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な、なにこれ?! “テクノうどん”に潜入【動画】
DJが流すダンス音楽にのって、踊りながらうどんを踏んで食べてしまう集会「テクノうどん」。一風変わったイベントだが、ダンス営業を規制する風営法や取り締まりへのメッセージも込められているようだ。
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DJが流すダンス音楽にのって、踊りながらうどんを踏んで食べてしまう集会「テクノうどん」。一風変わったイベントだが、ダンス営業を規制する風営法や取り締まりへのメッセージも込められているようだ。
神庭 亮介
共同編集記者 ダンス営業を規制する風俗営業法の取り締まりが強化され、ここ数年、全国で無許可営業のクラブの摘発が相次いでいる。そんななか、「テクノうどん」と称する一風変わったイベントが注目を集めている。DJが流すダンスミュージックに乗って、うどんを踏んで食べてしまおうという珍企画だ。
ダンスではなく、うどんを踏んでいるだけなら、罪に問われることもないのでは――。そこには、単なるウケ狙いにとどまらない、風営法への痛烈な皮肉も込められている、らしい。実際にうどんを踏みながら、規制と反対運動のあり方に思いを巡らせてみた。
7月6日午前11時、東京・南青山のレストランバー「CAY」。受付でチケットを出すと、当然のことのようにビニールパック入りのうどん玉を手渡された。前方のフロアでは、若い男女が一心不乱に踊り……もとい、うどんを踏んでいる。表参道駅徒歩1分。都内有数のオサレスポットにあるビルの地下で、あまりにもシュールな光景が繰り広げられていた。
彼らにならい、私も靴を脱ぎ、うどんを踏み始める。大音響の音の渦に身を任せ、重低音を体全体に浴びながら、踏む。とにかく踏む。足元がむにょむにょする以外は、普通のクラブイベントと何ら変わらない。
周囲を観察していると、素足派、くつした派など、うどん踏みの流儀は様々。やさしく遠慮がちにフミフミしている人もいれば、親のカタキかと思うほど、激しくガシガシと踏みつけている人もいる。
しばらく好きな音楽が続いたので、そちらに気をとられていたが、ふと疑問が浮かぶ。これって一体どれぐらいの時間、踏み続ければいいんだろう。隣の女性に聞くと「10分ぐらいみたいですよ。それ以上踏むと、硬くなっちゃうって。受付でもらった紙に書いてありました」。
げげっ。そう言えば、そんな紙をもらっていたような。まったく読まずに、カバンに放りこんでいた。しかも、音楽に夢中になっている間に、30分も踏んでしまったじゃないか。
あわてて、うどん受付にうどん玉を持っていく。番号札を渡され、ゆであがったら呼んでもらえるシステムだ。カチコチになっていたらどうしよう……。不安が頭をかすめる。15分ほどして、私の番号が呼ばれた。
できたてホヤホヤのうどんにつゆをかけ、ワカメや薬味を乗せてもらう。そして運命の一口目。
ムムッ。うまい。ゴムみたいなうどんはイヤだな~と危惧していたが、杞憂だった。なかなかどうして、コシがあっていい案配である。少し濃いめのつゆが絡んだうどんをすすりながら、私は100年以上前に新潟で繰り広げられた、あるできごとを思い起こしていた。
今では想像もつかないことだが、かつて盆踊りは、若者たちがおおらかな性を解放する場として機能していた。祖先の霊の供養や農耕儀礼といった目的とは別に、ある種の婚活パーティーのような意味合いがあったのだ。
性的な色彩の濃かった盆踊りは、江戸時代から度々禁じられてきたが、明治に入るとその傾向はさらに強まる。政府が海外に向けて「文明国」としての対面を取り繕ううえで、風俗を乱す盆踊りは都合の悪いものだったのだろう。各地で盆踊り禁止令が出されることになった。
1880年代、禁止令に反発した新潟・長岡の住民たちが、トイレをつくるための地固めという名目で盆踊りを計画した。風俗史家・下川耿史は著書『盆踊り 乱交の民俗学』で、『長岡市史・通史編』の次のようなくだりを紹介している。
長岡周辺の村々は一村に一か所ずつ雪隠(便所)や水小屋をつくるため、共同の地固めを行うと称して盆踊りを再開することを申し合わせた。[……]関原村の若い衆は[明治]17年夏、鎮守の境内で盆踊りを行ったが、警察の介入を恐れて、周りの道に糞尿をまいて防衛線をつくった。当人たちもにおいに辟易したが、巡査はひそかにそれを越え、三六人を検挙してしまった。
う~ん、何ともにおってくるような話だ。結局、検挙はされてしまったものの、規制や法律をユーモアで脱臼させる方法論は、テクノうどんにも通じるものがある。
テクノうどんに対しては、「屁理屈」「脱法うどん」「何の解決にもなっていない」という批判の声もあがっている。けれど、一休さん的な頓知と諧謔が、時に法律の不備をあぶり出し、世論の思わぬ共感を呼び起こすこともある。
「次はソバにしてみる?」
「床に発電機を設置して、足踏み発電っていうのもアリかもね」
風営法が、「ダンス」といういかようにも解釈可能な概念に依拠して規制を続ける限り、似たような「屁理屈」は今後も飛び出してくることだろう。
地道な署名運動、国会議員への働きかけ、クラブ業界の健全化……どれも大切だ。だが、声高に主張を訴えるだけが法改正運動ではない。運動の過程そのものを参加型エンターテインメントに変えてしまう、テクノうどんのような試みもあっていい。
政府は、秋の臨時国会に風営法の改正案を提出する方針だ。しかし、どの程度まで規制緩和されるのかは不透明で、「かえって規制強化されるのでは」と懸念する向きもある。テクノうどんをきっかけに風営法に興味を持った方には、ぜひ今後の法改正の行方にも注目していただきたい。