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18歳で人質、今井紀明さんの参院選「10代の議員生まれれば…」
「若者も政治に関心をもとう」。選挙中、繰り返される言葉を聞いて、私(記者)はある人を思い出しました。 今井紀明さん。2004年、今井さんがイラクで武装勢力に拉致されたのは、18歳の時でした。高校卒業直後の春、現地の人の役に立ちたいと渡航し、人質に。自己責任を問われ、日本中から批判されました。今井さんだけではなく、教師や親の責任も問われました。あれから12年。今の社会は18歳を大人扱いできるのでしょうか。
2004年のイラク人質事件。当時、今井さんを含め3人の日本人が、現地の武装勢力に拉致されました。犯行グループは、駐留する自衛隊の撤退を要求しましたが、日本政府は拒否しました。3人は9日目に地元イラク人の仲介で解放されましたが、「危険を承知で入国したのだから自己責任だ」と強く批判され、議論を呼びました。
3人が無事に帰国してからも批判はやまず、今井さんは「自分の口から真実を語りたい」と解放から約2週間後に記者会見を開きました。
私は、当時の今井さんを知っています。今井さんは、同じ高校に通うひとつ上の先輩でした。
その頃は、9.11、アフガニスタン侵攻などがあり「戦争はとめられないんだなあ」という無力感があったといいます。学校の玄関前で1人で、劣化ウラン弾の危険性を訴える署名活動をし、休み時間は小難しい本を読む、今で言う「意識高い系」。近寄りがたく、学校でも飛び抜けて「すごい人」でした。
当時、イラクに渡った今井さんへの批判には親や学校の責任を問うものが多くありました。私は「今井さんでも一人前扱いされない。18歳はまだ子どもで、大人の保護の下でしか考えてはいけない」と思ったことを、強烈に覚えています。
そんな「18歳」に、選挙権年齢が引き下げられます。今井さんは今なにを考えてるのだろう。12年ぶりに再会しました。
「せっかくの機会。気軽な気持ちで選挙に行ってほしいな」。今井さんは、別人のように穏やかな空気をまとっていました。
私の高校時代を思い返すと、恋愛や進路で頭がいっぱいで、社会に関心なんてありませんでした。「俺の方が変人だったよ。あんなヤツ数%しかいない」。今井さんは笑います。
高校時代から記者会見までの事件前後の記憶がほとんど無いと言います。
「たぶん、何で社会参加しないんだって同級生を見下していた、と思う」と、考えこむように言葉を継ぎました。
事件後、自宅に引きこもる状態の一方で、批判を覚悟で自分の連絡先を公開し、電話やメールで自分の思いを伝えたそうです。直接会いに行ったこともあるといいます。「批判してくる人たちと対話をして、理解したかった」と振り返ります。
今井さんは今、大阪市で通信制・定時制の高校生を支援するNPO「D×P」を立ち上げ、理事長を務めています。「生徒の多くが挫折を経験している。『自分なんかが政治を考えてもいいのか』と萎縮して見えるのが気になる。政治は国家間や議会のなかでなく、日常生活にあるもの。普段から地域や社会のことを若い世代に語りかけて、その一員という意識を育てる土壌がいる。議員が身近になるように働きかけるのも大人の側の仕事だと思う」
18歳に選挙権は与えられたが、被選挙権はない。今井さんはアンフェアだと疑問を投げかけます。「大人だとみなされていないってこと。10代の議員が生まれれば『同世代がやっているなら、俺も政治を考えてみよう』と、思うことも増えるんじゃないか」。今の若者への思いを語る姿は、変わらず熱っぽく見えました。「もし、今自分が18歳だったら『選挙について一緒に考えよう』というイベントを企画するんじゃないかなあ」。
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