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米アカデミー賞、どう決まる? 日本人の投票者・ワダエミさんが語る
映画界の世界的な権威、米アカデミー賞。その内幕を、投票権をもつ衣装デザイナー・ワダエミさんが明かしてくれました。
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映画界の世界的な権威、米アカデミー賞。その内幕を、投票権をもつ衣装デザイナー・ワダエミさんが明かしてくれました。
映画界の世界的な権威、米アカデミー賞。その授賞式が今月23日(現地時間22日)、ハリウッドで開かれます。作品賞や監督賞、主演男優・女優賞などが発表されますが、いずれも「映画芸術科学アカデミー」の会員の映画人ら約6千人の投票で決まります。興行成績や俳優の人生まで左右するアカデミー賞は、どのように選ばれるのでしょうか。
投票権を持つ数少ない日本人のひとりで、自身も1986年に受賞した、衣装デザイナーのワダエミさんが内幕を明かしてくれました。
授賞式のリハーサルのため会場に行ったら、私の席は真ん中だったんです。出やすい席の人が受賞するんだろうなって思いました。
でも当日、プレゼンターのオードリー・ヘプバーンが「エミ・ワダ」と読み上げ、「あ、きた」と。スピーチ原稿はハンドバッグの中。持って行くわけにいかないと気づき、黒澤(明)さんの通訳と一緒に壇上へ。オスカー像を見ながら「これには私の衣装は必要ないようです」と言ったら、どっと受けちゃった。
「夫にも感謝」と言うと、通訳が「マイワイフ(私の妻)」と言ってしまい、またどっと受けました。
オードリーが、私の名前について「あの発音でよかった?」って聞いてくれた。オスカー像はケースがないから、セーターにくるんで持ち帰りましたよ。
ノミネートされるまでアカデミー賞に何の関心もなかったし、どれだけの価値があるかも知りませんでした。でも世界で非常に有名になった。今も次から次へと山のようにオファーがきて、今年も海外の映画やオペラの仕事があります。
ただ、日本映画からは注文がない(笑)。故・大島渚監督『御法度』(1999年)が最後。『乱』や『利休』に使ったような衣装を映画のために作るのは、今の日本では難しい。職人が減って、お金も時間もかかります。
受賞後に会員になって以来、アカデミー賞は29年間途切れることなく投票し続けている。年末になると映画のDVDが次々届き、ノミネーションの投票のために見続けなくちゃいけない。授賞式も母や夫・和田勉が亡くなった時以外は出席している。会員も自分がノミネートされなければ有料。チケット代は徐々に上がり、昨年は1枚1000ドルで買いました。
投票と出席を続けてようやく、アカデミー賞のすごさがわかってきました。実際に映画界で働いている人が投票して決まるプロの賞。3Dの時代になっても、芸術の部分がやっぱり重視されるし、大ヒットして興行収入がいいからといって受賞できるわけじゃない。
最近は司会がテレビ向けだったり、授賞式がつまんなくなっちゃった。それでも会場にいると、映画を作る者同士の連帯を感じます。あと1回で30回。それまで投票しようかな。
(聞き手・朝日新聞GLOBE記者、前ロサンゼルス特派員 藤えりか)
<ワダエミ> 1937年京都府生まれ。京都市立美術大学西洋画科を卒業後、演劇や舞踊などの美術・衣装を手がける。57年に演出家の故・和田勉氏と結婚。86年、黒澤明監督「乱」でアカデミー賞衣装デザイン賞受賞。米エミー賞衣装デザイン賞(93年)、香港電影金像奨衣装デザイン賞(2003年)など受賞歴多数。