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中江有里さん「トンネル抜ける前から雪…」 名作誕生の地で文学論
女優で文筆家の中江有里さんが、川端康成の「すごみ」が伝わってくると言う小説「雪国」。2014年12月、舞台となった新潟を訪れた中江さんに、国民的小説の文学論を聞きました。
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女優で文筆家の中江有里さんが、川端康成の「すごみ」が伝わってくると言う小説「雪国」。2014年12月、舞台となった新潟を訪れた中江さんに、国民的小説の文学論を聞きました。
女優で文筆家の中江有里さんが、川端康成の「すごみ」が伝わってくると言う小説「雪国」。2014年12月、舞台となった新潟を訪れた中江さんに、国民的小説の文学論を聞きました。
――「雪国」の冒頭は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」ですが…
今日は、トンネルを抜ける前から雪でした。ふふふ。トンネルを抜けても雪だった感じでした。
――「雪国」を最初に読んだのは
たぶん20代。最初はつかみどころが無くて、「これはなんだろう」と思いました。本格的に読み直したのは、30代になり、大学に入ってから。授業の関係で、国語を研究する、文学を研究するという立場で川端康成を読み返しました。
私は川端康成が見いだした北条民雄という作家について卒論を書いたのですが、川端がいなければたぶんそこにはたどり着かなかったので、川端は自分にとっても非常に大きな存在ではあるんですよね。
――「雪国」を読みかえしての印象は
私は最初、主人公の島村という男がとても勝手な男だ、と感じました。単純に読めばそう読めるのですが、読み返すと、島村はやはり川端自身のある種の深層心理みたいなものを表しているんだな、ということに気付きました。
あとは、文章の端正なことにも。冒頭の文章もそうですが、表現にすごみを感じますよね。自分がもし同じ景色にぶつかった時、同じように書けるのかというと、やっぱりすごい方だなと。川端康成が川端康成である理由というものを感じます。
――「雪国」を読んだことがない人たちに、読み方のアドバイスを
難しいですね。でも、そういう国民的な小説って数えるほどしかなくて、意外とそういう本って読んでいない人が多いと思う。
研究書がいっぱい出ているので、それらを読書の指針にして読んでいく、というのも面白いと思う。川端康成は読み方が色々あって既に研究され尽くしているので、私は卒論で川端を避けたところがありますが、逆に、そういういろんな読み方がなされているのは、これくらい国民的作家でしかも国民的作品と言われるものでなければなかなかない。
「雪国」だけを読んで、どう解釈して良いのかつかみどころがないと思った方は、図書館に行くと研究書がいっぱいあるので、一緒に読むのも一つの手ではないかな、と思いますね。
――女優として演じてみたい気持ちは
私は川端康成では、「古都」(1994年)の主人公を1人2役で演じているのですが、多くの方に読まれている本にはいろんなイメージがついているので、それを映像化するということは期待とプレッシャーとを両方、一度に引き受けるところがありますよね。あの時は若かったからできた、とも思います。
また、私は脚本も書くので、テレビや映画ではオリジナルの脚本をもっとやってもらいたいな、という気持ちがあります。小説は小説で楽しめるし、小説じゃないと書けないことを書いているところもあるので、これを映像化したらどうだろう、ということはあまり考えません。
――新潟を訪れた印象は
2013年11月、新潟市の豊栄の方で講演があり、新潟は2回目なんです。まだ雪の降っていない時期でしたが、月岡温泉に1泊しました。お酒は飲めないのですが、お米はいただきました。
新潟は、すごくイメージとピッタリでした。どの方にも親切にしていただいて、派手ではないながらも、身にしみるような優しさを感じました。
――東京との違いは
私が今住んでいる東京にいると、新潟はとても遠いところに思えますが、来てみるとそうでもないと改めて確認しました。あと、世界が違うんですよね。
――世界が違う?
人が少なくて、ざわざわしていない。今、東京はイルミネーションだらけ。嫌いではないのですが、やはり人工的なものなので、精神的にはちょっと疲れる。落ち込んだり、気持ちが優れなかったり、体調が優れなかったりする方がそういう妙に派手なものにぶつかると、ちょっと気後れする部分などがあるわけですが、新潟の自然なもの、雪の白さとか闇の暗さが心にしみて慰められるところがあり、ホッとするんですよね。
今日は雪の白さに加えて空が青くて、コントラストが美しくて。山もきれいでした。そういう美しさを堪能し、心が洗われました。そうした違いから、日本という国の豊かさを感じます。
――新潟で次に行ってみたいのは
佐渡です。瀬戸内寂聴さんの小説(佐渡に流された世阿弥を描いた「秘花」)に出てきて。世阿弥ゆかりの地なんかも見てみたいですね。
――新潟が舞台の作品を書いたことは
まだ書いたことがないですが、そのうち書きたいと思います。新潟というと実は、一緒にお仕事をしたことがある(新潟市出身の芥川賞作家で、法政学教授の)藤沢周さんのイメージが強いので、藤沢さんにも色々聞かないと(笑)。
なかえ・ゆり 1973年12月26日生まれ、大阪府出身。89年に芸能界デビューし、主な主演にドラマ「綺麗(き・れい)になりたい」、映画「奇跡の山 さよなら、名犬平治」など。2002年、「納豆ウドン」で第23回「BKラジオドラマ脚本懸賞」の最高賞を受賞し、脚本家デビューした。著書に小説「結婚写真」「ティンホイッスル」など。13年に法政大学通信教育部文学部日本文学科を卒業。