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感動

「日本一短い手紙」、引退した仕掛け人の思い 今年も大賞5編を発表

福井県坂井市の丸岡文化財団が、日本一短い手紙のコンクール「一筆啓上賞」の入賞作品を発表しました。

1995年、阪神大震災の被災地から寄せられた作品の数々
1995年、阪神大震災の被災地から寄せられた作品の数々 出典: 朝日新聞

目次

 福井県坂井市の丸岡文化財団が、日本一短い手紙のコンクール「一筆啓上賞」の入賞作品を発表しました。かつて「日本一短い『母』への手紙」として出版された本がベストセラーになり、映画化もされたコンクールで、今回で23回目を迎えました。これまでに寄せられた手紙は128万通。町おこしとして始まり、すっかり全国規模となったこの企画の仕掛け人で、昨夏に財団を退いた大廻(おおまわり)政成さん(65)に、今の思いを聞きました。

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過去の大賞作品の一部
過去の大賞作品の一部 出典: 丸岡文化財団のホームページより

今年の5編は


 1月29日に発表されたのは23回目の入賞作。テーマは「うた」で、国内外から2万7657通の応募がありました。大賞は次の5編です。

《母へ》
 おべんとおべんと嬉しいな~と歌いながら僕の嫌いなものを詰めるのはやめてください。(横浜市の高田歩武さん)

《おかんへ》
 おい、おかん。うたっとるときの声でおとんの電話にでてやれよ。(福井市の大丸智樹さん)

《おばあちゃんへ》
 縁側でいつも庭を見ながら何を歌っているの? もうすぐ冬が来るね。家に入ろうよ。(坂井市の宮本菜々華さん)

《会社の元同僚達へ》
 忘年会で歌わされた― 誰も聴いていなかった― 途中で止めても、気づかれなかった― (神奈川県横須賀市の鈴木邦義さん)

《ありがとう大好きなクラスメートへ》
 学校のうたのテスト。みんなが私の前で口パクをしてくれる。耳のきこえない私のために(名古屋市の斉藤凜花さん)

 「おかんへ」を書いた大丸さんと、「おばあちゃんへ」の宮本さんは福井県内の高校に通う高校1年生です。

大賞に選ばれた5人のうちの2人。左が宮本菜々華さん、右が大丸智樹さん
大賞に選ばれた5人のうちの2人。左が宮本菜々華さん、右が大丸智樹さん 出典: 朝日新聞

きっかけは


 コンクールが始まったのは1993年。合併前に丸岡町だったころ、短い手紙文のコンクールで町おこしを図ろうと企画されました。

 なぜ手紙だったのか? 徳川家康の忠臣・本多重次が、息子の「お仙(丸岡城主になった本多成重の幼名)」を大切に育てて欲しいと、陣中から妻に書き送った短い手紙文「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」にちなんでいるそうです。この文章は、要件を簡潔明瞭に伝えた手紙の手本と言われています。

 5000通も応募があればいい、というのが周囲の予想でしたが、ふたを開けると海外18カ国を含め3万2236通が寄せられました。入賞作をまとめた本「日本一短い『母』への手紙」はベストセラーになり、テレビドラマや映画化もされ、丸岡町の名は全国に広く知られることになりました。

 昨年8月には、地元に「一筆啓上 日本一短い手紙の館」がオープン。歴代の入賞作品が、文字が滝のように流れる特殊な映像として紹介されています。

東日本大震災があった2011年のテーマは「明日」
東日本大震災があった2011年のテーマは「明日」 出典: 朝日新聞

発案者と手紙


 コンクールを発案したのが、町職員だった大廻さん。昨年まで財団の常務理事兼事務局長を務めていましたが、腎臓の機能が悪化したため退職。現在は全国で講演活動などをしています。

 地元の高校を卒業後、東京の大学に入りましたが中退。アルバイトを転々とした後、町職員になりました。教育委員会の主査だった91年、町長に町おこしのプランを頼まれ、「日本一短い手紙」を思いついたそうです。

 自身も大学受験で浪人をしていた3年間、東京の下宿から郷里の母に100通近い手紙を書き送りました。そのほとんどに金を無心する一言が書かれていたそうです。67歳で亡くなった母の遺品の中からは、すべての手紙が油紙に包んで大事にとってありました。

 その4年後、郵便局員だった父も亡くなりました。25年間続けていた日記には、自分の名前が毎日のように出てきたそうです。

一筆啓上賞発案者の大廻政成さん。倉庫には、これまでの応募作品がすべて保管されている(2007年2月13日)
一筆啓上賞発案者の大廻政成さん。倉庫には、これまでの応募作品がすべて保管されている(2007年2月13日) 出典: 朝日新聞

これからについて


 なぜコンクールがこんなにも長く続いているのか? 大廻さんは「最初のうちは、長くても10年ぐらいかなと思っていました。40文字以内という短い手紙だからこそ、思いが込めやすいんでしょうね」と話します。

 毎年テーマを決めて募集していますが、テーマ選びに関しても「心に響いて染みるものを」と意識してきたそうです。コンクールのこれからについては「投稿を受ける側が、投稿者の心を受け止めている限りは大丈夫」と話します。

 最後に、大廻さんが日本一短い手紙を書くとしたら、誰にどんなテーマで書くのかを聞くと、こんな答えが返ってきました。

 「担当している間、応募のあった120万通以上のすべてに目を通してきました。できることなら、いつの日にか、そのすべてに対して『ありがとう』と返事を送りたいです」

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