかったそうですね。
オタク気質な父親の影響で小さい頃からパソコンには触れていたのですが、中学1・2年生ぐらいから個人ホームページがすごく増えてきたんですね。思春期ということもあって、アダルトな単語についても検索するようになって。なかでも興味を持ったのが、見た目は女性なのに男性器がついているマンガのイラストでした。
実際にこういう人がいるのかな?って調べたんですけど、現実に存在するインターセックスの方々は、イラストに描かれているものとはちょっと違う。女の子で完全な男性器がついているというイラストは、フィクションなんだと知りました。
それじゃあ、女の子に限りなく近い男性はいるのかな、ということで女装についても調べました。でも、当時の女装はマニアックの極みのようなところがあって、調べて出てくるのはおじさまばかり。50代・60代で時間にもお金にも余裕のある人たちの世界だったんですよね。
一部には若くて女装をしている子もいたんですけど、そういう子ってやっぱり珍しいから、アイドル的な感じで「エロ目線では見られたくない」という思いが強い。もともとエロが原動力になっているボクからすると、「脱いでくれないと、カワイイ顔だけなら女の子でもいいじゃん」って思っちゃうところがあって……。
3次元の世界には、なかなか理想の子がいない。いないなら自分がやろうかな、という思いが生まれました。
――高校から芸術大学への進学を目指しながらも挫折し、卒業後はゲイビデオに出演しています。
ゲイビデオの方は、そもそも高い志を持って行った世界ではなくて、単純に金銭的な理由でした。19歳の時に両親がブラジルに帰るという決断をして、その日からいきなり一人暮らしが始まってしまった。
国籍は外国人なので、住所を失うことに対する怖さがあるんです。ふつうの日本人なら、家を追い出されても実家に帰るとか方法がありますけど、ボクの場合、その選択肢はない。何としても家賃だけは払い続けないと、という思いがありました。
――その後、大手AVメーカーと専属契約し、「男の娘AV女優」として活動を始めました。
有名になりたいと思って、AVってものをいろいろ勉強しました。AV女優が1万人いたとして、専属契約できるのは全メーカー合わせて数十人。「専属女優になって名を上げたい」とかって言い出したら、人は笑うわけですよね。「男でしょ」って。でもボクには、うまくいくんじゃないかという変な確信があって。
当時のAVのパッケージには「純粋な男性で初めて専属契約を結んだ」とうたわれました。ニューハーフさんでも戸籍を変えていなければ男性のAV女優ということになりますから、「男性で初めて」というわけではありません。女性ホルモンの投与や手術をしていない男性では初、という意味ですね。
――女性ホルモンの投与や性別適合手術をしない「ノンホル・ノンオペ」にこだわるのはなぜですか。
ボク自身、元々は女装をする気がなくて、ただそれを見るのが好きな人間でした。「いないなら自分がやってみよう」ということで始めたので、目線がお客さんと同じなんですよね。いろんな趣味はあると思うんですけど、ボクが好きなのは、顔が女の子、もしくは女の子よりもかわいくて、男性器がしっかり機能する子。でも、一般的にホルモンを打つと男性機能は弱まると言われています。それがボクとしては一番困る部分です。
ニューハーフさんや当事者の方には「こっちは真面目に女性になろうと思って努力しているのに、とんでもないことを言ってる」と受け取られてしまうかもしれない。だけど得てしてエロってそういうものなんです。そういうものを求める人間がいるという事実は、きれいごとだけでは見えてこない気がします。
ただ男女がイチャイチャしている姿を見るだけで興奮できる人もいるし、それでは全然ダメだという人もいる。エロってちょっとの不謹慎さと少しの違和感がすごく大事なんですよね。やっぱりエロは社会とともに形成されてきたものなので。
――当たり前ですが、ニューハーフや性同一性障害の方々がホルモン投与したり、手術したりすることを否定しているわけではないんですよね。
そうです、そうです。立ち位置が違うってことですね。
――いまだに「女の子になりたいんですか」と聞かれたりすることもあるのでしょうか。
この見た目で生活してますから、初めて会った人は基本的にそう思うでしょうね。そういう時、ボクはひとこと「いや、好きなもの着てるだけなんで」って言ってます。本質的には人間ってみんなそうだと思うんですよ。
服を買う時に男性は紳士服店、女性は婦人服店に向かいますが、そのなかでも形がいいものとか素材がいいものとかを選んでるわけですよね。突き詰めると、女性であっても紳士服に好きなものがあれば着ればいいし、男性も婦人服売り場に気に入ったものがあれば買えばいい。
だからボク、男物を着ることも全然あるんですよ。もはや本質的には「女装」ではないんですよね。「女を装う」っていう字には当てはまらない。
――性指向としては「パンセクシュアル(全性愛)」を自認されています。
服と一緒ですよね。この人は男だから好きにならないとか、この人は女だから絶対にそういうことにはならないって生きていくのは、無意味だなって思うので。好きな服を着て、好きな人を好きって言ってるだけなんですよ。
――ご両親から何か言われたことはありますか。
この見た目で生活していることは両親も知っています。母親から「気持ちは男性なのか、女性なのか」と聞かれたので、「気持ちは男だよ」って答えて。それは別にウソではないので。そうしたら「安心しました。ただ、もし『心は女です』と言ったとしても、認めるつもりでいましたよ」と返信がありました。ブラジルはカトリックが多く、同性愛的なものには厳しいので、すごい決断をしてくれたんだなと思います。
――「ボク」を一人称に使っている理由は。
単純に自分が言いやすいからっていうのがひとつ。「私」って言うのに慣れなかった。もうひとつ打算の部分もあって。ボクが自分の見た目をどんどん女性に近づけていけばいくほど、女性と変わらなくなっちゃうんですね。
AVの場合は脱いでるから、男性であることの絶対的な証拠があるわけですけど、後々テレビとかメディアに出ることを考えた時、服を脱がなきゃもっとわからないだろうと。だから、さっき言った「少しの違和感」を残す意味で「ボク」と名乗ってます。女の子になりたいと思われがちなので、そこへの否定という意味もありますね。
――ライターの九龍ジョーさんが大島さんについて書いた文章に「あなたの鏡になってあげる」という印象的なフレーズが登場します(『メモリースティック』〈DU BOOKS〉)。
女装って不思議なジャンルで、見ている側は第三者でもあり、当事者でもあるんですよね。だから女装男子好き、ニューハーフ好きの人って、その人に対して「かわいいな」「エロいな」と感じる半面、自分もこうなったらどうなるんだろうっていう思いをどこかに抱えていたりもする。
それってある種、「男性」として捉えている部分もあると思うんです。完全に女性だと、「もう別物」っていう感覚になっちゃいますけど、自分と同じ男性器があるからこそ、自分自身を重ねられる。攻められる側になってみたいとか、女性のような役をやってみたいとか……。エロって自分の本質と向き合うものですから、そこを通して自分を見ているんじゃないでしょうか。
――大島さんがある種のクエスチョンマークとして存在することで、見る側は性別って何なんだろうとか、自分はどうなんだろうと考えますよね。
まあ、言ってみれば世界自体が不確かなもので形成されてますからね。よく考えるんです。この世界は、みんなが「ある」と思い込んでいるからあるのかもしれない。たとえば、取材の前にコーヒーをコップに入れてお渡ししましたけど、本当はここには何もなくて、ただボクがコップがあると思い込んで、コーヒーを入れたと思い込んで、机の上に置いたと思い込んで動いたから、記者さんもそう思い込んでコーヒーを飲まれたんじゃないかなって。性別っていうものも、そんな風に不確かなものなんじゃないでしょうか。
見る人が見て、とらえた姿がボク。「君はやっぱり男だよね」という人がいれば「いや、君は女の子だよ」という人もいていいんだと思ってます。
――昨年末、週刊文春で堀江貴文さんの「新恋人」として報じられました。記者の質問に対して「愛情なんて不思議なものですからね。友情も愛情のうちですし、同性でも愛情はある」と答えていて、ああ大島さんらしいな、と思いました。
だって、友情も愛情じゃないですか。職場ですごく信頼し合っている上司と部下がいて、上司が「お前のことは俺が守ってやるから」みたいなことを部下に言ったとして、そこまでいくと愛情なんじゃないかなって。セックスをする、しないが愛ではないですよ。
まあ、「新恋人」っていう表現はちょっと飛躍し過ぎたんじゃないかなとは思いますけど。恋人ではなくお友達ですね。
――しかし、文春砲すごいですね。
次々に写真とか証拠を出されて、否定できないところまで追い詰められてしまって。でも後で思ったのは、無視して行けばよかったなと。堀江さんにはごめんねって謝りました。
――2015年にAVを引退し、タレント活動に踏み出しました。今後の抱負は。
ボクは概念的な存在になりたいんです。「大島薫」っていう概念になりたい。みんなの普遍的な悩みとして、老いや寿命、病気なんかが挙げられるじゃないですか。そういう悩みに対して、概念的な存在になることで脱却したいっていう思いがあるんですよね。
――え!? まさか死んだりしないですよね。
ああ、そうではなくて、死とはむしろ逆ですね。生きて、寿命の間にできる限りボクっていう存在を確立させたいんです。イメージ的には、歴史上の人物のような感じ。名前だけが一人歩きするような、そういう存在です。そうやって、「大島薫」がずっと生き続けていく。ボクのなかではそれが、人生の答えとして決まっていて。
単に有名になるためであれば、テレビに出やすいようにオネエキャラをつくることもでる。「いままでと違うじゃん」ってファンは離れるかもしれないけど、知名度は上がるでしょう。でも、そういうことじゃないんですよね。
――「概念」の意味するところについて、もう少し詳しく説明していただけますか。
概念っていうのは、考え方とか言葉みたいなもの。ボクのなかにあるものが相手に伝わって、それが返ってきて、ボクのなかにまた違った形で採り入れられていく。お互いに意識の交換をしているわけです。
たとえるなら、ボクのなかにあるオモチャ箱から他者がオモチャを取り出して、新しいオモチャにつくり替えてボクに返してくるようなイメージですかね。そうやってオモチャの改良作業を続けていくと、多分もうつくり変えられない形ができて終わるんだと思うんですよ。で、それが宗教とかでいうところの「真理」っていうものなのかなって。
世界全体がそういう方向に向かっていて、大島薫っていう名前を見つけるボクの人生も、そのなかの一部なんだと思うんです。
ある種、中二病みたいな感じですけどね。よくいるじゃないですか、いい年こいて「俺は神様になりたい」みたいな。概念なんて言うと、「いやいや何言ってんの、無理でしょ」って笑う人もいます。でもボクは大島薫っていう活動を始めた時から、確信めいたものを感じてるんです。もし実現できなかった時には、この記事を読んで後世まで笑い継いでいただければ(笑)。
〈おおしま・かおる〉 1989年、ブラジル生まれ。女性と見まごうような容姿を生かし、男性でありながらAV女優デビュー。2015年の引退後も、タレント・作家・文筆家として幅広く活躍している。ツイッターのフォロワーは19万人超。著書に自伝『ボクらしく。』、『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちイイこと』(いずれもマイウェイ出版)など。作詞・作曲を手がけたCD「夢色パレット」も発売中。
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