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もうやめてー「ヤギの呪い」 カブス悩ます「都市伝説」子孫に直撃

呪いをかけた先祖を持つトム・シアニスさん(左)。テレビ出演のため、インディアナ州で飼っているというヤギ「マーフィー」を店に連れてきたという
呪いをかけた先祖を持つトム・シアニスさん(左)。テレビ出演のため、インディアナ州で飼っているというヤギ「マーフィー」を店に連れてきたという

目次

 日本シリーズは日本ハムが10年ぶりの日本一に輝きましたが、海の向こうでは大リーグのワールドシリーズ(WS)が佳境を迎えています。そのWSに1945年以来71年ぶりに進出したシカゴ・カブスを長年悩ませてきたのが「ヤギの呪い」です。一体、それって何なのか。シカゴに「呪い」の一族を訪ねてみると……。(朝日新聞スポーツ部記者・遠田寛生)

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「二度と勝てない」オーナーに吐き捨てる

 「ヤギの呪い」の事件が起きたのは1945年、カブスの本拠で行われたWS第4戦でした。カブスの熱心なファンだったビリー・シアニスさんが、ペットのヤギ「マーフィー」と一緒に観戦に訪れたところ、臭いを理由に入場を拒否されました。これに腹を立て、当時のカブスのリグレー・オーナーに「them Cubs will win no more(カブスは二度と勝てない)」と吐き捨て、呪いをかけたと言われています(諸説あります)。

 カブスはこの年、第7戦でタイガースに敗れます。そして今シーズンまで70年もの間、WSに出場することすらできなかったのです。この間、WS進出をかけたプレーオフに進んだ年は7回ありますが、すべて敗退しています。最後にワールドシリーズを制覇したのは1908年。108年も前にさかのぼります。

シカゴ市内「ビリー・ゴート・タバーン」の店の裏にはこんな絵も描かれている
シカゴ市内「ビリー・ゴート・タバーン」の店の裏にはこんな絵も描かれている

「またしてもヤギの…」

 「呪い」のせいとしか思えない悲劇も繰り返されてきました。2003年のリーグ優勝決定シリーズもその一つです。3勝2敗と王手をかけて臨んだ本拠での第6戦。3点をリードした八回1死二塁で、左翼にファウルフライが飛びます。カブスの左翼手が捕球しようとしたその瞬間、手を出してきた地元ファンに邪魔されボールを取り損ねました。

 するとこの打者が四球で出塁し、そこからまさかの8失点で敗戦。第7戦も落としてWSの切符を逃す結果になったのです。そしてファンたちはこうつぶやかれました。「またしてもヤギの呪いのせいだ」と。

 71年ぶりにWSの舞台に立てた今シーズン、いよいよ呪いが解かれると地元でも話題になりました。一方で「WSに進出した時点で呪いは解けている」という説が一部で浮上し、解釈が分かれました。一体どちらが正しいのか。情報を求めて、ビリーさんのおいの息子であるトム・シアニスさん(40)を訪ねました。

店内に描かれたヤギ「マーフィー」
店内に描かれたヤギ「マーフィー」

「客から臭うと嫌がられて追い出されたんだ」

 トムさんは現在、シカゴ市内にある居酒屋「ビリー・ゴート・タバーン」のオーナーの一人です。ビリーさんが作った店を、きょうだい5人と一緒に運営しています。商売は繁盛していて、シカゴのあるイリノイ州に8店舗、ワシントンDCに1店舗あるそうです。

 呪いは解けたのかどうか。トムさんの意見は明快でした。「二度と勝てないというのは、チャンピオンシップ(王座決定戦)を指すから、やはりWSを勝たないと呪いは解けないと思う」

 さらに、世間に伝わる呪いの本当の経緯を教えてくれました。「大叔父(ビリーさん)は実際は四回まで球場の中にいて試合を見ていたんだ。そこで周りの客から臭うと嫌がられて追い出されたんだ」

 ヤギの「マーフィー」は当時、幸運を呼ぶマスコット的な存在として周囲から人気もあり、ビリーさんは色々な場所に連れて出かけていたそうです。ヤギはシアニス家にはとても大切な存在で、トムさんも「幼少のころから触れ合って育った」と話しています。今もイリノイ州の隣にあるインディアナ州で飼っていて、なんと「マーフィー7世」もいるんだそうです。

ノース・ミシガン・アベニューにあるこの標識がある階段を下がっていくと居酒屋「ビリー・ゴート・タバーン」がある
ノース・ミシガン・アベニューにあるこの標識がある階段を下がっていくと居酒屋「ビリー・ゴート・タバーン」がある

日本では「カーネル・サンダースの呪い」

 呪いをかけた人の親族としてこれまで批判や、嫌がらせを受けたことがないかと聞くと笑顔で否定しました。「全くない。シカゴの人たちは、この話をカブスの歴史の一部としてとらえてくれている」

 これまでも、野球と呪いの話はいくつか話題になっています。大リーグでは、レッドソックスが看板選手のベーブ・ルースをヤンキースにトレードで出した後、2004年まで86年もWSで勝てず「バンビーノ(ルースの愛称)の呪い」と騒がれました。

 日本のプロ野球では、1985年にリーグ優勝した阪神に「カーネル・サンダースの呪い」がありました。85年を境に長期低迷した理由は、優勝後に大阪・道頓堀川に投げ込まれたケンタッキーフライドチキン(KFC)のカーネル・サンダースの人形の呪いだ、という都市伝説です。

24年間ヘドロに沈んでいたカーネル・サンダース人形=2009年3月11日
24年間ヘドロに沈んでいたカーネル・サンダース人形=2009年3月11日

「今年こそ呪いを終わらせて」

 カブスも含め全て人気球団で熱狂的なファンが多いからこそ、話が定着したのかもしれません。ただ、首脳陣や選手が気にすることはないようです。カブスの主力で24歳のブライアントは「自分たちは若すぎるので、全く気にならない」と笑い飛ばしていました。

 カブスは30日、第5戦を3―2で勝利し、対戦成績を2勝3敗としました。本拠でのWSでの勝利は、45年10月8日の第6戦以来。また一つ歴史的な日を迎えました。

 ただ、108年ぶりのワールドシリーズ制覇には残り2試合一つも負けられません。それでも可能性は十分残っています。トムさんも「今年こそ勝って呪いを終わらせて欲しい。自分たちも応援している」と期待を寄せていました。

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