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IT・科学

川上量生会長「グーグルやアップルはコンテンツ買い叩く」 中編

KADOKAWA・DWANGOの川上会長に聞くインタビュー中編。「反アマゾン法があるフランスは、時代錯誤ではなく賢い」「グーグルやアップルだと、結果的にはクリエーターは儲からない」。コンテンツ関係者、必読です。

インタビューに応じるKADOKAWA・DWANGOの川上量生会長=古田大輔撮影
インタビューに応じるKADOKAWA・DWANGOの川上量生会長=古田大輔撮影 出典: 朝日新聞

目次

注目のロングインタビュー
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 KADOKAWA・DWANGOの川上量生会長へのロングインタビュー中編。「反アマゾン法があるフランスは、時代錯誤ではなく賢い」「グーグルやアップルだと、結果的にはクリエーターは儲からない」等々、持論は続きます。クリエイターも儲かるプラットフォームを模索し、川上会長が選ぶ戦略とは――。

KADOKAWA・DWANGO川上会長インタビュー

「プロより素人が儲かるし、権利も強い時代」

 ――ヒットメーカーが作るだけでなく、ネット上にはユーザーが作るコンテンツもあります。著作権はどのように機能しているんでしょうか。

 著作権法の歴史を勉強するとわかるんですけど、著作権法って、権利者の権利を守るだけではない側面があります。作者がコンテンツの権利を何でも主張できることを制限する側面です。たとえば放送局に対する包括契約みたいな。誰か一人の権利者が反対すると何もできないということがないように、権利者を制限するっていうのが日本の著作権の仕組みでもあったんですよね。それが長い間に、著作権があると印税で儲けるイメージが世の中に蔓延して、著作権というと、権利を守るためのものという建前の部分だけになってしまった。

 ネットの方では何が起きるかというと、今、著作権団体みたいなので管理されているわけではないので、そうすると権利者がファンにとって神だから、神のごとき権利をということになるわけなんですよ(笑)。そうすると、ネットで作った著作物の権利が最強ですよ。それを使おうとしたら、ユーザーが飛んできて、「作者の許可をとったのか」とかっていうことを言われて、とっていないということになったら、いきなりそこで炎上ですよ。だからもう警察権力まで持ったようなもの(笑)

 ――ネット住民自身が守る方向にあるわけですね。

 ファンの人たちがね、そういう炎上という形で守り始めますから。そうすると最強ですよね。商業コンテンツ以上に守られてしまっていて、頼むから事務所に入るなり、JASRACに登録するなりしてくれって感じになりますよね。

 ――実態だけでなく、仕組みとして守るようにする必要はないんでしょうか。

 守るというか、実際にテレビや雑誌で、企業でもそうだと思うんですけども、そのネット上のコンテンツを使いたい側というのは、頼むから事務所に所属してくれ、著作物はなんかの版権の会社に預けてくれという風にみんな願っていると思いますよ。やりにくくてしょうがない。プロじゃないから「これやりたいんですけど」ってメール送っても、1カ月間返事なしとか、普通ですからね。もしくは、使わせてください、いいですよっていうメールのやりとりがあっても、ある日突然、途絶えるとかね。それ全然普通ですから。後で聞いたら、最近失恋してそれどころじゃない、とか(笑)。やってられないですよね。

 ――守らなければいけないという状況では・・・

 もう守られていないとか、迫害されているっていう構図はないです。むしろ商業側ですよね。だって今ね、マンガだって、ジャンプとかで人気連載抱えているマンガ家以外は、コミケで売った方が儲かるんだから。そうすると今、マンガが儲かるのはコミケなんですよ。あんまり売れていないような漫画雑誌にコミケの作家が連載を持ったりするのって、儲からないけど、宣伝のためにやっている。コミケで売れるように、名前が売れるためにやっていて、それはビジネスのためじゃない。

 マンガの世界ではすでに20年前くらいからそうなっていたんだけど、それがニコ動が始まって音楽の世界でもそうなってしまって、今、事務所に所属してデビューするよりも、ニコ動で人気になった方がはるかに儲かるんですよ。もともとね、インディーズの方が儲かるとかありましたけどね、ネットによってさらに顕著になるんですよね。事務所に所属して俳優とかタレントになるよりも、ネットの人気者の方が全然ギャラも高いし、儲かる。だからね、守らなきゃいけないってのは、全然そんなことないですよ。素人の方がもはや儲かるし、立場も強い。

「グーグルやアップルはコンテンツを安く買いたたく」

 ――一方で、プラットフォームを持っているアップルやグーグルが力を持っていて、クリエーターが儲からないという構図もあるのでは。

 仕組みができる前はみんな儲かるんだけど、アップストアにしても、ああいうのができた瞬間にアプリが儲からなくなるんですよ。どんどん競争させられると。

 ――どういう形が一番、クリエーターにとっていいんでしょう。
 それはね、クリエーターが儲かるようなプラットフォームを作るしかないんですよ。結局、プラットフォームを作る人たちの考えをいうと、自分のところのコンテンツが増えると、自分のプラットフォームが普及しやすくなったり、もしくはハードウェアが売れたりする。宣伝材料なんですよ。宣伝材料は、安い方がいいわけで、クリエーターが儲かるよりもプラットフォームを利用して、お客さんの財布の負担が軽い方を選ぶ。

 そうするとプラットフォームの設計はコンテンツを作っている人が儲からない設計にしてしまう。これはプラットフォームの特徴ですよね。そういうことをしないで、クリエーターが儲かるようなプラットフォームを考えればいいんですけど、それをわざわざ作るインセンティブが普通はない。

 例外があって、プラットフォームがコンテンツを作っている場合。プラットフォームがコンテンツを作る場合、ソフトでむしろ儲けたい。要するに任天堂ですよね。あんなに任天堂がとにかく儲けると言われていたけど、みんな従った。なぜかというと任天堂のプラットフォームだと儲かるからですよ。任天堂自身がソフトでビジネスをしているからソフトの値段を下げない。むしろ上げようとする。そうすると結果的に儲かる。

 ところがグーグルにせよ、アップルにせよ、自分たちはソフトをやらない。アプリを無料で開放して自分たちはプラットフォームに徹するという。それはコンテンツを安くするということ。買いたたきます。それが一番iOSの、アイフォン、マックの販売促進のためにはプラスなので、だから僕たちは(ソフトの販売を)やりませんというのが彼らのスタンス。だからプラットフォームがソフトをやらないのは、なんとなく問屋が小売業をやらないのと同じで、なんかすごくフェアな感じするじゃないですか。でも全然それはフェアじゃなくて、それはクリエイターが儲からない構造を作っちゃうんですよ。利害が共通しないと、コンテンツを流通させる側がいじめる側になっちゃうんです。結果的に。

 ――プラットフォームがコンテンツをつくるというのは、今、KADOKAWAとの統合でやろうとしているビジョンですね。

 はい、そうです。要するに僕らがコンテンツもやって、クリエイターが儲かるプラットフォームを作る。そういうインセンティブが働いている組織を作りましたっていう話なんです。

アマゾンのジェフ・ベゾズCEO(最高経営責任者)=2014年6月、シアトルで
アマゾンのジェフ・ベゾズCEO(最高経営責任者)=2014年6月、シアトルで 出典:ロイター

「時代錯誤と言われているフランスは賢い」

 ――音楽やゲームはすでにありますが、小説でもニコニコ静画で連載をしてソフト化してKADOKAWAで利益を生み出すような見立てでしょうか。

 それは作らなきゃいけないですよね。ほっとくと、アマゾンが直取引をしてしまう。そこが、直取引って出版社を(流通側と制作側の)サンドイッチで利潤を減らすという作戦。そうすると作者は得をしたような気になる。だいたい今印税が10%ですから、それが30%入るというとすごくいいと思いますよね。でもそうすると、アマゾンで実際に起こってますけど、アマゾンの売れているランキング上位に入ろうとすると、定価100円とかですよね。そうすると、みんなどんどんコンテンツ代が下がっていくわけですよ。そうするとコンテンツ代が下がるからみんな本屋で買わずキンドルで買おうという動きがどんどん進みます。そうすると結果的にだれが得して、誰が損したといったら、アマゾン以外、全員損しているということになっちゃいますよね。それがコンテンツを作らないプラットフォームの戦略に乗っかったコンテンツマーケットの末路ですよ。まあ、ほっとくとそうなります。

 ――電子書籍の価格を保護しようという動きがあります。

 そうなんですか。それはそうだと思いますね。ある程度というか(値段を)拘束するならしっかり拘束しないと。抜け道があると意味がなくなるんで。やるなら真剣にやったほうがいい。

 ――電子書籍にも再販制を適用したほうが望ましいと思いますか。

 望ましいですね。電子の安売り競争って下限がないからエスカレートするんですよ。そうすると紙の本の値段にも圧力がかかって、それに抵抗すると、どんどん売れなくなっていく。結局は全体が安売りになっちゃうんですよね。媒体の費用がかからないから、消費者に還元とか甘ったるいことやってちゃだめですよ(笑)。よく流通業者の我田引水的な議論だと思われがちですけど、やっぱり本屋って大事なんですよ。

 みんな、なんで本を買ってるかていうと、本を見ているからでしょ。アマゾンに並んでいたって本を見ることはないんですよ。みんな見るのは本屋とかで並んでいるから、そこで本が売れるんですよね。 最近聞いた話でおもしろいと思ったのがアナログのボードゲーム。モノポリーとか、紙のボードゲームです。実はドイツがヨーロッパの中でいちばん進んでいて、すごく人気なんですけど、それが今、駄目らしいんですよ。紙のボードゲームが売れなくなってきた。フランスはいいらしいんですよ。

世界的に人気の古典的ボードゲーム「モノポリー」
世界的に人気の古典的ボードゲーム「モノポリー」 出典:imasia(リンク先はタカラトミー)

 世界的な傾向で、アメリカもだめ、ドイツもだめ、イギリスもだめ。すべて原因はアマゾン。紙のゲームって、愛好家がやってるものだから、地方のショップが定期的にゲーム大会を開くとかして、それでコミュニティを維持していた部分ある。ところが、そういったコミュニティのコストを払わないアマゾンが安い値段で売るから、買うときはアマゾンで買っちゃう。ドイツのローカルのお店がどんどんつぶれてしまって、ゲームの競技人口も減って、どんどんマーケットがシュリンクする減少が起こっていて。

 いろんなジャンルで今起こっている現象なんですね。アマゾンが進出したためにマーケットが崩壊する現象が。リアルなお店がつぶれたことでマーケットが崩壊する現象。アメリカの音楽市場が崩壊したのも、タワーレコードとか、ああいうリアルな流通網がだめになって急激にだめになった。リアルなお店の網を持っていることがすごく重要なことなんです。

 フランスがなんで元気かというと、評判は悪いけれど、「反アマゾン法」が機能しているんですよ。フランスは小さい書店とかが元気で生き延びている。地方の小さいお店が元気な国ってフランスだけらしいんです。それが反アマゾン法のおかげらしいんですよ。あまり知られてない事実で。むしろフランスが時代錯誤の国でネットのことをわかってない、みたいに報道されているけど、わかってないのは実は日本なんですよ。フランスの方がよっぽど頭いい。

 ――日本にも反アマゾン法が必要ですか。

 それはわからないけど、ネットの通販っていうのは一番楽なとこだけをやっているビジネスですよね。新聞とかだって宅配制度に支えられて、駅の売店で、買わなくても見出しとかが出てるのってすごく重要なことだと思う。世の中に存在感を与えているというか、そういうことで支えられてる。ネットの中で安く売る、必要なところにしかいかない、って押し込められてしまうと接触時間がどんどん減っていくから全体のマーケットシェアがシュリンク(減って)してしまいますよね。

「動的なコンテンツで勝負する」

 ――i文庫、読書メーターを買収しました。キンドルを意識して新しいことをやるんでしょうか。

 キンドルとは競争しても仕方ないんで、違うところをやります。ひとつは「動的なもの」でやる必要があると思っているんです。パッケージコンテンツがコピーに弱いのは完成品をそのままコピーできちゃうから。ならば動的なコンテンツ、例えば、未完成なまま本を売ればいいんですよ。途中で終わってるとか。全10章だったら、5章くらしかない、みたいなね。それで販売しちゃう。

 電子書籍だったらあとから第2版、3版とつくっていけばいいんですよ。第10版くらいでやっと完成してそれで全部ができる。完成したと思ったら付章とかでどんどん増えていく。記述が間違ったものを訂正される、とかやっていくと、どこをコピーしたらいいかわからないですよね。完成形だともう「コピーしてください」って言ってるようなものなんですよ。でも、完成してないコンテンツはコピーができない。

 ――本はパッケージとして完成されたコンテンツという認識がありますが、未完成のものが商品として成立するということでしょうか。

 そうです。中身を変えていくのも重要だし、電子的なおまけみたいなものだったり、売り切りじゃなくて、買ったものに対してお客さんに継続的にサポートをしていくのが大事だと思うんですよ。みんな売り切りモデルって楽だしやりたがる。

 でもそれだとお金が取れない時代。家電製品は早くからそうなった。みんなアフターケアのために有名な商品を買う。プリンターなんかになるともはや消耗品でもうけている。要するに、お客さんとの関係性の中でビジネスをやるっていうほうに持っていかないと。違法コピーが公然と許されるのがインターネットの時代なので、それを乗り切るためには、そういう関係性を作っていく方にコンテンツを変えていかなきゃいけないと思うんです。

 ――1話ずつ買うと大変では。
 そうじゃなくても、たとえば定額制でもいい。1年の契約とか。継続的にお金がちゃんと入ってくる仕組み。クリエーターや作家にもプラスになると思う。追加サービスをすることでちゃんと買ってくれる正規のお客さんを増やすっていう戦略ですよね。

 ――有名な作家ほど、嫌がりそうですね。
 やってくれないでしょうね。そんなめんどくさいこと。だからたぶん編集者の役割が増えるんですよ。

読書メーター
読書メーター

「ネット時代には編集者が求められる」

 ――今いるベテラン編集者が作家を説得するんですか。

 新しく作らないといけないと思いますよね。いまの編集者が活躍できる部分は一定の部分です。デジタル時代の編集者が絶対必要なのは、ネットとのコミュニケーション。いまネットで人気がある作者はツイッターをやってる。自分でユーザーとコミュニケーションをしている。そうすると、ユーザーとコミュニケーションできない作家は行き場がないのか、というと、今までの世界でも、社交性のない作家の社会との接点部分は編集者が担っていたんですよね。

 ネットのコミュニケーション能力を持っていない作家の代わりに、それができる編集者をつくらないといけない。今いる編集者はたぶんだめなんですよ。新しく作っていかないと。編集者兼広報ですよね。専属広報。そういう役割がネット時代は求められるんですよ。

 あとは付加価値の部分を作っていく。編集の部分で商品のコンテンツを増やしていくような。そういう機能を編集者だったり出版社が持っていく必要があると思いますね。KADOKAWAはそこが進んでいて、メディアミックスのノウハウがすでに確立していて、力を入れるライトノベルがあったらたもう早い段階でアニメ化とか決めちゃうわけですよ。

 そうするとアニメ化されたことによってライトノベルも売れる、みたいな。KADOKAWAがもってるメディアでちゃんとプロモーションもする。それって小説を書くだけ、文を書くだけの作家にはもはやできないことですよね。

 それができれば作家はやっぱりKADOKAWAで本を出そうってなりますよね。昔ならそれを単純に一冊の本にして書店に並べるだけで作家にありがたがられたかもしれないけど、これからの時代はたぶんそれだけじゃ足りないんですよ。作家にとってプラスになるプロモーションだったり、商品化だったり、どこまで提供できる力を持つのか。そういうところでこれからの出版社の求心力が決まってくると思う。

 ――そういう人が生まれないと、本はなくなってしまいますか。

 そうすると、あいだがなくなって直接契約するんですよね。直接契約したらさっき言った理屈でどんどん値段が下がっていって結果的には誰も儲からなくなっちゃうんですよ。出版社が生き残れないと、コンテンツの世界は消えると思いますね。

KADOKAWA・DWANGO川上会長インタビュー

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 川上会長は27日、グローバルな時代の知的財産戦略をテーマとした「IP2.0シンポジウム」(角川アスキー総合研究所主催)のパネル討論に登壇します。イベントの詳細や申し込みはこちら。

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