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銀座の奇妙なビル、中銀カプセルタワーに潜入 築43年、保存活動も
黒川紀章さんの代表作、東京・銀座の「中銀カプセルタワービル」。クラウドファンディングを使った保存活動が立ち上がりました。
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黒川紀章さんの代表作、東京・銀座の「中銀カプセルタワービル」。クラウドファンディングを使った保存活動が立ち上がりました。
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建築家の故黒川紀章さんの代表作として知られる東京・銀座の「中銀カプセルタワービル」。住民有志によってクラウドファンディングを使った保存活動が立ち上がりました。大きなツリーにカプセルが、ぼこぼこくっついている独特の外観。カプセルは着脱可能で、メタボリズム(新陳代謝)という建築理念を象徴する存在です。完成から43年。リノベーションされたカプセルがあったり、雨漏り対策に苦心する跡があったり。内部から見るビルは、今も、独自の進化を続けていました。
「中銀カプセルタワービル」は、銀座のど真ん中にあります。不動産会社の「中銀(なかぎん)グループ」が1972年に完成させました。地上13階建てと11階建ての2棟からなり、1階と2階が事務所、3階以上が個室カプセルの分譲マンションです。
エレベーターや階段がある鉄骨鉄筋コンクリート製の2本の塔に、140個のカプセルをボルトで固定。カプセルの大きさは幅2・50メートル、奥行き4メートル、高さ2・55メートル。ユニットバスやトイレ、ベッドなどが備えられたワンルーム型で、事務所やセカンドハウスとして使う人、実際に住んでいる人も少なくありません。
カプセルは交換可能です。社会の変化に合わせて、建築の一部分を更新していくというメタボリズムの考え方は、リサイクルの発想の先取りだったとも言われています。
プロジェクトでは、「中銀カプセルタワー」をテーマにした本の出版を目指しています。実際の住民が使っているカプセルを紹介する「生きたカプセルの記録のまとめ」「現代人へのライフスタイル事例を提案」などを目的にしています。2015年8月14日までに、150万円を集めることを目標にしています。
本の出版を通じて「中銀カプセルタワー」の存在を多くの人に知ってもらい、保存運動につなげていくねらいがあります。
クラウドファンディングを立ち上げたのは、カプセルのオーナーでもある前田達之さんです。5年前にたまたま売りに出ていたカプセルを購入。「何かにとりつかれるように」(前田さん)に、カプセルタワーにのめり込みます。気付いたら、所有するカプセルは9個に。自宅は別にありますが、土日はほとんど修理やリノベーションのため、どこかのカプセルにこもっているという生活です。
「ここ最近、保存したいというオーナーが増えてきた」という前田さん。完成から43年。文化財としての価値が高まり、オーナー以外からも保存を求める声が寄せられているのを受け、プロジェクトを立ち上げました。
カプセルタワーの内部は、レトロなビルという雰囲気です。雨漏り対策の跡、新たに設置した配管設備など、随所に40年の歴史を感じさせます。
前田さん所有のカプセルの1つに入りました。床はフローリング。入ってすぐ飛び込んでくるのは、ビルの顔ともいうべきカプセルの円窓です。ビル全体にネットがかかっているものの、日当たりはそれほど悪くありません。窓の外には首都高、その先には汐留の高層ビルが立ち並びます。都会のど真ん中にありながら、カプセルの内部には不思議な静寂が流れています。
壁には、建築当初からある備え付けの家具が残っています。壁に収まるデスク、埋め込み式の時計やオーディオ設備。曲面の壁で囲まれたユニットバスの窓も円窓です。必要最小限の設備に、どことなく遊び心とスタイリッシュなセンスが同居しています。
カプセルタワーをめぐっては、一時、建て替えの話が持ち上がったこともありました。銀座の一等地にあることから、投資目的で所有している人も少なくないそうです。マンションという住居としても、雨漏りや温水設備などの不具合など、課題は少なくありません。
それでも、前田さんのまわりには保存をめざすオーナーが集まっています。
「最近、特に海外の人の注目が高まっている」と前田さん。世界的な映画監督が、来日中に見学に来たこともあるそうです。
前田さんは、カプセルタワーには黒川さんの思想が今も息づいていると言います。
「この建物には、面白い人を自然に集める引力がある。リノベーションをしたり、今回のような保存活動が始まったり。黒川さんが掲げた『メタボリズム』が、そういう形で今も実践されている」