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2014年11月10日

徳大寺有恒さんが自動車評論の「巨匠」と呼ばれた理由

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紫煙をくゆらす、ダンディーな徳大寺有恒さん=2013年11月27日

紫煙をくゆらす、ダンディーな徳大寺有恒さん=2013年11月27日

出典: 朝日新聞


 11月7日に亡くなった、自動車評論家の徳大寺有恒さん。自動車メディアからは「巨匠」と、敬愛を込めて呼ばれていた。後に続く自動車評論家たちにとってお手本であり続けたのは、メーカー側におもねらず、消費者を最優先に考える姿勢だった。

うわべだけの目新しさを叱る

 1976年に刊行された「間違いだらけのクルマ選び」(草思社)のシリーズ第1作で、彼が最も高く評価したのは、フォルクスワーゲン・ゴルフだった。高い剛性のスクエアなボディーで居住性を確保しつつ、優れた直進安定性を実現。長時間ドライブしても疲れないシートや、キビキビ走る低燃費ディーゼルエンジンなど、質実剛健ぶりをベタ褒め。

 かたや、手頃な価格で多く売れていたライバルの国産車に対しては、「見せかけだけの新しさ」「俗悪趣味」といった手厳しい言葉が並んだ。うわべの目新しさにとらわれ、安全性や快適性をおろそかにする国内メーカーの、短いモデルサイクルごとに買い替えさせようとする安直な姿勢を叱った。

世界中のコンパクトハッチのベンチマークとなった、初代フォルクスワーゲン・ゴルフ。徳大寺さんも歴代モデルを評価し続けた

世界中のコンパクトハッチのベンチマークとなった、初代フォルクスワーゲン・ゴルフ。徳大寺さんも歴代モデルを評価し続けた

出典:ロイター

過激さ疎まれ広告拒否も

 メーカー側にこびない態度から、苦労も多かった。

 覆面ライターとして書いた「間違いだらけのクルマ選び」を当時、週刊朝日が取り上げ、徳大寺さんのインタビューとともに紹介した。
 記事を担当し、のちに朝日ソノラマ社長を務めた飯田隆氏は、06年の「最終版 間違いだらけのクルマ選び」刊行に寄せた回顧の中で、「当時聞いた話では、新車の試乗記をよく載せる男性週刊誌に、この本の広告掲載を申し込んだところ、断られてしまったのだという。また、『著者に会って取材したい』という別の週刊誌からの話も、途中で立ち消えになってしまったそうで、自動車メーカーのカベをひしひしと感じていたようだ」と明かしている。

1958年型シトロエンDS19(トヨタ博物館所蔵)。フランスの老舗メーカーの、独創性とソフトな乗り心地を愛した

1958年型シトロエンDS19(トヨタ博物館所蔵)。フランスの老舗メーカーの、独創性とソフトな乗り心地を愛した

出典: 朝日新聞

 田中康夫氏や浅田彰氏を執筆陣に招き、文化批評を売りにした異色の自動車雑誌「NAVI」(二玄社、現在は休刊)。後輩ライターたちとの茶目っ気たっぷりの掛け合いが名物だった徳大寺さんの記事も、もちろん欠かせない存在だった。
 編集長だった鈴木正文氏は、「クルマは個人生活のなかで大きな位置を占めるばかりか、社会全体にとっても環境や都市の成り立ちにただならぬ影響を与える存在」だとしたうえで、「日本車は機械としてどこがダメなのかを遠慮なく批判しながら、それにとどまらず、そんなダメ自動車をつくったメーカーや日本社会の風土にも切り込んでいく」と、徳大寺さんの姿勢を評していた(97年1月18日、朝日新聞夕刊)。

長らく国産セダンの最高峰だったトヨタ・クラウン。欧州車に比べて心許ない操縦性には否定的だったが、日本独自の高級車のあり方として一定の評価をしていた=2012年12月25日

長らく国産セダンの最高峰だったトヨタ・クラウン。欧州車に比べて心許ない操縦性には否定的だったが、日本独自の高級車のあり方として一定の評価をしていた=2012年12月25日

出典: 朝日新聞

リコール隠し「人の命扱う仕事、基本が欠落」

 そんな気骨を、徳大寺さんは身をもって実践した。

 国内自動車雑誌が主宰する、その年の最も優れたクルマを表彰する「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を長く務めたが、「メーカーが販売促進のため、現ナマ攻勢などで賞取りに狂奔するのにはもう、うんざり」と、毎年の賞レースを批判。90年代に選考委員を降りている。

創業者・本田宗一郎渾身のスーパースポーツ、ホンダNSX。徳大寺さんも所有し、性能は「世界一」と絶賛したが、デザインは酷評=ホンダ提供

創業者・本田宗一郎渾身のスーパースポーツ、ホンダNSX。徳大寺さんも所有し、性能は「世界一」と絶賛したが、デザインは酷評=ホンダ提供

出典: 朝日新聞

 2000年、三菱自動車の長年にわたるリコール隠しが発覚した際には、厳しい口調でメーカーの怠慢を指弾した。
 「車に乗ってハッとした時に急ブレーキを踏んで、1、2秒でも反応がなければ、大変な恐怖にとらわれるだろう。三菱はそんな車を売っていたんだ。人の命を扱う仕事であるという自覚が、組織全体になかったということが明るみに出たわけで、自動車メーカーの基本が欠落していたと言わざるをえない」

いまやエコカーの代名詞となったトヨタ・プリウス(現行型)。97年の初代発表時に、内燃機関とモーターによるハイブリッドシステムの将来性を見抜いていた

いまやエコカーの代名詞となったトヨタ・プリウス(現行型)。97年の初代発表時に、内燃機関とモーターによるハイブリッドシステムの将来性を見抜いていた

出典: 朝日新聞

「モテるクルマづくりも大事」

 一方で、英国流ダンディズムをこよなく愛し、ファッション誌に寄稿。大人の文化としてのクルマを語る洒脱さも忘れなかった。

 07年秋、日産「GT―R」やレクサス「IS F」など、新車価格が1千万円に届く高級スポーツカーが相次ぎ登場。若者のクルマ離れを食い止めるべく、割安で手頃なクルマの投入にもっと力を入れるべきだ、という声もあった。

 それに対して徳大寺さんは、「最近、休みの日にジャケットを着こなすなど、おしゃれな大人が増えている。そうした目の利く大人が選んだ車が街に増えていけば、若者たちも『一生懸命稼いで、いつかはこうした車を持ちたい』と思うかもしれない。パソコンや携帯に興味がある若者に、車の楽しさをアピールするきっかけになるかもしれないという点で、今回のメーカーの戦略は評価できる」と、逆にメーカー側を擁護した。

トヨタ博物館所蔵のジャガーEタイプ 。自らは英国のクラシックカーをこよなく愛した。「ジャグァー」と呼ぶのが徳大寺流

トヨタ博物館所蔵のジャガーEタイプ 。自らは英国のクラシックカーをこよなく愛した。「ジャグァー」と呼ぶのが徳大寺流

出典: 朝日新聞

 そして、高級スポーツカーのような「異性にモテるクルマ」の存在意義を、こんなふうに説いた。

 「メーカーには、もう一つ注文がある。男性が女性を、女性が男性を意識するのは、いつの時代も変わらないことだ。そこに自動車がどう介入できるのか、もう一度、真剣に向き合ってはどうか。スポーツカーやスポーティーな車が果たす役割の一つは、そこにあると思う」

「助手席には女性しか乗せない」と公言していた、徳大寺有恒さん=1992年6月8日

「助手席には女性しか乗せない」と公言していた、徳大寺有恒さん=1992年6月8日

出典: 朝日新聞


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