話題
八丈島の台風被害、一見ふつうに見えても…求められるのは観光の復活
話題
木村充慶 FUKKO DESIGN
共同編集記者相次ぐ台風に襲われた東京・八丈島。被害の深刻さや、その後の状況がなかなか伝わってきません。東京・吉祥寺でミルクスタンドを運営している筆者は、よく八丈島の牧場のミルクを扱っていました。長く災害支援に携わってきた背景もあり、現地の牧場がどんな状況なのか確かめ、できることがあればお手伝いしたいと、現地を訪ねました。(木村充慶)
八丈島を襲ったのは10月の台風22号・23号。土石流が起きたり、突風で建物がなぎ倒されたり、多くの被害が発生しました。
ようやく断水は解消されたものの、いまだに節水が必要だったり、島内の施設が閉まっていたり、通行止めの道があったり……大変な状況は続いています。
復旧作業は続いているものの、必要最低限の準備が整って観光を再開したと聞き、私も八丈島を訪問しました。
もともと八丈島は東京から飛行機で1時間程度で来られる好立地。一年じゅう多くの観光客が訪れますが、私が乗った飛行機では観光客はいるものの、復旧作業の出張と見られる方々が多くいる印象でした。
島内ではイベントが軒並み中止となり、団体客もほとんど来ていないといいます。
落ち着いたタイミングで自治体が主導して観光キャンペーンがスタートし、徐々に回復していくと見込まれますが、そこまでに事業者が経営を維持できるか心配になりました。
八丈島には濃くておいしいミルクで有名な「ジャージー牛」を放牧している「ゆーゆー牧場」があります。
太平洋が見える島東部の崖沿いにあり、反対側には八丈富士も見渡せる大絶景の牧場です。
かつて八丈島は酪農が盛んな地域でしたが、本土で酪農が広がったことで徐々に衰退していきました。
そして、島最後の牧場がなくなってしまうという危機に直面した時に、ホテルオーナーを中心に3人で立ち上げたのが「ゆーゆー牧場」です。
元々ゴルフ場だった場所を放牧地にしており、5ヘクタールほどの広大な敷地があります。放牧は広い面積を必要とするため、土地を確保しづらい都心にはほとんどなく、とても珍しいです。
放牧されているジャージー牛には、アシタバやマグサ、八丈島の島レモンなど、地元の食材をふんだんに食べさせていて、甘くソフトクリームのような味になっています。
こちらのミルクは筆者が運営するミルクスタンドでも扱っており、とてもおいしくて人気です。
牧場を訪れると、被害は感じられず、牛たちはいつも通りのびのび過ごしているように見えました。
ただし、よくよく見ると、椰子の木の葉は枯れ、大元から折れてしまっているような木もたくさんありました。
牧場スタッフに被害について聞くと、台風の強風と塩害で葉が枯れ、牧場のあちらこちらに落ちてしまった葉が残っているとのことでした。
この葉は、硬くて牛は食べないため、すべて片付けなければならないそうです。
台風当時は、子牛の小屋が壊れてしまいました。
台風が落ち着いてすぐにスタッフの1人が駆けつけたそうですが、小屋から子牛がいなくなっていました。あたりを探すと、物陰に隠れていたそうです。
また、被災後しばらくは電気も水道も止まり、搾乳機が使えず手搾りで作業を続けた日もあったそうです。
しかも、電気と水がないため、そのミルクを殺菌もできず、泣く泣く廃棄するしかありませんでした。
災害後は牛も不安定になり、しばらくは1頭あたりの搾乳量もかなり減ったといいます。
牧場を立ち上げたホテルオーナーの歌川真哉さんは、災害後の牧場の経営の厳しさを話してくれました。
「すでに作っていたミルクや乳製品、牛乳をつかったお菓子などの在庫がたくさん積み上がってしまってしまいました。ホテルの売店や町のカフェ、お土産屋さんなど多数で販売していましたが、観光客がゼロになってしまい、全く販売できなくなってしまいました」
しかし、その現状をSNSで伝えると、多くの人がECサイトを通じて買ってくれたそうです。
災害後のクラウドファンディングでは多くの人が支援してくれて、なんとか経営は維持できる状況になっているといいます。
ただし、支援は長くは続きません。歌川さんは「これから人々の関心が薄れていくのが心配です」と語りました。
牧場オーナーの歌川さんが牧場の隣で運営する「リードパークホテル」は、団体なども泊まる、島では最大規模のホテルです。
メインで使っている本館はコンクリート造で、ガラスが割れるといった最低限の被害ですみましたが、スタッフ用の別館は木造だったため、屋根が崩れたり、亀裂が入ったりといった被害が発生したといいます。
災害後も降った雨で建物はかなり傷んでおり、修理が必要ですが、島では他でも工事が殺到しており、業者もなかなか作業が進まない状況です。
多くの従業員を抱えており、観光客が来ないことで多額の赤字になってしまいます。リードパークホテルでは、災害後1億円近いマイナスが予想されているといいます。
台風の被害が最も大きかった事業者のひとつが「アシタバ加工場」です。加工場兼直売所の一部が強風で吹き飛ばされてしまいました。
社長の山田真之介さんに伺うと、幸い在庫を置いていた倉庫は被害を免れ、来年の9月までは今の商品を売り続けられるとのことです。
ただし、アシタバの収穫期は3月から6月。来年の3月までに工場を再開させないと製造ができず、在庫が切れる来年9月以降、売るものがなくなってしまいます。
現在の場所は全壊認定をうけ、解体する予定です。落ち着いたら今の場所かどこか他の場所に新たに工場を建てたいと思っているそうです。
ただし、来年3月には間に合いません。そこで、地域の仲間に借りた施設へ一時的に製造機器を移して、臨時で製造する場所を作る予定です。
農園の吉田公新さんは、甘くて黄色いフルーツのような八丈島特産の「八丈フルーツレモン」をつくっています。
吉田さんは東京の本土で植木職人をしていましたが、八丈島に移住し、3年前からレモンを作っています。
選定なども細かく丁寧に行い、有機肥料、減農薬でレモンを生産しており、そのまま食べても問題ないそうです。
農園は一見大きな被害がないように見えますが、ハウスの屋根に貼られたトタンが全てガタガタになってしまい、災害後は雨漏りがひどくなってしまったそうです。
「雨漏りなんてたいしたことがない」と思うかもしれませんが、雨水がかかったレモンは病気のリスクが上がるそうです。
なっているレモンもきれいに見えますが、害虫被害により「値段が安い傷物として販売するしかない。今年は贈答品として売れるものがなくなった」といいます。
来訪者には、レモンの摘み取りでキロ単位の量り売りをしているため、吉田さんは「観光が復活し、少しでも多くの人に買ってほしい」と言います。
八丈島では徐々に観光が戻りつつあるそうですが、完全な復活にはまだ時間がかかります。
海も山もあって自然豊かで、島焼酎や「くさや」など特徴的な「食」もいっぱいの八丈島。観光の受け入れが広がれば、多くの人が再び足を運ぶと思います。
しかし今、大きな課題になっているのは 「完全な復活まで耐えられるかどうか」 です。
観光で潤っていたからこそ、観光が回らないと経済が回りません。来年春の観光シーズンに向けて観光を復活させる計画になっているようですが、それだけでは足りないかもしれません。
どれだけ多くの人が訪れてくれるのか。金銭的な面はもちろん、応援する気持ちが島民への支援のアシストになるはずです。
島では、有志たちがクラウドファンディングで支援を募っています。
バラバラに行って支援の不均衡が起きないように関心のある事業者たちが一斉に公開されています。ぜひ興味のあるものに支援してもらえればと思います。
1/7枚