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チケット不正転売に終止符? 広がる「そもそも高く売れない」仕組み
「音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」。先日、西野カナさんやサカナクションら、116組ものアーティストが名を連ねた意見広告が話題になりました。転売サイトやネットオークションを使って売りさばくための不正な買い占めも増える中、アーティストや主催者は手をこまねいているわけではありません。ITを駆使した「高値で出品できないチケット」の導入が広がっています。
スマホがチケット代わりになる、電子チケットがその一つ。ファンクラブ運営などを手がける「EMTG」のチケットは、コブクロやザ・イエロー・モンキー、UVERworldなど20組以上のアーティストが取り入れています。
この電子チケットは、EMTGのサイトやプレイガイドで申し込み、専用の無料アプリで受け取ります。登録した電話番号のスマホでしかチケットを表示できないので、相手にスマホを渡さない限り転売はできません。
入場時はスマホを見せるだけ。画面に専用のスタンプを当てると、押印済みのチケットが表示される仕組みです。
また、ファンにとってうれしいのは、電子チケットで入場すると見られる、ライブ写真やセットリストなどの「記念コンテンツ」。back numberの今年のツアーでは、観客の96%が電子チケットを使っているそうです。
「『転売対策のためにスマホを使う』ではなくて、『便利な機能があるからスマホを使う。ついでに個人認証もできて、転売対策につながる』という風にしたい」。そう話すのは、EMTG社長の冨田義博さんです。
「いまはお客さんに協力してもらっている感じですが、将来的には『電子チケットの方がいいよね』というところまでもっていきたいですね」
自動で「なりすまし」を見破る、顔認証システムも広まりつつあります。
運営するのは、チケッティング会社の「テイパーズ」。もともとは警察の捜査や、税関の入管審査向けだったNECの顔認証技術を、ライブに応用しています。2014年のライブでももいろクローバーZが取り入れて以来、2年間でBABYMETALやB’zなどの60公演で使われました。
こちらは、チケットの申し込みやファンクラブの入会時に、顔写真を登録します。ライブ当日、会場の入り口に置かれたタブレット端末の前に立つと、本人の顔と写真が自動で照合され、座席券が発行される仕組みです。
「いままでは1%の転売をなくすために、99%のお客さんに負担を強いていた。問題のないお客さんにスムーズにスピーディーに入場してもらうための仕組み」と、テイパーズ常務の冨澤孝明さんはいいます。
これまでのような、スタッフが来場者の身分証を確認していくアナログな方法と違って、1人あたり10秒もあれば、メイクやメガネの有無、写真写りに関係なく、99.9%の精度で見分けられるそう。
これなら、お客さんの待ち時間も運営側の手間も省け、「なんか違うけど、お客さんに『別人でしょ?』なんて、言いにくいし……」というビミョーなケースも避けられそうです。
いまは来場者が数秒間立ち止まる必要がありますが、近い将来、駅の改札機のように通り抜けるだけの「ノンストップ顔認証」も導入される見通しだそうです。
不正な買い占めによる転売は「高値で売りたい」人だけでなく、「高値でも買いたい」ファンがいるから成り立つもの。ファンの良心頼みにするのでなく、定価のチケットの方が「便利」で「お得」。そう思えるようになれば、不正転売をめぐる「いたちごっこ」にも、終わりが見えるかもしれません。
この記事は9月10日朝日新聞夕刊(一部地域11日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
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