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熱心な部活動、長時間労働の「温床」に…3千円払うから「休ませて」
とある週末。その中学校教諭と会う約束は「午後」だったが、結局、夜になった。「今日も部活動の関係でいろいろあって……。部活は問題が多すぎます。長時間労働問題として伝えてください」。神奈川県の公立中に勤務する20代の男性教諭は注文したカフェオレに口もつけず、「ブラック部活」の業務実態を一気に話し始めた。電通の過労死問題で、長時間労働が問題視される中、学校の教員からも悲鳴が上がっている。(朝日新聞編集委員・中小路徹)
「保健体育ではない教科」を教えるこの教諭は、ある球技の部の顧問を務める。平均的な平日のリズムはこんな感じだ。
朝練で8時前に出勤。8時半から午後3時まで授業。午後3時20分くらいから部活の練習に出て、今の時期は最終下校の午後5時、夏場は午後6時半までつきあう。それから授業の準備、生徒のノートチェック、ミニテストの採点、その入力などの仕事をこなす。これらがだいたい2時間かかる。書類上の勤務時間は午前8時半から午後5時までだから、日々3~5時間、残業していることになる。
教諭にこの競技の経験はない。練習の一部は外部コーチに任せるが、練習中に職員室で業務をこなしていると、「先生、みんな部活に出てますよ」と同僚から“圧力”がかかる。
土日は公式戦がない限り、どちらかは「顧問権限」で休みにする。だが、自身は大会役員にも顔を連ねるため、一カ月に3、4日休めるかどうか。今年の8月は夏季休業中にもかかわらず、一日も休めず、過労で倒れた。
部の実力は神奈川県で中堅の位置する。「練習試合など、もっと活動してほしい」という生徒や保護者の声が、各クラスの担任や管理職を通じて聞こえてくる。土日の手当ては4時間以上で3千円前後と、これまた割に合わない。逆に、「その3千円払うから、休ませてくれ」が本音だ。
男性教諭は、部活動の必要性は感じている。「特に勉強が得意じゃない子には、部活は大事な居場所となる。自分もその思いに応えたいから、部活の現場に立っています。でも、エネルギーが有り余っている中学生に、顧問が全部つきあうのは無理。外部コーチに多くを任せられる仕組みが絶対的に必要です」と強い口調で話す。
スポーツ庁が今月15日、全国体力調査で調べた中学の運動部活動の休養日設定状況によると、学校の決まりとして1週間の中で休養日を設けていない学校が22.4%、土日に設けていない学校が42.6%あった。
教員の過重負担の問題などから、文部科学省は全校に休養日の設定を提案しており、この調査結果も参考にして、休養日数の基準などを示すガイドラインを来年度中に作ることにしている。
だが、男性教諭は「ガイドラインじゃ、誰も守りません。守る義務がないんですから」と冷ややかだ。「部活を、学校の施設を使った地域クラブの活動として切り替えるなど、大胆にメスを入れるまでにならないと変わらないでしょうね。自分のように経験のない競技を持たされると、教えられないから生徒も不幸。そういう意味でも、地域クラブとして外部に指導を任せる形態が理想です」
顧問が熱心な他の運動部では、数カ月間、まったく休養日がなかった部もあるそうで、「その部の生徒は毎日、疲れ切っていますよ。勉強する時間もなければ、家族旅行もできていない」という。
「それでも、毎日練習している部が、なぜか学校の中でヒエラルキーが高い。結局、社会問題になっている長時間労働の温床は、中学の部活動にあるんです。この時期に、長くやるのはいいことだと刷り込まれているんです」
取材が終わり、駅に向かう道すがら、男性教諭は「話を聞いてもらっただけでも、すっきりしました」と話した。「職員室は雑談ゼロです。みんな、話している暇があったら雑務を片付けたいから。砂漠ですよ、砂漠。ただでさえ、部活のことについては、胸の内を互いに牽制(けんせい)し合いますしね」
空気が読めない人間になりきれない若いその教諭は、「明日は休みましょう!」と言って、雑踏に消えていった。
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