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中高生と“未来の医療”を考える
先端技術DOKIDOKIシンポジウム
PR by 公益財団法人 テルモ生命科学振興財団
「再生医療」をはじめ、医療の分野は目まぐるしく進歩しています。その進化を支え、医療の新たな道を切りひらいてきた先生たちによるシンポジウム「中高生と“未来の医療”を考える」が、東京女子医科大学特任顧問名誉教授の岡野光夫先生を座長に開催されました。進化する未来の医療分野では今、どんな人材が求められているのでしょうか? ファシリテーターはwithnewsの水野梓編集長。中高生が進路を考えるヒントとなるようなお話をご紹介します。
医療の進化において、20世紀ほど革命的に進化を遂げた時代はありません。それまでの技術では、人の体の中を「見ながら」診断することはできませんでしたが、レントゲン博士が体内の骨を透過するX線を発見して以降、体内の臓器の断面を映し出すことができるCT(コンピューター断層撮影)や、X線などの放射線を使わないMRI(磁気共鳴映像)などの技術が次々と開発され、今では画像診断が当たり前となりました。
21世紀には細胞を活用した再生医療が広がりを見せるなど、さらに進化することが期待されます。その鍵を握るのが、工学と医学が融合し開発を進める「医工連携」なのです。
患者に直接触れ、治療方法を模索する医師には、「こういうものがあったら」という抽象的なリクエストがたくさんあります。これを具現化するのが基礎科学や工学に精通した工学者です。医師と工学者が互いの専門性を補い合って協力し合うことで、医工連携は活発化してきましたし、今後もますます、医療の進化に科学の力が欠かせません。
科学の本質は「予想外」だと思っています。また、予想外に起こった出来事や結果を楽しみ探究する「好奇心」も大切です。中高生のみなさんにはぜひ、好奇心をもって予想もしなかったような発見や発明をできる科学者になっていただきたいと思います。
自分の体から取り出した細胞で、血液がんを治療する――今、世界中でそんな治療法の研究開発が進んでいます。これまで血液がんの治療には抗がん剤や放射線、骨髄移植などがありましたが、最近では免疫療法の一つである抗体療法などが使われてきました。これに新たな治療法として加わったのが、自分の細胞を使った「CAR-T(カーティ)細胞療法」です。CAR-T細胞療法とは、患者自身の白血球の中から免疫細胞の一つであるT細胞を取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)という特殊なタンパク質をつくりだすよう改変します。これを患者さんに戻し、難治性のがんを治療するものです。
世界で初めてCAR-T細胞療法を受けたのは、フィラデルフィア小児病院で治験を行った小児患者です。まったく治療法がなかった急性リンパ性白血病の患者さんを対象に、CAR-T細胞療法で効果を得たことは、世界中に大変な話題をもたらしました。
日本においても2012年からCAR-T細胞療法の開発と商業化が始まり、現在、治療提供可能な施設は全国に44施設あります。国内で初めて治験に参加した患者さんから、「私の命を救ってくださり、ありがとうございました」と言われたときには、製薬会社の一員として医療に貢献していることを実感しました。こういった医学との融合に今後も挑戦できたらと思います。
21世紀の新しい医療を生み出すために日本の医療に必要なこと。それは、科学と医学を一体化させながら新医療を創出させる研究環境を整えていくことです。
科学技術の進化によって、AI技術の活用やロボット手術、再生医療、遺伝子治療などのテクノロジーが先端医療に貢献しています。しかし、日本の大学ではこれら技術の研究の多くは、理学部や工学部、薬学部で行われており、確立した方法で患者を診断・治療する医学部で行われるのはほんの一部です。加えて、厳しい安全性確保のための規制が設けられているため、新たなテクノロジーを医療の現場に持ち込むのが難しい環境にあります。実際に治療が行われる病院の現場(臨床)と、先端科学技術の研究・開発との隔たりをいかに解消できるかが、日本の医療の未来にとって鍵になるといっても過言ではありません。
一方、アメリカでは「バイオメディカル・エンジニアリング教育」、つまり医学・生物学と工学を融合し医療に貢献するための教育が古くから実践されており、膨大な予算を背景に病院と研究所が連携して科学と技術を結集させ、難しい病気の診断と治療の開発に取り組んでいます。この研究環境の違いもあり、日本は新しい治療法の開発については欧米に依存する傾向が強くあります。
しかし、環境を理由に歩みを止めていては、日本だけが欧米に後れをとるばかりです。欧米に追随するだけではなく、日本発で新テクノロジーや新概念を創出する。専門分野を横断した集学的アプローチによる研究教育を行う大学院・研究室、産業を整備することが重要です。そして政府が一体となって、体制整備と予算確保でより先端医療の推進を進められることが期待されています。若いみなさんには、ぜひ新しい道をつくることにチャレンジし、テクノロジーとアイデアで上手に先端医療を進め従来の対処療法では治せなかった難病や身体障害を治せる先端医療に挑戦してほしいと思います。