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本当にあった魔球ジャイロボールマシン 自信作でも…なかなか売れん
ジャイロボールを知っていますか。アメリカンフットボールのパスのように、ボールの進行方向に回転軸が向いている、という球です。なんだか小難しいですが、野球漫画ではよく出てきます。「MAJOR」では、主人公の吾郎が投げていました。そんなボールを発射できるピッチングマシンを作ったおじいさんが、大分市にいます。(朝日新聞スポーツ部記者・山下弘展)
馬場豊治さん。お酒が大好きな77歳です。そんな馬場さんが開発したのが「ピッチャー再現マシン」。よくあるピッチングマシンは、二つの車輪が回転してボールを発射します。
車輪の回転数は変えられますが、車輪自体の角度は固定されています。馬場さんは、その角度も自在に変えられるようにして、ボールに、より複雑な回転をつけられるマシンを作ったのです。
打席に立ってみました。記者は一応、高校まで野球をしていました。野球取材もプロ、アマ通算すると今年で12年目です。どんな球だろうとドキドキしていると、ボンッと来ました。手元でクニュッと、消えるように曲がります。
あら、スライダー? 漫画に出てくるジャイロボールは、ギューンと来るような直球だったような……。「鋭いスライダーのような球ですわ」と馬場さん。そうなのか……。馬場さんいわく、速度、回転数、回転方向、回転軸方向の4条件を変えれば、どんな変化球でも再現できるそうです。
テレビの野球中継を見ていて、変化球に興味を持ったのが開発のきっかけでした。でも、馬場さんに野球経験はありません。「高校時代はラグビーをしとった」。出身は大分舞鶴高校。高校ラグビーの強豪です。松任谷由実の名曲「ノーサイド」のモデルになった試合でも有名です。
高校卒業後、大学には行きませんでした。「物理は学年1番でも、英語がまったくダメ」。そこで目指したのが警察官。大阪府警の採用試験を受けました。「高校に修学旅行がなかったので、旅行気分でいこうや、と友達が」。合格して、入った警察学校を11カ月で脱走します。「きつかったんじゃ」
実家に戻り、父親が経営していた大分綿機製作所に入社します。綿を布団に使えるように成形する機械を製造していました。しかし、「綿をつくる機械なんか全然売れんようになってなぁ」。そこで乗り出したのが、ピッチングマシンでした。
心血を注いで「ピッチャー再現マシン」の1号機を1999年に開発。その後、改良を重ね、現在は定価132万円で販売中です。「口コミでどんどん広がると思ったが、なかなか売れん。ここ2年、営業活動をしていなかったが、ぼつぼつやろうかと思っとる」
大学では京大、浜松医大、日本文理大(大分)。高校では二松学舎(東京)、藤代(茨城)静岡などで使用されているそうです。
「静岡高校は、このマシンを使うようになってから甲子園によく出るようになったわ」と、馬場さんはちょっと誇らしげでした。
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