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「保育園作れよ」どうやって? 「ゆとりのある高齢者が負担を」
「保育園作れよ」で話題になった匿名ブログ。解決には何が必要なのか。なぜここまで共感を得たのか。専門家の話を聞きました。
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「保育園作れよ」で話題になった匿名ブログ。解決には何が必要なのか。なぜここまで共感を得たのか。専門家の話を聞きました。
「保育園落ちた日本死ね!!!」「一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか」。そう訴えた匿名のブログをきっかけに、国会前での抗議や、署名活動などを通じて保育制度の充実を求める動きが続いています。一本のブログの投稿が、なぜここまで共感を得たのか。解決には何が必要なのか。専門家2人に話を聞きました。
待機児童がなくならないのはなぜか。明治大教授の加藤久和さんは、予算の少なさに原因があると言います。匿名ブログは、オリンピックや議員の予算を保育園に回すべきだと訴えましたが、加藤さんは「根本的な解決はできません」と否定的です。解決に必要なお金の使い方について聞きました。
――なぜ、待機児童をなくせないのでしょうか。
「政府が、お金を十分にかけてこなかったことが、大きな理由だと思います。政府は20年以上前から、保育所の整備や仕事と子育ての両立支援を含めた少子化対策を始め、複数のプランや、法律を作ってきた。しかし、効果はあまり出ていません」
――日本は、子育て家庭向けに、どれぐらいのお金をかけていますか。
「とても少ないです。保育所の整備や児童手当、育児休業給付などの『家族関係社会支出』は、国内総生産(GDP)比で1.25%(2013年度)です」
――他国はどうですか。
「スウェーデンは3.5%(11年度)、フランスは2.9%(同)です。どちらの国も、一度は少子化に直面したものの、その後、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと想定される子どもの数)を2.0程度に回復させた。子育ての分野にお金をかければ、出生率が上がることは実証されています」
「シミュレーションをしたところ、日本でも、子育て家庭向けのお金をGDP比で2%まで増やせば、出生率が2.1に回復する、という結果が出ました」
――実現にはお金が必要です。匿名ブログは、オリンピックや議員に使う予算で「保育園作れよ」と訴えました。
「オリンピックの予算は1回きり。議員を半減させてもまわせる額は少ない。どちらも根本的な解決はできません」
――では、何を財源にしたらいいのでしょうか。
「巨額の債務がある日本の財政状況では、国の支出はこれ以上増やせない。限られた税収の分配方法を変えるしかありません。他国と比べ、日本は高齢者への社会保障給付費が多い。生活にゆとりがある高齢者に、負担してもらう政策を進める必要があります」
――有権者の中に占める高齢者の割合は高い。落選を恐れる政治家にできますか。
「これまで政治が決断できなかったことが、少子化を混迷させた。決断しないと、国がつぶれるといっても過言ではありません」
――少子化対策として、婚活支援をしようという動きもあります。
「結婚だけ支援しても、少子化対策にはなりません。結婚する時は、結婚後の自分の生活を考えるのではないでしょうか。子どもを産んでも、待機児童になってしまうかもしれない。それで仕事をやめれば、キャリアは断たれ、生涯所得も大幅に減る。そういう状況なら、子どもを産むことを望まなくなり、『子どもを産まないなら結婚もしなくてもいい』という人が出ると思います」
「待機児童がいることは、今、保育園に入れない人が困るだけではなく、若い世代に対しても『子どもを持つと大変だ』というメッセージを送ることになる。政府が、待機児童対策にどれぐらい本腰を入れるかは、若い世代へのメッセージにもなるのです」
今回、匿名のブログがなぜここまで注目を集めたのか。日本総研主任研究員の池本美香さんは「共働きでないと生活できない家庭」の存在を指摘します。その上で、すべての子どもを保育することを提案。「親に任せておけばいいという時代ではなくなっています」と訴えます。
――匿名ブログが共感を呼んだのはなぜでしょうか。
「ずっと前から待機児童が問題になっているのに、改善されないことへの不満ではないでしょうか。非正規職員が増えるなど、共働きでないと生活できない家庭も増えているので、待機児童になった時の深刻さが増していることも影響していると思います」
――なぜ、待機児童をなくせないのですか。
「高齢者向けの政策に比べ、政府のやる気が中途半端だったように思います。高齢者の問題は、ほとんどの人が直面しますが、待機児童は、子どもがいる共働き家庭だけの問題だと見られてきた。そこだけ手厚くすると『不公平だ』という声があがるため、政治がアクセルを踏みきれない状況があったのではないでしょうか」
――昨年春、待機児童解消などをめざす「子ども・子育て支援新制度」が始まりました。効果は出ていますか。
「財源を確保し、保育士の給料を少し上げたのは良かった。一方、この制度では、自治体が『がんばったけれど、待機児童が多くてあなたのお子さんは保育所に入れません』と言えば、それで済んでしまう」
「スウェーデンでは、保育所に入りたいという希望が出されたら、自治体は、おおよそ3カ月以内に保育を提供する義務があります。そうすると、自治体は知恵を絞らざるを得ません」
――日本では、保育所を増やすことが優先され、保育の質が置き去りにされているという不安が出ています。そもそも保育の質は良いですか。
「政府も含めて、誰にもわからないと思います。海外がやっているような、各園の質をチェックして、それを国が集めて分析する仕組みが、日本にはないためです」
――親にできることはなんでしょうか。
「親が、子どもの安全や権利についての意識を高めていくこと。そして、子どもが通う園や、自治体、国に対して、特に自分たちでは意見を言えない幼い子どもの声を、親が代弁していくことが大切です。
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