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盛岡発「文庫X」が全国に拡散 書名伏せ販売、版元も驚く売れ行き
盛岡市にある書店で売り始めた「文庫X」が、全国に広がっています。
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盛岡市にある書店で売り始めた「文庫X」が、全国に広がっています。
盛岡市にある書店で売り始めた「文庫X」が、全国に広がっています。手作りのブックカバーをつけ、タイトルや著者名、出版元を伏せることで、「先入観にとらわれずに読んで」との思いを込めました。版元主導ではなく、地方の一書店が始めた取り組みが店員のネットワークを通じて広がり、30都道府県の200店舗以上が同じ方法で販売。本は重版を繰り返し、すでに5万部を超えています。
盛岡市にある「さわや書店フェザン店」。文庫Xはこの店から始まりました。
手作りのブックカバーには、表裏ともにびっしり文字が並んでいます。書き出しはこうです。
「申し訳ありません。僕にはこの本をどう勧めたらいいか分かりませんでした。どうやったら『面白い』『魅力的だ』と思ってもらえるのか、思いつきませんでした。だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました」
文章を考えたのは、昨年9月に入社した長江貴士さん(33)。プライベートでこの本を読んでいて「ノンフィクションの中で、誰にでも読んでもらいたいと思った初めての作品」と感じたそうです。
普通に売ったのでは、なかなか手にとってもらえないと考え、あえて書籍名などを隠すことを思いつきました。文章は長江さんが考え、同じ店でアルバイトをしている店員が文字を書くことに。ブックカバーはコピー機でモノクロ印刷したもので、手作業で裁断し、一つずつ付けています。
当初仕入れたのは60冊。時間をかけて売っていくつもりでしたが、5日後には完売。長江さんは「本の中身が何も分からないというのは、とてもハードルが高いと思っていました。それだけに、とてもびっくりしています」と話します。
文庫Xについて明かしているのは、税込み810円の価格、ノンフィクションであること、500ページ以上という3点のみ。レシートにもタイトルを表示しない徹底ぶりです。さらに、買って開封した後に持っている本だとわかった場合は、単行本・文庫本を問わず、返金に応じています。
7月21日から文庫Xとして売り始めて、フェザン店では2カ月で1600冊以上が売れました。通常の文庫本は月200冊売れれば月間トップになるので、異例の売れ行きです。
この取り組みが、店長の田口幹人さん(43)の書店員ネットワークを通じて他店へも拡大。今では北海道から沖縄まで、約30都道府県の200店舗以上で販売されています。チェーン店で扱うことも決まりそうで、一気に300店舗を超える見込みです。
「他店の書店員からは『これ、いい本ですよね。でも、単行本のときに頑張ったけど売り切れなかった思い出が……』といった声が多く聞かれました。せっかくのいい本なんだから、一緒に売っていこうと声をかけたんです」と田口さん。
もちろん、版元の出版社と著者の了解を得ています。それぞれ店ごとに独自のブックカバーをつけているところがほとんどですが、中には「フェザン店と同じものを使わせてほしい」という店もあります。
版元の出版社の営業担当者は、こう話します。
「書店の力でこんなに本が売れるのはすごいことです。お客さんと距離が近く、それだけ親密に接していることの表れで、底力を見せつけられました」
本の売れ行きは順調に伸び、初版3万部だったのが5刷で5万5千冊にまでなったそうです。
ネット上でも話題になっている文庫Xですが、書籍名などの「ネタバレ」を書いている人がほとんどいないのも特徴です。田口さんは「本好きな人が、それだけ大事に思ってくれているんでしょうね」と話します。
フェザン店では、12月9日に「文庫X開き」と称して、書籍名などを明かす予定です。さらにそこに向けて、文庫Xに関する著者インタビューや、各地で販売している書店員の思いをまとめたフリーペーパーを準備中です。
田口さんは「読んで満足していただいたみなさんも含めて、もう一度盛り上がる機会にできたら」と話しています。
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