お金と仕事
「日本一サイテー」を巡るバス会社の仁義なき戦い 最安運賃への執念
岡山市の民間路線バスが「日本で最も運賃が安いバス」となりました。37年ぶりの「サイテー会社」の交代です。
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岡山市の民間路線バスが「日本で最も運賃が安いバス」となりました。37年ぶりの「サイテー会社」の交代です。
創業97年の路線バス会社「宇野自動車」(岡山市)が今月、晴れて「日本一サイテー」の名誉に輝きました。サービスが悪いという話ではありません。民間路線バスの運賃のことです。長年にわたって運賃最安だった長崎のバス会社が今月から運賃を値上げしたことで、王者が入れ替わりました。宇野自動車は「悲願の達成。サービスでは最高を目指す」と意気込み、特設サイトまで作ってしまいました。
民間バスの多くでは「対キロ区間制運賃制度」という運賃体系を採用しています。2キロまでは初乗り運賃、2キロを超えて10キロまでは20円を加算…などと乗車距離に応じて運賃が変わっていく制度です。こうした「対キロ区間制」を採る民間の路線バスは全国に174事業者(保有車両が30台以上)ありますが、この中で「最安運賃」のバス会社が長崎自動車(長崎市)から宇野自動車へと交代したのです。
長崎自動車は1978年の運賃改定時に日本一最安になりました。以降数回の運賃改定がありましたが、全国の民間路線バス会社の1キロあたりの平均運賃が40円前後というなか、同社は21円50銭と最安水準を維持してきました。しかし、24円50銭にする改定を国土交通相に申請。10月1日に実施されました。同社の担当者は「輸送人員の減少とバス事業を維持するための費用がかさんだためだった」と説明しています。
「いやあ、念願のことでしたよー」と喜ぶのは宇野自動車の宇野泰正社長。宇野社長は入社した1979年から「いつかは長崎さんを抜く」と狙い定めていたそうです。
宇野自動車は1918年創業。創業以来、バス事業を専業としてきたユニークな会社です。「最高のために最低を目指す」をモットーに、1998年には全国で初めて「運賃値下げ」の運賃改定をしました。今では1キロあたりの平均運賃は23円20銭。「すぐに長崎さんとの差が埋まるわけでもなかった。何十年もかけてのチリも積もれば…でしたね」と社長。
同社は今月7日、「日本最低に」という特設サイトを公開。「宇野バス誕生から97年 その日が到来しました」と喜びを爆発させています。
安い運賃にこだわる宇野自動車ですが、実はこれまでずっと黒字経営。日本のバス会社の85%は赤字経営という調査結果もあるなか、これは驚きです。宇野社長は「企業努力を重ねた結果。これだけ可処分所得が上がんなかったり、高齢者が増えたり、若い人が車を持たなかったりするなかで、バスの運賃が安いというのは大きなことだと思います。サイテーだけでなくサイコーも目指していきたい」と話しています。
一方で、サイテー王者の座を譲り渡した長崎自動車の担当者は「入社時期が古い社員は何か思うことがあるかもしれませんが、社内で落胆の色が濃くなったということはないです」と淡々としていました。
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