お金と仕事
図書館の新刊本貸し出し、何が悪い? 「増刷脅かす」1年縛り求める
出版不況は、図書館のせい? 新刊本を1年間貸し出さないよう、出版社が図書館に求めています。
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出版不況は、図書館のせい? 新刊本を1年間貸し出さないよう、出版社が図書館に求めています。
出版不況は、図書館のせい? 新刊本を1年間貸し出さないよう、出版社が図書館に求めています。この問題、実は1970年代から始まっていたそうです。海外では、著者に国が一定額を補償するケースも。解決策はあるのでしょうか?
出版不況の中、出版社からやり玉にあげられている新刊本の貸し出し。慶応大の根本彰教授(図書館情報学)は朝日新聞の記事(2015年10月29日)で、発端は高度経済成長の時代にさかのぼることを指摘しています。
1970年代、自治体が住民サービスの充実させる中、図書館の貸し出しを重視しました。根本教授は「出版は江戸時代以来、根付いてきた産業。そこに公共による資料の無料提供という全く異なる理念が乗っかった」と分析します。
2000年代初めごろ、図書館の新刊本貸し出し問題が表面化します。作家らから「図書館が無料貸本屋化している」という批判が起き、2002年に大手出版社による「出版社11社の会」が発足。「複本」という一つの図書館による人気作品の複数冊購入を問題視しました。
2003年には、図書館協会と日本書籍出版協会が、実態調査をしましたが、商業的影響の数字の評価をめぐって双方の議論は平行線をたどりました。
その間に、出版不況が深刻化します。国内の書籍(雑誌を除く)の売り上げのピークは1996年で、以降、減少傾向に歯止めがかかっていません。2014年はピークの7割弱に落ち込みました。出版不況の一方、全国の公共図書館(ほぼ公立)は増加傾向にあります。10年で400館以上増え、3246館になっています。
2015年10月、全国図書館大会の分科会で出版社と図書館との議論が紛糾しました。
新潮社の佐藤隆信社長が図書館関係者を前に「増刷できたはずのものができなくなり、出版社が非常に苦労している」と訴えたのです。出版社が増刷を重視するのは、重版できて初めて採算ラインに乗るという事情があるからです。
大手出版社の文芸作品は一般的に、最初に刷った部数(初版)の9割が売れて採算ラインに乗り、増刷分が利益となるといわれています。ベストセラーが出るのはまれなため、初版2万~3万程度の作品で収益を確保できるかが死活問題になっています。図書館による新刊本の貸し出しによって、増刷ラインに届きにくくなっているというのが、出版社側の言い分です。
図書館側の受け止めは複雑です。日本図書館協会の山本宏義副理事長は朝日新聞の記事(2015年10月29日)で「図書館の影響で出版社の売り上げがどのくらい減るかという実証的なデータがあるわけではない」とコメントしています。
出版を文化としてとらえた時、誰でも無料で本が借りられることは、図書館の大事な機能です。ヨーロッパの多くの国では、著者に一定金額を補償する制度を導入しています。
スマホやゲームなど、図書館以外にも出版不況の影響は考えられます。根本教授は「公立図書館の貸し出しが出版不況の原因になっているのか調査する必要があります」と話しています。
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