話題
遠藤博さんからの取材リクエスト
安保法案反対デモの参加者数は捏造?群衆の正確な数え方ってどうするの
安保法案反対デモの参加者数は捏造? 群衆の正確な数え方とは
大規模なデモがあるたびに、参加者数が話題になります。正確に測る方法はあるのか。数えた人や学者に聞きました。
話題
安保法案反対デモの参加者数は捏造?群衆の正確な数え方ってどうするの
大規模なデモがあるたびに、参加者数が話題になります。正確に測る方法はあるのか。数えた人や学者に聞きました。
安保法制についての国会周辺のデモで主催者発表12万、警察発表3万の相違があった。当日の写真などの映像で確認できないか。1%に満たないという御仁に教えてあげたい。 遠藤博
8月30日に国会前を中心に開かれた安保関連法案への反対デモの参加者人数をめぐって、ネットでは様々な議論がありました。主催者発表は約12万人。警察関係者によると「国会周辺だけで3万3千人」。独自に数えたメディアや個人もいましたが、数字はバラバラです。どれが正確なのか。そもそも正確に数えられるのか。数えた人や研究者に聞きました。
ネット上では、国会前デモの空撮画像と10万人規模のコンサートや集会の映像を比較し、デモの参加者の方が明らかに少ないという意見が続出しました。
この写真で比べると、GLAYコンサートの方が圧倒的に多いように見えます。
産経新聞社は空撮画像から、国会前の群衆を9つのブロックに分け、一ブロックの人数を3600人と推計して9倍することで、独自に3万2400人という数字を割り出しました。
群衆がいる場所を分割し、各ブロックの人数を推計して全体数を割り出す。これは群衆を数える一般的な手法です。警察関係者の数字ともほぼ一致しており、一定の合理性があるように思われます。
一方、主催者側で約12万人という数字を集計した「許すな!憲法改悪・市民連絡会」の高田健さんはこう反論します。
「国会前だけでなく、国会の南北、裏側、首相官邸、国会図書館周辺、霞が関と日比谷公園周辺にも集まっている人たちがいた。その合計が12万人です」
8・30国会10万人大行動始まりました。日比谷公園一帯でも「戦争法案絶対反対」のコールが響き渡っています。 pic.twitter.com/gJT3dYN6iz
— 赤旗国民運動部 (@akahatakokumin) 2015, 8月 30
たしかに、国会前以外にも人がいたことが、これらの写真からわかります。
各地にいた人の中には、最終的に国会前に向かった人もいれば、その場に残った人、途中で帰った人もいます。高田さんは「人の出入りがあるけれど、延べ人数を数えるのは不可能。一番数が多かったデモ終盤に、各地に散らばっているメンバーがだいたいの数を事務局に報告し、集計した」と話します。
延べ人数でないため、途中で帰った人は入っていません。また、「各地から報告される概数の集計」ということで、実数との差が大きくなる可能性もそれだけ増していくのは避けられません。
まったく違う手法を使った人もいました。デモ参加者の大半はなんらかの交通機関を使って国会前に集まったはず。なので、周辺の交通機関の改札口を出た人の数を調べ、デモがあった日とない日の差を比べて割り出す手法です。
このブログを書いたのは多ケ谷亮氏(生活の党と山本太郎となかまたち東京都第10区総支部長)は、国会議事堂周辺の地下鉄4駅(国会議事堂前駅、永田町駅、霞ヶ関駅、溜池山王駅)を調べました。乗降客数ではなく、「改札口を出た人の数」としたのは、来るときと帰るときで2重集計する誤りをさけるためです。
すると、デモがあった30日は、他に大きなイベントはなかったにもかかわらず、デモがなかった16日の日曜日より4駅で計72,189人増えていることがわかったそうです。(データが一部欠けているため、推計含む。詳しくは以下のブログ)
データについて、改めて東京メトロ広報課に確認しました。ブログ記事「4駅のデータ」の中の永田町の23日分のデータは「概数なので若干の違いがある」(広報課)が、それ以外は正確なデータだそうです。
多ケ谷氏はこれらのデータから、雨の影響で通常なら駅の利用者数は1割程度減るという点も考慮したうえで「7万人以上の参加者」と推計しています。
「警察や主催者はどうやって計算しているのか不思議でした。メディアは当然調べていると思って各駅の事務室に問い合わせたら、誰も聞いていないと知って逆に驚きました」(多ケ谷氏)
納得度の高い手法で、フェイスブックでは1万5千件シェアされましたが、毎回使えるわけではありません。今回の日曜日の国会前のように周辺の駅の利用者数が普段は少ないためにデモの日との比較がしやすく、しかも、他にイベントがほとんどないというのは、例外的だからです。
例えば、9月6日に新宿で開かれたデモの参加者をこの手法で計算しようにも、新宿駅は1日の乗降客数が300万人に及ぶマンモス駅のために、デモがある日とない日の差を出すことが困難です。しかも、周辺では毎日のように多数のイベントが開かれているために、利用者数の増減がデモによるものなのかどうかの特定は不可能です。
また、東京メトロ広報課によると、「改札口を出たとしても、そのまま別の路線に乗り換える人もいるので、すべて駅から出て行った人ではない。解釈が難しいこともあり、原則的には非公表のデータ」だそうです。
デモや集会の参加者数が主催者側と治安当局側で異なるのは、日本だけの話ではありません。この問題は各国で議論され、研究もされています。早稲田大院政治学研究科ジャーナリズムコースで、データ・ジャーナリズムを教える田中幹人准教授に聞きました。
--群衆の数を正確に数える方法はあるんでしょうか。
「正確に測る手法は、現実的には存在しません」
--一刀両断ですね。
「しかし、現実的にはないからと、ジャーナリズムが自分で数えようとしない言い訳にはなりません。それを求める努力は大切ですし、実際に様々な取り組みがなされています」
--どうすれば良いでしょう。
「流動する群衆を測定するのは、確かに非常に難しいです。特に、今回のように三々五々集まっては去って行く状態は一番難しい。コンサートの人数と比較している例がありましたが、一カ所に一定時間とどまるようなコンサートと今回では形式が違うので比べるのは論外です」
--じっとしているわけではない群衆を数える方法が、あるんでしょうか。野鳥の会方式?
「全員を1人ずつ数えるのは、それこそ現実的ではありません。例えば、デモを定点観測し、人の出入りを想定して数学的に計算するモデルも提案されています。実際、香港のデモの際に香港大の研究者らがそういった取り組みをし、論文を発表しています。また、ある程度の高さから経時的に写真を撮る、人の流れに逆らって移動しながらカメラを回す。そうやって人の動きも把握した上で計算することは、理論的には可能です」
--時間と人手がかかる上に、難易度が高いです。
「確かにそうです。こういうときこそドローンを飛ばしたいところですが、場所的にも安全面からも難しい。より現実的な手法として、多ケ谷さんのようなブログでの試みも、本来ジャーナリストがやらねばならないことでした。最寄り駅である桜田門駅のデータ不開示があることや、永田町駅(国会議事堂からGoogleルート検索で約1km)、赤坂見附駅、赤坂駅、日比谷駅(いずれも約1.5km)からも充分にアクセス圏内であることを考えると、実際はもっと多かったかもしれません」
--主催者と警察で発表する数字が異なる例は、世界中で見られます。メディアや研究者が独自の数字も加えていくと、数字の乱立になってしまいます。
「いろいろな数が出てきたら、それぞれに各陣営に『利用される』ことも受け止めなければなりません。そのうえでなお、こうした試みはジャーナリズム的に意義が有ります。主催者と警察から出る2つだけの数字より、いくつもの数字を通して考えた方が真実に近づくからです」
--数字が各陣営の意見を補強する材料として使われてしまうのには、どう対処したらよいでしょう。
「数字は客観的な指標と思われがちですが、そうではありません。常に主観や党派性を伴って算出され、誰かの物語に組み込まれるものです。定量的な数字は大切ですが、その数字の内実を定性的・質的に記述することが重要な意味を持っています」
--数字を数えるだけでは、真実は見えてこないと。
「例えば、その集団がどういった人たちで構成されているのか。小集団のデモは比較的に均質な集団ですが、ある程度以上の集団においては多様性が増します。全員にインタビューすることは不可能ですが、インタビューを繰り返し、その多様性を体現できる数名へのコメントを厳選するなどして、その集団を描くことは、単純に数を数える以上に重要な意味があるのではないでしょうか」
「さらに、ソーシャルメディアの発達によって、その場にとどまらない広がりも出てきています。人数の把握が難しかったエジプトのタハリール広場や米国の『オキュパイ・ウォールストリート』の例では、ジャーナリストや研究者たちはその場にいる人々だけでなく、ソーシャルメディア上での運動の広がりも調べようと試みました。デモの参加者を数えることは大切ですが、それだけにとどまっていてはいけません」
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