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ロシア元スパイ毒殺現場で、同じ紅茶を飲んでみた 「首筋ひんやり」
ロンドンの「ミレニアム・ホテル」一階のバー。重厚な家具類が、いかにも高級ホテルらしい雰囲気。実はここが、世界を震え上がらせた暗殺事件が起きた現場なのです。
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ロンドンの「ミレニアム・ホテル」一階のバー。重厚な家具類が、いかにも高級ホテルらしい雰囲気。実はここが、世界を震え上がらせた暗殺事件が起きた現場なのです。
ロンドン中心部にある「ミレニアム・ホテル」一階のバー。重厚な家具類が、いかにも高級ホテルらしい雰囲気を作り出しています。実はここが、今から9年ほど前に世界を震え上がらせた暗殺事件が起きた現場なのです。
被害者は、ロシアのスパイ組織で働いていたアレクサンドル・リトビネンコ氏。1962年に生まれ、ソ連はKGB、ソ連崩壊後はKGBの後継組織と作られた連邦保安局(FSB)に所属していました。
リトビネンコ氏の暗殺の一番特異なところは、なんと言っても、毒薬として放射性物質の「ポロニウム210」が使われたところです。リトビネンコ氏が2006年11月1日に、このバーで飲んだお茶の中にポロニウム210が入れられていたとみられています。
リトビネンコ氏はその日のうちに嘔吐を繰り返すなど、体調が急変。入院後、髪の毛もすっかり抜け落ちました。ポロニウム210が原因だと分かったのは、3週間後に亡くなる直前のことでした。
容疑者として浮かんだのが、ホテルのバーでリトビネンコ氏と会っていた2人のロシア人。いずれもロシアの情報機関の関係者です。英国は2人の身柄を引き渡すよう要求しましたが、ロシアはこれを拒否。2人のうち1人は今や、ロシアの国会議員になっています。
私がこの事件の現場を訪れたのは、一昨年5月のことでした。出張でロンドンを訪れた機会に、立ち寄ってみたのです。あの日のリトビネンコ氏と同じように紅茶を飲んでいると、首筋のあたりがひんやりするような感覚に襲われました。
驚いたのは、ホテルの目の前に米国大使館があるという立地です。こんなところで良く堂々とポロニウム210を使ったものです。
今年に入ってまた、リトビネンコ暗殺に関心が集まっています。英国の調査委員会が、ロシアのプーチン大統領が暗殺計画をおそらく事前に承認していただろうという報告書を発表したからです。
リトビネンコ氏は生前、プーチン政権を厳しく批判し、英国の情報機関「MI6」と協力関係あったことなどが、ロシア政府が関与する背景として指摘されました。殺害に使われたほどの量のポロニウム210を生産するには、国が管理する原子力施設が必要だという理由もありました。
これに対してロシアは「プーチン大統領の関与に何の根拠も示されていない」と強く反発しています。
それにしても、なぜ犯人はポロニウム210を殺害に使ったのか、肝心の点がはっきりとしません。容疑者2人の立ち寄った先や搭乗した航空機からは放射性物質の痕跡が至るところで見つかりました。専門家は「もっと目立たず、暗殺に適した毒薬はいくらでもある」と話しています。
この前代未聞の暗殺事件には、まだ深い闇が隠されているようなのです。
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