感動
スープはあるけど丼が…熊本のラーメン店に「義援丼」続々 営業再開
熊本地震で被害を受け、営業再開を前に困っていたラーメン店を救ったのは、全国の同業者から届けられた「義援丼」でした。
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熊本地震で被害を受け、営業再開を前に困っていたラーメン店を救ったのは、全国の同業者から届けられた「義援丼」でした。
スープや材料は手に入ったけど、お客さんに提供するための丼がない――。熊本地震で被害を受け、営業再開を前に困っていたラーメン店を救ったのは、全国の同業者から届けられた「義援丼」でした。前震発生から今日で5カ月を迎えますが、今でもその丼を使い続け、ラーメンを作るたびに感謝の気持ちを思い出しています。
熊本県嘉島町にある「ら~めん陽向(ひなた)」。4月14日の前震と16日の本震で被害を受けました。
14日は営業中に突然揺れが襲ってきて停電。火を止めて、3組ほどいたお客さんを外へ誘導し、「会計はいいですから、気をつけて帰ってくださいね」と伝えました。
鍋はひっくり返り、食器も散乱していたため、その日はそのまま帰宅。翌15日に店を片づけて、「明日から営業再開だ」と意気込んでいたところに本震が起こり、丼のほとんどが割れて、電気、水道、ガスも止まりました。
店の建物に大きな被害はありませんでしたが、店長の山口大二さん(27)の熊本市内にある実家は全壊。しばらくの間は、従業員が集まることもできませんでした。
山口さんは「いつになったら店を再開できるのか、まったく見当がつかなかったですね」と振り返ります。
陽向のラーメンの特徴は、あっさりしていながらうまみの強い豚骨スープです。煮立てたスープに新しいスープを継ぎ足しながら味を深めていく「呼び戻し」という技法で作られています。
数々の店で修行してきた店主の内田哲史さん(32)が、佐賀市にある「いちげん」で作り方を学んで独自に発展させ、長い年月をかけて作り上げてきたスープも、ガスが止まったことで使い物にならなくなりました。
幸いなことに、スープについては窮状を知ったいちげんの店主から分けてもらえることになり、ライフラインも復旧。店内の片づけや食材の調達もめどが立ちましたが、丼だけが足りません。
新しい丼を注文しようと考えていたとき、いちげんの店主から電話があり、現状を話すと「全国のお店にお願いして丼を集めよう」と言ってくれました。
その後、日本ラーメン協会初代理事長である「ちばき屋」の千葉憲二さん(65)らの協力を得て、2週間ほどの間に「麺屋武蔵」「つじ田」「せたが屋」などから500を超える丼が届きました。中には、東日本大震災で被災した店から贈られたものもあります。
内田さんは「本当にありがたいです。尊敬する名店の丼ばかりで感動し、元気が出ました。地震で失ったものは数多くあります。しかし、失ったものばかりではありませんでした」と話します。
地震から約半月後の4月29日に営業を再開。今では地震の前のにぎわいを取り戻しています。常連さんの中には「今日の丼はどこのだろう」と楽しみにしている人もいるそうです。
5カ月がたった今、新しい丼を注文することもできますが、贈られたきた丼を使い続けています。店長の山口さんはこう話します。
「今回のことを通じて、当たり前のことが当たり前じゃないんだと気づきました。ラーメンを作るたびにこの丼を見て、これが届いた時の感謝の気持ちを思い出しながら、作り続けていきます」
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