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彫り師じゃなくて彫られ師 タトゥーを「入れられる」プロが語る神髄
数多くのタトゥーを収集し、最善の状態で維持することに血道を上げる――。そんな「彫られ師」の哲学とは。
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数多くのタトゥーを収集し、最善の状態で維持することに血道を上げる――。そんな「彫られ師」の哲学とは。
タトゥーを彫ることを生業とする彫り師がいれば、彫られることに生きがいを見いだす「彫られ師」も存在します。全身に多数のタトゥーを入れている、らっちさん(42)に、「彫られるプロ」としての神髄を聞きました。
――初めてタトゥーを入れたのは?
29歳の時、当時勤めていた建設会社を辞めて独立しました。「サラリーマンには戻らない」という覚悟で、腕にトライバル(民族模様)のタトゥーを入れたのが最初です。
しばらく自営で働いていましたが、声を掛けてくれる人がいて、2年前からまた建築関係の会社で働いています。上司は「タトゥーが入っていてもいいよ」と言ってくれているので。
――そもそも、「彫られ師」とは?
10年ほど前、イベントでよく顔を合わせる4、5人の仲間たちと「彫られ師」というグループを立ち上げました。「このタトゥーいいね、どこで彫ったの?」「アフターケアはこうすると治りが早いよ」なんて情報交換したりして。多い時はミクシィ上で500人ぐらい、メンバーがいましたね。
――彫る側だけでなく、彫られる側にも心構えが求められるものなのでしょうか。
彫る当日はもちろん、前日からお酒は抜きます。事前に筋トレをして筋肉を痛めつけておいて、タトゥーを入れ終わったらプロテインを飲む。すると、「超回復」といって治りが早くなるんです。あとは鳥のささみを食べたりだとか。
日焼けしないように夏でも長袖を着ています。できるだけキレイにタトゥーを残したいですからね。患部を保護するシートや保湿用のクリームは必需品です。それから夏場は治りが悪いので、なるべくタトゥーを入れないようにしています。冬場だと、カイロで身体を温めることもありますよ。
――徹底していますね。
普段甘いものは一切食べないんですけど、タトゥーを入れる時はチョコやジュースを持参しています。空腹だと痛みを強く感じるので、随時栄養補給するんです。痛みがやわらぐ呼吸法というのもあって、針が入っている時にスーッと吐く。そうすると体の力が抜けて、いくらか痛みが軽減されます。
タトゥーは彫る側と彫られる側の共同作業。彫り師が彫りやすいように、状況を見ながら姿勢を変えたりもしています。
――それだけの努力をして、タトゥーを入れる理由は何ですか。
何でしょうね。痛いし、お金もかかるのに。これまで全身で500万円ぐらい使ってますからね。「イテー!」と思いながらも、治ってくるとまた入れたくなっちゃう。
「ノー・ペイン、ノー・ゲイン(痛みなくして得るものなし)」という言葉がありますけど、やっぱり痛みも含めた楽しみだし、努力しないと結果も出ないと思うんです。
だからと言って、いっぱい彫ってる人が偉いというわけでもありません。ワンポイントだけ入れるカッコ良さもあるし、彫らない人は彫らない人でカッコイイ。人それぞれでいいんじゃないですかね。
――「タトゥーを入れたい」という人から、相談を受けることもありますか。
「入れたいんだけど」と相談されたら、まずは「やめた方がいいよ」と言います。後悔してるヤツが大勢いますから。保険の加入を断られるとか制約も多いし、結婚して子どもができてから困ることだってあるでしょう。衝動的に彫るのはやめた方がいい。
「1年後にもう1回聞いて。その時まだ同じ気持ちだったら、スタイルに合った彫り師をいくらでも紹介するから」と伝えていますね。一生のことですから、1年後で遅いということはありません。
18歳の娘もタトゥーを入れたがっているのですが、「20歳になるまでは入れるな」「もうちょっと悩め」と言い聞かせています。自分の行動に責任を持って、お金も払えるようになるまでは、入れるべきではないと思います。
――医師法違反容疑での彫り師の取り締まりについては、どう考えますか。
いままでグレーゾーンだったものを、お上がいきなりブラックにしてきた。違法となれば、彫り師は地下に潜るだけでしょう。問題になるのは素人のような人が彫ってしまうケースであって、ちゃんとした彫り師は衛生管理にも気を遣っていますよ。
この先も、彫りたい人がいなくなることは絶対にありません。鍼灸師のように国が衛生面をちゃんと監督してくれたら、初めての店にも安心して入れます。そこら辺をハッキリしてほしいですね。
――「タトゥーはアンダーグラウンドなところが魅力なのに、ライセンス制にして国のお墨付きを得るのはどうなのか」という意見もあります。
確かに人口の8割ぐらいがタトゥーを入れるようになったら、魅力が薄れてしまう部分はあるでしょうね。彫り師や愛好家の間にも、様々な意見があると思います。でも、いまは業界全体で足並みをそろえていく時なのではないでしょうか。
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