連載
#6 未来空想新聞
“子どもはみんなで育てるもの”という意識が当たり前のものに
子どもの居場所づくりに取り組む尾見紀佐子さんに聞く、未来の子育てと学び
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#6 未来空想新聞
子どもの居場所づくりに取り組む尾見紀佐子さんに聞く、未来の子育てと学び
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「こどもと食」をテーマにあらゆる世代が集う「景丘の家」や、多様なアーティストと触れ合える「代官山ティーンズ・クリエイティブ」など、東京・渋谷区で新しい発想による子どもの居場所づくりに取り組む、マザーディクショナリー代表の尾見紀佐子さん。彼女が思い描く未来の子育てや学びについて、現在の活動に込めた思いとともに聞きました。
「子育ては親の責任ではなく、社会全体の責任。子どもは地域のみんなで育てることが当たり前。未来の社会はそうなってほしいと思っています。そんな社会をつくるためにも、これからは家でも学校でもない、サードスペースの重要性がますます増していくと思います」
尾見さんに2039年の理想の子育てについて聞くと、そのような答えが返ってきました。尾見さんが代表を務めるマザーディクショナリーでは、渋谷区から委託された「かぞくのアトリエ」「景丘の家」「代官山ティーンズ・クリエイティブ」の三つの施設を運営しています。最初に始めた「かぞくのアトリエ」は、都会の子育てを応援する居場所として、親子で楽しむ多彩なプログラムが好評で、子育て家族の交流の場となっています。
「私自身、若くして母親となり、3人の子育てに苦労しました。とくに東京での子育ては選択肢がありすぎて、悩まれている方が多いと思います。一人でストレスや不安を抱えている方もいるでしょう。でもお母さんやお父さんが笑顔でいること以上の子どもへのギフトはありません」。そう考える尾見さんは、子育ての楽しみや喜び、悩みを共有し、みんなで支え合える場として「かぞくのアトリエ」を運営しています。
現在、不登校の子どもが増えています。共働きの一人っ子家庭も多く、家でも孤独感を抱えている子どもがいます。「そんな子どもたちが居心地のよさを感じ、安心できる居場所をつくることが何より大事」と語る尾見さん。「景丘の家」や「代官山ティーンズ・クリエイティブ」は、まさにそのような空間です。
2019年にオープンした「景丘の家」は、こども食堂に学びや遊びの要素を含めた渋谷区の取り組み「こどもテーブル」の拠点です。みんなで使える充実したキッチン、囲炉裏やかまど、土間があるサロンを整備し、自然と人が集まり、交流しやすい空間となっています。
「コロナ禍により食関連の活動はゆるやかですが、近所のお年寄りと子どもたちが卓球やカードゲーム、コマや将棋を楽しむなど、世代を超えた交流が広がっています。今の若いお母さんやお父さんはお年寄りから伝統的なことを教わる機会があまりありません。ここがかつて日本の家庭で親から子、孫へと受け継がれていた生活文化を継承できる場になればいいなと思っています」
景丘の家では、困窮家庭に週1回、食材を配布するフードパントリーも実施しています。「子どもたちに楽しく遊んでもらいながら、帰りに自然な形で食材を提供できるので喜ばれています。将来的には自然豊かな場所で食材を自ら育て、サステナブルな暮らしを体験する。海外のエコビレッジのように食事を当番制でつくり、複数の家族でともに楽しむ。そんな場所もつくりたいと思っています」と、尾見さんは未来に思いをはせます。
今の時代は情報があふれています。それだけに「自分が何をやりたいのかわからない」と悩んでいる子どもが多い、と尾見さんは感じています。
「子どもたちは学校と家、塾と部活など狭い世界で生きています。将来を考えるための要素や体験が、あまりにも少ないのです。そんな子どもたちの価値観や視野を広げ、未来への希望を持ってもらう上で大切なのが、面白くて魅力的な大人との出会いだと思います」
そんな思いで運営しているのが「代官山ティーンズ・クリエイティブ」です。ここではアートや音楽、ダンスや料理などさまざまな分野で活躍するクリエーターがワークショップを行い、子どもたちと交流しています。ここに集っていた子どものなかから、メディアやイベントで活躍する若手アーティストも誕生しています。ただそのこと自体は必ずしも、尾見さんの目的ではないそうです。
「私はここが子どもたちの居場所となり、なんとなく集まって友達とゲームをしているだけでもかまわないと思っています。でもそんな子どもたちがあるタイミングで突然、何かに目覚めることがあるんです。例えば急に映像作品に目覚めた子がいます。映画監督になりたいと言い出し、友達と脚本や絵コンテを描き始めました。そんな子どもたちの自然な欲求に応えられる環境は、用意してあげたいと考えています」
現在の画一的な教育では、このような子どもたちの内に秘めた興味を引き出すのは難しい。もっと教育の場に、ゆとりと多様性が必要だと尾見さんは考えています。
「子どもの個性を尊重した教育を行うには、やはりフィンランドのような少人数制を見習うべきだと思います。また教科書を使わず、自然のなかでの体験を通して学ぶなど、もっと自由な形があっていいと思います。最近は異なる年齢の子どもがともに学ぶ軽井沢風越学園(長野県)など、新しい発想の学校が注目されています。このような流れが広がり、教育の多様化が進み、子どもの学びの選択肢がもっともっと増えてほしいと思います。それが一人ひとりの子どもが持つ可能性を広げることにつながるはずです」
このように未来の子どもの学びに思いをはせる尾見さんですが、最後に一言付け加えました。「未来は、日々の積み重ねの先にあるものです。やはり大事なことは、子どもたちの今といかに丁寧に向き合うかです。これからもそのためのきっかけづくり、種まきを続けていきたいと思っています」