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キャッチャーとは…タマを捕り守る者 プロでも痛い!その時の備え
プロ野球のクライマックスシリーズ最終ステージで、日本ハムの大谷翔平投手(22)が投じた直球が、プロ野球史上最速の165キロを計測しました。それも3球も。最高速度140キロと言われる成田エクスプレスよりも速いスピードで、石のように硬いボールが、プロのグラウンドでは飛び交っているのです。そんなボールが当たった時のことを想像してみてください。痛そうですよねえ。そして特に男性のみなさん、それが「あそこ」を直撃したりしたら……。そんな恐怖を解決してくれるもの。それが「キンカップ」なんです。(朝日新聞スポーツ部記者・小俣勇貴)
急所を直撃された時の、あの理不尽な痛みを経験された方は多いのではないでしょうか。プロ野球で、その急所が最も危険にさらされているポジションは、捕手です。プロですから、160キロを超える直球だったとしても投球なら捕れます。怖いのが、ファウルチップです。捕球直前で軌道が変わり、捕手を襲うのです。
よく映像で、捕手の「大事なところ」にファウルボールが当たって悶絶している姿を見て思わず笑ってしまうときもあるのですが、当事者からすると、とんでもない痛みだそうです。
そんな不測の事態から守ってくれるのが、正式名称「ファウルカップ」。通称では「急所カップ」や「キンカップ」と呼ばれています。(キンカップという通称の由来はご想像の通りだと思います)
今夏の球宴で大谷投手とバッテリーを組む可能性があった西武の炭谷銀仁朗捕手(29)に聞いたことがあります。もちろんファウルカップは着けていますが、ガードがある分、直撃しないだけで、痛いことは痛いそうです。
このカップはスライディングパンツやスパッツにある専用の隙間に入れたり、専用のサポーターで固定したりするのですが、捕手もこまめに動くので、うまくフィットしていないことがあるそうです。
そんなときに不意に打球が当たった痛みは?
「口では説明できないですね」
では、対処法は?
「無い。とにかく動く。動かないと、無理」
実はこれ、着用しているのは捕手だけではありません。野手も多くの選手が自主的に身につけています。日米で活躍した楽天の松井稼頭央選手(40)は言います。「全員、着けてるんちゃうの?」。プロ入り2年目から22年間、プレーする際にはずっと着けているそうです。きっかけは、春季キャンプでノックを受けている時に打球が急所に当たって、コーチから雷を落とされたからだそうです。
高校時代は投手だった松井選手はカップの存在を知らなかったそうで、先輩にもらって着け始めました。
「好き嫌いが出るよね。こればっかりは。初めは気持ち悪かったし」。捕手よりも動きの激しい野手にとって、邪魔にならないのでしょうか。同じ楽天の中川大志選手(26)は、「着けてないと、逆に違和感がありますよ。落ち着かない」と言っていました。
松井選手も、「もう、していないと不安で。気持ち悪くて」。プロ野球選手にとって、ファウルカップ装着は日常なのです。
楽天でデータを扱うチーム戦略室の調べによると、日本球界で今季最も速かった打球は180キロ近かったそうです。それがイレギュラーして急所に当たったら……。ボール以外にも、接触プレーで相手のひざなどが当たることもあります。野手も危険にさらされているのです。
松井選手の場合、考え方も、プロ野球選手です。「カップをつけていてボールが当たっても、ちょっと時間が経ったら、試合に出れる。でも、つけてなくて当たって長いこと試合に出られなくなることほど、嫌なことはないよね」。体調管理も、けがの防止も自己責任。プロ意識の鑑ですね。
加えて、こんな提言をしてくれました。「後悔するのは嫌やし、準備できること、やれることは、小学生でもできる。野手でなかなか普及が進まないなら、チーム全体でやるのも、あり。習慣にすることが大事やと思う」。ぜひ、多くの野球選手に響いて欲しい言葉だと思いました。
そんなファウルカップの歴史を少し。野球用具の大手、ミズノ社の広報宣伝部に聞いてみました。正確にはいつから販売しているか、分からないのですが、1989年の商品カタログから掲載されているそうです。
さらに高校野球では、1998年には日本高校野球連盟が捕手のファウルカップ着用の義務を通達し、99年から適用しています。これがきっかけとなって普及していったのかもしれません。ファウルカップは、野球に限らず、サッカーやホッケーなどの競技でも着用されています。
炭谷選手が、こんなことを教えてくれました。「銃弾が当たっても大丈夫なキンカップあるらしいね」。うそでしょ!?。「欲しいわ。ほんまに電話して買おうかな」。真剣に語る様子にふと思いました。捕手にとってタマは、捕るものであり、守るものなんだと。
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