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「少年自衛隊」、電話ボックスの自由時間 集団生活・訓練・家族…
日本でただひとつ、15~19歳の少年たちが中学卒業後、自衛隊員として訓練をうける全寮制の学校が横須賀にあります。厳しい訓練と10代の日常。「役に立つ人になりたい」と入隊の理由を語る一方に、「家族を思い出して……」と寂しさに涙ぐむ場面にも出会いました。安保法が施行されて自衛隊の役割が大きく変わろうとしているいま、1年にわたった取材の記録を届けます。(朝日新聞映像報道部記者・川村直子)
夜になると、校舎脇に並ぶ公衆電話に、少年たちが集います。外の世界とつながる、わずかな時間。秋田市から来たばかりの新入生が、母に電話をかけようと、テレホンカードを握りしめていました。
日本で唯一、中学校卒業直後の少年たちが自衛隊の訓練を受ける、陸上自衛隊高等工科学校(神奈川県横須賀市)で、2014年の4月から15年の5月にかけて、取材しました。
彼らは学校の生徒であり、最年少の自衛隊員です。技術系の専門教育や、普通科高校と同等の授業もあり、高卒資格を得られます。学費は無料。生徒には手取りで月約8万円の手当が支給されます。卒業後はさらに1年間の教育訓練を経て、ほとんどが3等陸曹になります。
朝6時起床、夜10時半就寝の全寮制で、8人ほどの相部屋で生活する新入生は、2年生に進級して5月の大型連休が明ける頃まで、携帯電話を持つことができません。
夜、1日のなかで50分だけ、自由に使い方を任される「自主管理時間」になると、洗濯やアイロンがけ、靴磨きの合間を縫って、階段を駆け下り電話ボックスへ向かいます。
不慣れな集団生活の中で、ほんのわずかな、ひとりになれる時間であり、外の世界とつながる時間です。大切なひとときを邪魔しないよう、私は少し離れてシャッターを切りました。
取材を始めたのは、集団的自衛権の行使容認が14年7月に閣議決定されて、強い違和感を覚えたからでした。
この自衛権が発動されることがあれば、現場に立つのは誰かって考えたら、子どもたちや、その次の世代かもしれない。いま、ひとりの大人として、安保法施行までの過程を黙って見てていいの、って考えました。
今年7月の参院選で、多くの人が重視した政策は医療や年金などの社会保障だったように、安全保障に対する関心って、どうしても低い。たったいま、の暮らしを左右するものじゃないから、かもしれません。でも大事な問題です。たくさんの人に関心を持ってほしい、と思いました。
国会前で「安保法反対」と声を上げる学生たちの姿を、多くのメディアが取り上げました。一方で、同世代の自衛隊員の姿は、ほとんど見えてきません。身近に自衛官がいたり、災害時などに助けられた経験がなければ、自衛隊って遠い存在かもしれません。遠い話のままでは考えなくなっちゃう。写真を通じて、友だちが自衛官になる、とか、自分の子どもが自衛官になったら、っていう気持ちで考えてもらいたかったのです。
9人家族で、親に負担をかけたくない、と日用品を自分でまかなっている2年生は「初手当で買った中で、一番高かったのは便秘薬。緊張で、おなかが痛くなっちゃって」と照れながら教えてくれました。寂しくない? と立ち話で声を掛けると「家族を思い出して……。帰れるなら帰りたい」と涙ぐむ新入生もいました。
「自衛官は公務員だから、生活の安定って面もあるし」。クールにそう語っていた3年生は、訓練を完遂できなかった後、「悔しいけど、これからです」と涙を拭きました。
取材時にはつねに広報担当の自衛官が付き添い、制限もあります。それでも1~3年生、150人ぐらいに話しかけて、いろんな声を聞きました。
戦いや死、という言葉が日常にある学校生活。私にとっては異質な感覚と、背中合わせにある彼ら自身の素直さに、何度も胸がざわつきました。
写真記者として仕事をするなかで、たくさんの10代に出会ってきました。
国会前で「安保法反対」と訴える子、18歳選挙権が始まったけど「誰に投票したって同じじゃん」という子、自衛官を目指す子。生まれ育った環境も、興味を持つ事も違うけれど、それぞれが大事な何かに向き合うときの気持ちとか真剣さって変わらない。
同時代を生きる、大切なひとりひとりです。
互いの分断をあおるんじゃなくて、共感をつないでいきたい。分かり合えるのりしろを増やしていきたい。そこから何かを感じてもらえたら、と取材をしています。
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