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IT・科学

がががさんからの取材リクエスト

JASRACは、なぜ嫌われるのか?



JASRACは、なぜ嫌われるのか? 音楽ユーザーの自由狭まり「悪者」に

楽曲の使用について詳しい説明が掲載されているJASRACの公式サイト
楽曲の使用について詳しい説明が掲載されているJASRACの公式サイト

目次

取材リクエスト内容

JASRACの目的、活動意義などを直接お聞きして欲しいです。当団体側の声が聞こえないままネット上では批判も強くなってると思うので是非お願いします。 ががが

記者がお答えします!

 日本の音楽著作物の管理をほぼ一手に担う日本音楽著作権協会(JASRAC)。音楽作品の流通を支えてきたはずが、時に音楽ファンから「利権の親玉」として批判されます。そんな「ジャスラック嫌い」が盛り上がる中、専門家は、より深刻な著作権制度を巡る「秘密交渉」の問題を指摘します。国際日本文化研究センターの山田奨治教授に聞きました。

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国際日本文化研究センター教授の山田奨治さん
国際日本文化研究センター教授の山田奨治さん 出典: 朝日新聞

JASRACがあって助かった?

――「JASRACはなぜ嫌われるのか」。シンプルかつ刺激的な問いが編集部に届きました

 最初に言っておきますと、私のような学術書を書く人間からすれば、JASRACがあって助かっている部分があるのは確かです。

 本に歌詞を載せようと思った場合、ほとんどの楽曲を集中的に管理しているため、権利者を探す手間がない。その上、利用料はとても安い。これが写真だったら、権利者を探すのに一苦労、許諾を得るやりとりに時間がかかる。その上で、1点何万円といった高い使用料を請求されることも珍しくない。採算が合わず、写真が不掲載になることもある。有料の講演でテレビCMの動画像を使おうものなら、権利関係が入り組みすぎて、手間と費用は写真の比じゃない。

――他の著作物はバラバラに管理されているのに、音楽だけどうして集中管理されているのでしょう?

 昭和初めにプラーゲ旋風があったからです。

 日本在住のドイツ人プラーゲ博士が、日本におけるヨーロッパ音楽家の著作権管理団体の代理人を名乗って、放送局に法外な使用料を請求した問題です。『これはまずい』と国内で大騒ぎになり、法律を制定するなどして、音楽の権利を一カ所に集中して管理する団体を生むようにしたのです。それがJASRACの前身です。

――プラーゲ博士を閉め出す中で、先進的なシステムが生み出された格好ですね

 著作権の処理料金・コストを大幅に下げることは、著作物の円滑な流通に有効です。実は世の中の流れとしては、他の著作物もJASRAC的な集中管理方式に、向かう力が強くなっているんですよね。

戦前に活躍した真空管ラジオ。JASRACの起源は昭和初期にさかのぼることができるという
戦前に活躍した真空管ラジオ。JASRACの起源は昭和初期にさかのぼることができるという 出典:https://pixta.jp/

取り立てが厳しくなった理由は?

――それなのにJASRACはいつからか嫌われもののイメージがついた。不思議です

 JASRACには、著作権法などに基づき、作品の無断利用者を告訴し、訴訟できる権限がある。1980年代後半から、無断で楽曲を営業で使っていたカラオケ店やダンス教室、民謡教室といった零細事業者に、徹底的な請求を始めました。件数が増えるに従い、批判も出始めたわけです。

――なぜ80年代後半からなんですか?

 88年に「カラオケ店で、音楽という著作物の利用行為の主体は、歌っている客ではなく、カラオケ装置を設置するお店だ」という判決が最高裁で確定したのです(クラブキャッツアイ事件)。

 その結果、カラオケ店など零細事業者への権利要求のアプローチが容易になり、取り立てが厳しくなった。団体の知名度も上がりましたが、批判も一気に高まった。

 彼らがいろいろ言われるのは、やはりエンドユーザーをむいて仕事をするからでしょう。警察でもない民間団体が著作権Gメンのごとく、法に基づくとはいえ、時に訴訟をちらつかせながら、零細事業者らからお金を集める。かつ収益も随分ある。となると「何だあの団体は」となるのも自然です。

個室のレーザーカラオケボックスでカラオケを楽しむ女子高校生=1989年
個室のレーザーカラオケボックスでカラオケを楽しむ女子高校生=1989年 出典: 朝日新聞

公平に著作権料を負担、なぜ反発?

――でも、公平に著作権料を負担してもらいたいのがJASRACの言い分。理解できなくもない

 もちろんです。一方で、音楽を楽しむ側からすれば、「(酒場で好きな曲を歌うだけなのに/この曲に合わせて踊りたいだけなのに)なぜお金を払わなきゃいけないんだ」となる。

 生きていく上で生まれる「歌いたい」「音楽で踊りたい」という内的欲求に、お金を支払うことへの違和感。さらに言うなら、表現の自由、人権に関わる問題も孕んでいる。いくら「法的にこうだ」「著作権意識が大事」と言っても、人々の生活実感と合わない。そういう次元の問題がありますからね。

――近年では零細事業者以外に、音楽ユーザーもいい顔をしません

 激しい取り立てで、「著作権と言えばJASRAC」みたいなイメージというか、公式が社会に浸透しました。それと並行して、その著作権法自体が、ユーザーではなく、権利者を保護する方向で何度も改正されたからではないでしょうか。

【私的に楽しむためのコピーが許されないケースが広がった】
【違法ダウンロードの違法化や刑事罰化ができた】
【楽曲をコピーできる機器全てに補償金をかける議論もくすぶっている】

 そうやって、音楽を楽しむユーザーの自由度が狭まっていったわけですから。

今では当たり前になった楽曲のダウンロード
今では当たり前になった楽曲のダウンロード 出典:https://pixta.jp/

ネットの普及の影響もある?

――音楽なら、ヒップホップやクラブ音楽のように、既存の楽曲を使って新しい音楽を生み出すリミックス文化やサンプリング文化が普及するなど、新しい作品観が生まれています。また、ボカロやMAD動画など、ユーザーが音楽を気軽にネット配信できる新たな文化実践も普及している。でも、今の著作権制度は、そんな動きに対応できておらず、居心地の悪さを指摘する声もあります

 才能もった天才が神から与えられた能力によって表現を新たにクリエイトする。それに対して期間限定的に独占権を与える。これが著作権制度のベースにあります。神のごときクリエイションをした者に報酬を与える。さらにいえば、それを頒布する人に対する、頒布ビジネスを成り立たせるためのシステムなんです。

 だから、すでにある何かをコピーしながら作ったものは、著作権法が保護する対象のイメージ【独創的な表現】とは少し違うわけです。でも、創作とはそもそも、先人が残したものから、新しいものを作るわけですよね。偉大なアーティストでも、参照は普通の行為です。ここに、著作権制度が内在する矛盾がある。それがデジタル時代に一気に顕在化した。

スペインのイビザ島でDJの曲に合わせて踊る人たち=ロイター
スペインのイビザ島でDJの曲に合わせて踊る人たち=ロイター

JASRAC批判で満足している場合ではない?

――やはり問題の根っこは著作権制度であり、JASRAC批判で満足している場合ではないですね

 著作権法は、あまりにも複雑で、それを厳格に適用したら社会が回らなくなる法律です。主に技術の進歩で著作物のいろんな利用形態が出てきたのに伴い、つぎはぎを重ねてきたのだけれど、もう条文が入り組みすぎていて全体像がわからなくなっている。私も細部まで理解しようとしたけど、さじを投げた。しかも、あまりにも利害関係が複雑化しすぎて、ゼロから作り直せない状態ですよね。

――しかも、その法改正が、ユーザー側の利便性よりも、権利者側に配慮する形で繰り返されてきた。改正のプロセスに国民がコミットしにくい構造もあるわけですよね。山田さんも、著作「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」などでその点、指摘されてきました

 確かに、法改正のプロセスでそうした問題はありますが、実は、今から振り返ると、著作権の法改正議論は、一応国内でちゃんとした場所で議論し、そのプロセスは透明性が担保され、事後検証は可能ではあったんです。

参院第一委員会室で議論する国会議員
参院第一委員会室で議論する国会議員 出典: 朝日新聞

――えっ!? つまり、今やプロセスすら可視化されない状況が到来していると?

 先日関連法が成立したTPPの問題です。米国がTPPを批准しない方向で、関連法自体このまま施行されずに終わるかもしれませんが、それはともかくとして、こちらは完全に秘密交渉だった。自国の著作権のあり方について、政府の少数の役人が交渉で勝手に決め、国内法を強引に変えようとしたのです。

 しかも、今回の改正に盛り込まれたいくつかの点は、国内議論では棚上げされていた議論なんですよ。「著作物の保護期間の延長」「非親告罪化(「被害者が訴えなくても罪になる」)」「法定損賠賠償制度(「賠償額を実損害ではなく制定法で定めるもの」)」……。それらを外国との秘密交渉で全部やってしまった。大問題ですよ。

環太平洋経済連携協定(TPP)の参加国の大使らを招いた会合で、あいさつする石原伸晃担当相=2016年12月13日、首相官邸、岩下毅撮影
環太平洋経済連携協定(TPP)の参加国の大使らを招いた会合で、あいさつする石原伸晃担当相=2016年12月13日、首相官邸、岩下毅撮影 出典: 朝日新聞

本当に問題なのは?

――著作権を巡る状況が、秘密交渉で決まっていくという新たなフェーズに突入したわけですね。

 そうです。とはいえ、2013年に安倍首相がTPP交渉参加を表明し、それまでにリークされていた知財部分の条文案に非親告罪化が盛り込まれていることがわかった時、コミケ系の人たちがびっくりして「問題だ」と声を上げました。

 その怒りは国会にも伝わった。論戦の中で「コミケ」という言葉が使われ、首相から「コミケ文化は守らなければいけない」という趣旨の発言も引き出した。少し前なら、考えられなかったことです。最終的には、非親告罪化の問題については、改作やパロディーによる「二次創作」は対象外となった。

多くのアニメファンでにぎわうコミックマーケット=東京・有明の東京ビッグサイト
多くのアニメファンでにぎわうコミックマーケット=東京・有明の東京ビッグサイト 出典: 朝日新聞

――声を上げなければ大変なことになっていたわけですね

 昨年7月の参院選挙で落選はしたものの29万票を獲得した、山田太郎さんが、そうした声をすくい取って、国会で活動していた。ネットって票にならない、特にユーザーのための著作権政策なんかに力を入れた議員は落選する、とまで思われていたが、落ちはしても29万票ですよ。

 著作権を巡る動きが、より私たちの預かり知らない中で進められる危険性がある時に、こうした潜在的な力には、インパクトがある。JASRAC批判に終始せず、著作権を巡る状況に声を上げることは、これからの時代、本当に意味あることだと思います。

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