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ほとばしる創作意欲!でも技術はない… 「ヘボコン」が初の世界大会
動かない・進まないは当たり前
「ロボットを作ってみたい、でも技術はない」
そんなほとばしる創作意欲を持て余した人たちが、自作の〝ロボット〟を持ち寄って対戦する「技術力の低い人限定ロボコン」、通称ヘボコン。初の世界大会「ヘボコン・ワールドチャンピオンシップ」が、8月7日に東京・江東のイベント施設「東京カルチャーカルチャー」で開かれました。
ヘボコンは2014年7月に初めて開催されました。発案者は「デイリーポータルZ」で電子工作記事などを執筆している、ニフティの石川大樹さん。つたない失敗作が一堂に会する機会を作りたい、と思い立ったそうです。ブログで出場者を募ると80件近い応募がありました。
集まったロボットはどれもヘボぞろい。まっすぐ進まない、動かないのは当然で、自走しないロボットを、板の上から滑らせて「位置エネルギーエンジンです」と言い張る人まで現れました。
その後、ヘボコンは国内外に人気が広がり、国内10カ所、海外25カ国60カ所以上で開催されるイベントに成長。ついに世界大会として凱旋することになりました。
難しい課題の出される本家ロボコンと違い、ヘボコンのルールは単純明快です。
50cm×1mの土俵上で、2体(2回戦は土俵を1m四方に広げて4体)のロボットが相撲をとり、土俵から出るか倒れると負け。ロボットがまともに動かないことも想定し、接触せずに外に出た場合は再試合、1分経って決着がつかなかった場合、移動距離が長い方が勝ちとします。
ただし、自動操縦や遠隔操作など、高度な技術を使うと「ハイテクノロジーペナルティー」で減点されます。
世界大会には、国内からは第1回から参加しているベテランや予選を勝ち抜いた21組、海外からは香港や台湾、シンガポール、フランス、アイスランドの8組、さらに日本と海外参加者による国際チーム3組の、計32体のロボットが集まりました。
出場者に話を聞くと、「(市販キットの)土台を作るのが精いっぱい。配線はできないので仕事仲間に頼んだ」「このLED一つを光らせるのがやっと」「電池を増やしたかったけど、つなぎ方がわからなくて載せるだけになった」など、技術力の低い発言が次々飛び出しました。
それでも、「面白そうだから出てみたかった」と口を揃えます。アイスランドから、コンサートツアーの合間を縫って出場したニコラスさんは「優勝できるかどうかは、大事なことではない。みんなのロボットを見るのが楽しい」と語りました。
技術力が低いので、本番前の調整中からトラブルが続出。
火星探査車「オポチュニティー」を模した「へぼちゅにてぃ」で出場したチーム「おぐまる3」は、「ソーラーパネルでモーターを動かす予定が、建物の中だと太陽の光が無くて動かない。昼間の屋外イベントならばっちりなのですが……」と、試合会場の条件を無視したマシンを前に困り顔。
日本とギリシャの国際チームで出場した永田純子さんのロボ「女神アテナ」は「ブルートゥースのスピーカーを載せるつもりでスペースも空けてあるのに、音が鳴らない」。
国際チームは、チームワークのヘボさも目立ちました。
永田さんと組んだギリシャ人男性は、「ギリシャ人だから怠け者で動かないっての、どう?」「アテネの女神様でいこう!」など、具体性のないアイデアだけ出してロボット作りは丸投げ。大会当日は「僕、休暇で実家に帰るから」とのんびりしていたそうです。
日米でチームを組んだ「ヘボメイト」は、「音波攻撃のロボットを作ろう」というコンセプトは決まったものの、7月22日を最後にアメリカの出場者と連絡が取れなくなってしまうというトラブル。大会前日にようやく連絡がとれたそうですが……。
午後6時、競技が始まりました。対戦前には出場者がロボットのヘボいところを、とても嬉しそうに紹介します。
市販のキットを使ったのに、スルメイカを載せたため「前に進まず、後ろにしか行かない」。シンガポールからの出場者は、マーライオンをイメージしたロボットを作り、「水を吐かせるのは難しすぎた」と、水色に塗った竹串をその場で刺して代用。香港からはちゃぶ台返しのできる高度なロボが登場しましたが「ひっくり返しすぎるとロボットがひっくり返る」。対戦ではそのヘボさが出てしまい、自らひっくり返って負けました。
本番ではやはり、ロボットが思うように動かない場面が多発。司会の石川さんは「みんな作るだけ作って、操作練習してこない傾向があるんですよね」。それでも、相手が自爆してしまい、勝った側が「by accident...」と呆然としている場面もありました。
トーナメントは香港からの出場者リッキー・チャンさんの「ロボット コントロールド コントローラー ロボット」が優勝。表彰式では「(勝ってしまって)ごめんなさい」と謝罪しました。
準優勝はぶるぶる振動するぬいぐるみを動力にしたロボ「汎用人型ヘボコン決戦兵器」。製作したチームタナゴは家族3人で申し込み、みんなで協力してロボを作り上げるつもりだったのが、7歳のイチヨシくんはほとんど手伝ってくれず、仕方なく母のアキコさんが完成させたそうです。「世界のロボは考え方が違う。いかに笑わせるか、攻めている」と評しました。
観客や出場者の投票で選ばれる「最も技術力の低かった人賞」には、人形が回転しながら前進し、札束を発射する「ポールダンスロボ パーティーロックアンセム」が選ばれました。製作者のアニポールきょうこさんは第1回から出場している常連。「私のロボはヘボくない!」と優勝を目指したものの、使わないつもりのボタンを誤って押し続け、1回戦敗退となりました。
日本だけでなく、海外からの参加者も共にヘボを楽しんだ初の世界大会。
審査員を務めた、マイコンボード「アルドゥイーノ」の共同開発者、デイビッド・クァティレスさんは「テクノロジー的なことがわかってなくても、こういう機会があることで、みんなが作って集まるのが大事だ」と評価します。なお、アルドゥイーノを使ったロボットが出場する可能性については、「ヘボコンには高度すぎる」と一蹴しました。
同じく審査員のニコつく代表八田大次郎さんは、国内外のロボの差異について「日本の方はビジュアルで説明できない、実際の動きを見ないとわからないものを作るが、外国の方はコンセプトがはっきりしていてシンプルなメッセージがある。何がヘボいかはそれぞれですね」と講評しました。
主催者の石川さんは「なんかねえ、すごい。デイビッドがワニの子(審査員賞を受賞した小学4年生)に賞品渡してるので泣いちゃって。なんで泣いたのかわからないんですが」と、国も世代も超えたロボ(ヘボ?)の交流に感極まった様子でした。
海外での人気を「オンラインでやりとりしていた人に、ここ半年で実際に会うようになって、他人事のように思っていたのが、自分の現実になった。激動です」と振り返り、「誰でもできるし、誰がやっても面白くなる、そこがいいのではないでしょうか」。
ちなみに、ヘボコンの今後については、「ちょっとどうしていいのかわからない。宇宙大会といっても他の星の人は来ないし……」と話していました。
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