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「LGBT『生理的にダメ』と言えばいい」 熊谷・千葉市長の真意は?
各地でLGBT(性的少数者)を受け入れる動きが少しずつ広がった今年。渋谷区以外にも、三重県伊賀市や兵庫県宝塚市でも同性カップルを「パートナー」として認める制度が始まりました。そんな中、同性のパートナーがいる市職員向けの制度を発表した熊谷俊人・千葉市長が、LGBTに批判的な意見に対して「もっともらしい理屈を用いるのではなく『生理的にダメ』と言えば良い」と発言、注目を集めました。発言の真意は何だったのか? 市長に聞きました。(朝日新聞千葉総局・湊彬子)
ツイッターは2016年11月11日に投稿されました。
千葉市が、同性のパートナーがいる市職員がパートナーとの「結婚」や介護時に休暇がとれる制度を、来年1月に始めると発表。この取り組みに対するツイッター上で「少子化を推進している。子供が出来ないカップルを奨励している」との批判に、熊谷俊人・千葉市長が反論したのです。
性的多様性についてもっともらしい理屈(多くは整合性が取れていません)を用いるのではなく、単純に「生理的にダメ」「気持ちが整理できない」と言えば良いと思いますし、それは別に責められるべきものではありません。
— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2016年11月11日
「本当に悩んでいる方々からすれば、社会が同性愛を認めなかったとしても、異性愛に行くというのは基本的に無理なわけですよ。そういう意味では少子化に直結する話にはならないと思うんです。そこはロジカルに、分解して考えた方がいい」
熊谷市長は「理屈抜きにノーと言っていることを(発言した人に)自覚して欲しいんですよね」と話します。
「同性愛を推奨するのと認めるのは違う話なので、そこは理解してほしい」
その後の市長の「社会・人はそんなに急激には変われません。嫌悪感の表明すら認めないのでは、かえって相互理解を阻害すると考えます」という投稿は、当事者への攻撃の容認になるという批判も受けました。
そのことについて熊谷市長は「生理的嫌悪を表明すべしと推奨しているわけじゃない。完成度の高い文章にすべきだったという反省はあります」と話します。
多くのご意見ありがとうございます。性的多様性を話し合う際に、嫌悪感を抱く方の意見を抑制せず、その上で課題を抱える方への理解と権利擁護を促す必要があるという趣旨でしたが、当事者に攻撃的に向けられることを認めるかのように受け取られた方も居ることから、誤解を招く表現であったと反省します
— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2016年11月12日
嫌悪感の表明は認めていかざるをえないと考えるのでしょうか?
「アンタッチャブルな事案となってしまえば、マグマのように不満がたまる。それは危険だと思いますね。嫌悪感を吐露してしまうのはやむを得ない。ただし、それがマナーとしてどうみられるかということは別問題です」
どんな不満がたまると感じているんでしょうか。
「権利っていうのが特権に書き換えちゃう人が一定数いる。その人たち(性的少数者)が不利益を被っていたことに対する理解が足りていないゆえに、プラスアルファを得たのではないかと思われてしまう」
市が職員に対して導入する取り組みは、現在は事実婚の職員にも認めている内容です。
「理屈として納得しやすいルートから積み上げていくのが私は大事だと思う。事実婚と同じ権利はどうみるんですか? っていう。これは社会にとって不利益にならないし、あなたにとってもリスクは少ないですよね?、と」
熊谷市長は以前、千葉市内であった催しで、同性愛に違和感を持っている人に理解を広めるためには「生活者の目線の中で、『たしかにこれは不便だよね』『同じようにしていいんじゃない』という事例を積み上げていくこと」が効果的だと発言しています。
2015年に渋谷区、世田谷区が同性カップルを「パートナー」と認める制度を始めてから、同様の制度は各地の自治体が採り入れ始めています。
「渋谷とかは全肯定しますよ。同性パートナーシップ制度は素晴らしい問題提起になりました」
「けど、異性でもパートナーシップでよかったんではないかと思うんですよ。僕らが仮に自治体でやるとするならば、同性カップルだけを対象にしたのは、やはり誤解を招く。方向性とすると、どんなパートナーであっても認めていく」
「そうなると、なんでパートナーを支援するんですか?という議論に入ってくる」
①早起きしたのでLGBT関係で私が悩んでいることを一連ツイートで書きます。LGBTへの理解が進むと行きつく先の一つは同性婚だと思います。私自身は賛成側ですが、「そもそも行政がパートナーを認定し、独身者と違い税制や権利等で特権を与える意味は何か」という問いに行き着きます。
— 熊谷俊人(千葉市長) (@kumagai_chiba) 2016年11月14日
一連のやりとりの後、「同性婚には賛成側」としつつ「行政がパートナーを認定する意味は何か」という悩みをつぶやいています。
「そもそも婚姻に認めている権利、優遇、補助は何のためにやっているんだろうか。異性婚に関しては、子どもを生み育てる確率の高い母集団として、かつ相互扶助という、社会の安定性と社会の持続性という2面からおおむね社会全体の理解を得て支援が行われているわけです」
「これが、同性を支援した瞬間に、里親とかありますけど基本的には子どもが生まれない状態が大勢である状態を支援するの? そもそも、なんで行政に結婚認めてもらわなきゃいけないんだっけ? って話になってくる」
パートナーシップの制度を全国に広げるにあたり、熊谷市長は現状の婚姻に関連する制度が「相互扶助の支援」なのか「子育てをする人間の支援」なのか、行政が整理すべきだと指摘します。
千葉市という自治体のトップとして、どういう社会をつくりたいと考えているのか?、聞きました。
「私は、人の生き方が社会にとって著しくマイナスにならないなら、色んな生き方に対し、多様性として認められる社会であるべきと思います」
熊谷市長は「婚姻制度そのものが社会として大きく変わっていかざるをえないと思うんですよね」と言います。
「私たちは一体何を大事にしたいんだろう。戸籍制度のようなものなのか、それとも社会が安定的に持続的に続いていくことそのものなのか」
「慣習とか伝統とかに人間がひれ伏すというのは、ちょっと違うと思うんですよ。価値観というのは時代の進みによって変わっていくものだと思います。この辺が難しいんですけどね、いい機会なんですよ。僕たちはもう一度、家族のあり方とか、人と人との生き方、パートナーというものを考えるべきだなと思います」
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