お金と仕事
オシャレ聴診器、ニッチ市場でヒット 200年変化なかった業界に挑戦
過去200年、ほぼ同じ形のままだったという聴診器。今年7月、デザインと使い心地を重視した斬新な製品が生まれました。流線形の独特なフォルムと、折りたたみができる携帯性。現場の医師の声を元に開発した製品は、発売と同時に売り切れとなる人気を見せています。
デザインにこだわった聴診器「U scope」を手がけたのは、「おしゃれ白衣」で知られるクラシコ社(東京都渋谷区)です。元々、「デザインにこだわった白衣がない」という医師らの要望から、ドラマでも使われるようなおしゃな白衣を開発した同社。社長の大和新(おおわ・あらた)さんは、聴診器の開発を思い立った経緯を次のように語ります。
「白衣をはじめ、これまでの医療器具は、実際に扱う人の『使い心地』をおろそかにしがちだった。結果、ソフト面での改善が進まず、現場の人が酷使されてしまう状況につながっていたんです」
特徴的なデザインは、プロダクトデザイナーの吉富寛基さんが担当。指にフィットする流線形のフォルムや、首からかけた時でも美しい新たな聴診器のスタイルを生み出しました。
デザイン重視とはいえ、命を扱う仕事の道具。製品化するには医療機器製造販売業許可が必要なこともあり、聴診器メーカー、ケンツメディコ社(埼玉県本庄市)と共同で、3年をかけて開発しました。
大きな特徴が、折りたたみできる携帯性です。
「白衣のデザインをする時、聴診器が入るような大きいポケットの要望がありました。そこで、折りたたみできるデザインにこだわりました」と大和さん。
そのため、折りたたみを可能にする金属パーツを採用。パーツは何度もテストを繰り返し耐久性を改良していきました。「一番、難しかった」という左右のチューブの結合部分の金属パーツの開発に成功したことで、忙しく動き回る医師の動きに合わせたデザインを実現させました。
実は、聴診器の世界は200年以上、大きな変化がなかったと言われています。
大和さんによると、1816年にフランス人医師によって発明されて以降、素材などの変化はあったものの、ほとんど同じ形のまま、現在に至るそうです。
大和さんは「医療器具の業界は、代理店をはさんだ複雑な仕組みになっていて、メーカーが医師の声を聞く機会があまりなかった。白衣と同じように、現場の悩みは大きかったんです」と言います。
安いものだと数千円の製品もあるという聴診器。その中で「U scope」は3万4千円からの値段設定で「ハイエンドの価格」となっています。
それでも、7月14日に自社サイトで販売を開始すると、速効、売り切れのモデルも出るほどの人気に。
発売前、開発資金をクラウドファンディングで募集したところ、4日間で1万5千ドル(約159万円)の目標額をクリア。最終的に317%の達成率になったそうです。
「海外からの応募が6割を占めました。聴診器の悩みは世界共通だったみたいです」と大和さんは手応えを感じています。
今後は、海外展開を含め、新しい聴診器の世界を広げていく予定です。
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