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日銀総裁も苦笑!?社会派の美術家 ~アラ爆な人々~
アーティストやキュレーターなど芸術界の今後を担うであろう人々を、人から人へのつながりを頼りに紹介します。
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アーティストやキュレーターなど芸術界の今後を担うであろう人々を、人から人へのつながりを頼りに紹介します。
「芸術は爆発だー」ということで、芸術界隈→アラウンド爆発→アラ爆。知名度の点で、爆発的に人気が出る前後という意味も込めています。今後の芸術界を担うかもしれないアーティストやキュレーターらを紹介します。
初回の今回は私の友人でもある渡辺篤さんです。東京芸術大学在学中から社会・政治性のある作品を発表。大学院卒業後しばらくは、路上生活体験をしたり、「引きこもったり」し、2013年に活動を本格的に再開しました。2008年からは会田誠さんの制作助手もしています。
こちら、渡辺さんの新作のひとつである「ELEVEN」の撮影場所と同じ渋谷のスクランブル交差点で撮影。ELEVEN撮影時は早朝だったそうですが、今回は平日の真っ昼間、少し恥ずかしそうです。
では早速、作品を紹介していきましょう。まずは、渋谷で行われたグループ展に出品された作品から。(グループ展は22日に終了)
今回渡辺さんは、「屛風」をテーマに3点を発表しました。こちら「ELEVEN」は、銀行などに立てられている警察官姿の立て看板?を11人分、渋谷のスクランブル交差点に並べ撮影したもの。合成ではありません。早朝に友人に手伝ってもらい、青信号の間にババッと並べ撮影したそうです。
ELEVENという作品名や撮影場所から察する方もいらっしゃるかと思いますが、こちら、そう、W杯を意識しています。W杯進出を決めた夜、渋谷にいたという渡辺さんは、警察官が並んで、時に行く手を阻む姿が屛風に見えたそう。また、警察官にはDJポリス始め若手が多く、新しい世代として組織の中で期待される姿はサッカー日本代表にも重なる…そんな思いからELEVENとしたそうです。
一見きれいな金屛風ですが、よく見ると、工事現場などで目にする立ち入り禁止看板(を模したもの)が透けています。実はデパートで開かれたこのグループ展の展覧会場は、特別な顧客だけが出入りできるサロンへとつながる部屋。この金屛風が飾られている奥にはまさにその部屋へと続く扉があります。華やかな金色で顧客らを受けれているようでいて、一般客には「立ち入り禁止」というその扉へのシニカルな視線も見え隠れします。
「東日本大震災発生時は引きこもっていて、日常の変化を体験したとは言えない。震災を作品にすることにはずっと躊躇していた」という渡辺さん。でも、福島を何度か訪れたり、自分の住む場所でも除染などが話題になる中で、自分のできる形で震災を描きたいと思うようになったといいます。
そうして作られたのが屛風「TATEYA」。福島第1原発の建屋を思い起こさせる青と白の柄は、葛飾北斎の富獄三十六景の「凱風快晴」の雲の部分だそう。確かにそう言われて見てみると、木版画は中心を境に左右で反転した構図になっていて、屛風の中央には「凱風快晴」の赤富士の裾野がかすかにあります。建屋の外壁が富士を引き立てる美しい空に似ているというのはどこか皮肉な気もします。
実はこの作品、組み立てると下のようになります。
廃屋になった家の障子を材料につくったそうですが、木枠はさびた鉄筋にも見えてきます。TATEYAの下部にはやはり版画で防護服を着た作業員が何十人も描かれています。「便利さから電力を大量生産・大量消費し、結果、やらなくてよかった作業に今は人間を大量消費している。そういう部分を表現したかった」そうです。
ではここからは、渡辺さんのこれまでの作品を見ていきましょう。まずは、最近描かれた落書きをテーマにした作品です。作者が有名になると突如として嫌がられていた「落書き」も「作品」となる、そうした話を念頭に描いたそう。
ナイキジャパンが2010年、命名権を持つ渋谷区立宮下公園のリニューアルを計画。区が公園にいた路上生活者たちのテントを強制撤去したことなどに反対するため、渡辺さんが作ったのがこちらの「うな坊」。渋谷に昔生息していたというウナギをモチーフにしています。胸には、ウナギが描き出すブランドマークと、JUST DO ITをもじったjust doite(どいて)の文字。
こちらは2007年、実際に日本銀行地下金庫で行われた展覧会で映像と一緒に展示された、金塊をモチーフにした作品。実は渡辺さん自身のハナク○を2年間ためて作り上げたものです。2年間とはいえこの大きさ…かなりの苦労がしのばれます。貧しい国でコツコツと掘られた金を、経済大国が所有する。そうした構図や金の価値そのものに疑問を投げかける作品です。当時の日銀総裁はこの作品を見て苦笑したそうです。
こちらの作品は、石庭をテーマに作られた作品。実は、彼の路上生活体験をベースに、段ボールや空き缶などを材料にして作られています。
渡辺篤さんは6月28日から7月19日まで都内で個展を開きます。名付けて、ヨセナベ展。今回紹介した作品がすべて展示されるわけではありませんが、興味を持った方はぜひ足をお運びください。
会場:東京都台東区浅草橋4-5-2 アートラボ・アキバ
開廊時間:6月28日~7月12日 15時~20時
7月13日~7月19日 14時~21時
※休廊日:6月29日、7月6日
入場無料