お金と仕事
若者にお金を回すには? 高齢者に手厚いカラクリ、10代の戦い方

「社会保障」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべるのは何ですか? 年金や介護保険といった老後の備えではないでしょうか。でも、そうしたとらえ方はもう古いかもしれません。18歳と19歳が選挙権を得た今回の参院選。「人生の前半こそ社会保障が必要」と提唱する京大教授の広井良典さんと、支え合いのあり方を考えます。(朝日新聞文化くらし報道部記者・井上充昌)
元気に働けて十分な収入を得られるうちは、当面の生活に心配はありません。しかし、病気や失業、老いなど、人生には不確実さがつきものです。一人では備えられないリスクにみんながお金を出し合って助け合うのが社会保障です。
どんな分野にお金をどれぐらい配分するかは、国にによって違います。日米仏の3カ国の社会保障について、お金の使い道をまとめたのが次のグラフです。
日本は高齢者に手厚いことが読み取れます。「家族」に関する支出が最も多いのはフランスです。子育て世帯向けの手当などが厚く、出生率が回復したことでも知られます。
現役世代向けの「失業」に関する支出も日本は多くありません。自己責任型社会のイメージが強いアメリカを下回る状況です。
なぜ、日本の社会保障の支出は高齢者に偏っているのでしょうか。広井さんは「高度成長期の発想、モデルをいまだに引きずっているから」と解説します。
以前は、現役世代は会社ががっちりと生活を保障していました。「生活上のリスクは退職後に集中していたので、社会保障も年金、高齢者医療、介護で足りていました」と広井さん。
しかし、会社はいざという時に頼れる存在ではなくなりました。派遣社員などの非正規の働き方が増え、正社員でも「ブラック企業」のように厳しい労働環境が生まれています。
家族のありようも変わりました。結婚して家庭を持つ生き方が大多数ではなくなり、単身世帯が増えています。家族の面倒をほかの家族が見るということは期待できなくなりました。
「カイシャや家族といった『古い共同体』が揺らぎ、かつては高齢期に集中していた生活上のリスクが人生の前半に広く及ぶようになっているのです」
例えば、失業率。年代別で見ると、最も高いのが10代後半から30代前半の層です。雇用の総量が増えない中、「椅子取りゲーム」のような状態になり、若年層がしわ寄せを受けていると広井さんは見ています。
広井さんが「人生前半の社会保障」への発想の転換を掲げるもう一つの背景は、経済格差の連鎖です。
「個人が人生で『共通のスタートライン』に立てなくなっています。貧困の連鎖を断つ上で大切なのは『教育』で、これも広い意味での社会保障です」
しかし、日本は教育への公的支出を見ても、国際的に低い水準です。中でも、就学前と高等教育期は特に低いといわれます。
とはいえ、高い経済成長は見込めず、限りあるお金をどう配分するかはますます難しくなっています。
そこで、広井さんはお金の工面の仕方について、ある数字を持ち出します。
「例えば、国立大学86大学の収入のうち、学費は3300億円(2014年度)。一方で、年金の給付額は54兆円(13年度)。とても裕福な方々の年金の一部を回せば、学費を無料にできる計算になります」
考え方としては筋の通った説明です。お金のやりくりについて、若年層を含めてみんなで知恵を出し合う価値はありそうです。
「選挙で意思を示すのも大切ですが、これからは『若者にもきちんとお金を使って』と、さらに声を上げていくのも大事ではないでしょうか」
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