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連載

#2 未来空想新聞

大人こそ、子どもにウェルビーイングを学ぼう

予防医学研究者・石川善樹さんに聞く「未来の幸せ」とは

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目次

最近、メディアなどで「ウェルビーイング(Well-Being)」という言葉が広がりつつあります。人々の健康や幸福といった意味を持つこの言葉。17年後の2039年には、ますます重要なキーワードになりそうです。ウェルビーイングを長年研究している予防医学者の石川善樹さんに、その意味を解説していただくと同時に、「ウェルビーイングな生き方」を実現するために大切なことをうかがいました。

それぞれの「幸せな生き方」、認められる社会をめざして

ウェルビーイングとは、シンプルに言えば「自分の生活や人生を“よい”と感じられている状態」のことを言います。

ただ、石川さんはこう問いかけます。「どういう人生をよいと感じるかって人によって違いますよね」。確かに、お金がたくさんあったり、環境に恵まれていたりしても、「満足できない」という人はいますし、たとえ貧しくても幸せを感じている人もいます。

「そう。よいと感じられるかどうかは、その人自身が決めること。だから、ウェルビーイングというのは、主観的なものなのです」

今までの社会は「幸せのカタチ」を標準化する傾向にありました。「でも、この先の未来は、一人ひとりが“よい”と感じられることが大切なのです。1億2千万人の日本人がいたら、1億2千万通りの幸せな生き方があって良い。そのためにも、多様な生き方が認められ、選択できる社会になることが望ましいのです」

本質的ウェルビーイングを高めるテクノロジーに期待

人々の暮らしは、テクノロジー(科学技術)の進歩によって便利になってきました。では、便利になればなるほど、ウェルビーイング(自分の生活や人生をよいと感じられる状態)も向上するものなのでしょうか。

石川さんの答えは「ノー」です。

人間をウェルビーイングにする最古のテクノロジーは「たき火」だそうです。「パチパチと燃える火の周りに人が集い、語り合う。この時に感じられるほどのウェルビーイングを、最先端テクノロジーがもたらしているとは言えないと思うのです」

これまでは「人間がテクノロジーに合わせる時代」だったと石川さんは言います。「当たり前のように、カラーテレビや洗濯機といった新たなテクノロジーをくらしに採り入れる。さらには、テレビを置くことを前提に、部屋の間取りを決め、部屋ごとにクーラーを設置する。その状態が望ましいとされてきたのです」

しかし、これからは「テクノロジーが人間に寄り添う社会」をめざすべきだと提唱します。「人間の性質は、大昔から変わらないものがあります。最先端テクノロジーの追求も大事ですが、人間の本質的ウェルビーイングを高める方向にテクノロジーが貢献する未来を期待しています。そろそろ、たき火を超えるようなウェルビーイングをもたらすテクノロジーに出会いたいですね」

「負」から「正」の遺産へ。「ポストSDGs時代」に大切なこと

今から8年後の2030年には、国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げる17の目標の達成期限が待っています。では、その先の2039年はどんな時代になっているのでしょうか。

「SDGsのコンセプトは、『将来世代に負の遺産を引き継がない』ということ。だから、17の目標は、貧困や飢餓をなくすなど、いかに『マイナス』をなくすかがほとんどです。しかし、SDGsの目標が達成された『ポストSDGs時代』には、ウェルビーイングという『正の遺産』を積み上げることが大切になると思っています」

その視点で考えると、「海の豊かさを守ろう」という目標を「海と過ごす喜び」に切り替えるなど、SDGsのすべての目標は「正の遺産」を追加することができると言います。

一方で、なにをもって「正の遺産」とするかは「将来世代が決めること」と石川さん。「だから、大人が勝手に決めるのは良くないし、僕は定義したくないんですよね」

石川さんの見立てに沿うように、日本を含む世界では「ポストSDGs時代」に向け、ウェルビーイングの状態を目標化する試みが始まっています。

「2039年の新聞には、GDP(国内総生産)とともに『GDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)』の速報値が紙面を飾る――。そんな世の中になってほしいですし、これから社会の中枢を担うZ世代や、その次のα世代の人たちには、その推進役を期待しています」

ウェルビーイングのヒントは「子ども」が持っている

では、将来世代を担う子どもたちには、ウェルビーイングの大切さをどう伝えたらいいでしょうか――。最後に、石川さんにそんな質問を投げかけると、「いや、逆に大人こそ、子どもたちからウェルビーイングを学ぶべきですよ!」と思いがけない言葉が返ってきました。

「例えば、子どもってケンカしても3分後には仲直りしてケロッとしている。その『許す力』には感心させられます。そんな素直な視点で、どういう状態が人にとって望ましいのかを考えることが大切です」

そして、未来を考える私たちに、石川さんはこんなアドバイスをくれました。「一人ひとりが『今の自分にとってよいと感じられる状態』を考え、実践する。その延長線上に2039年のウェルビーイングがあるのではないでしょうか。そして、そのヒントは子どもたちの姿の中にあるのです」


「自分にとってよいと感じられる状態」を考え、実践する。その延長線上にウェルビーイングがある。
 
石川 善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者、博士(医学)。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、フルライフ(NewsPicks Publishing)、考え続ける力(ちくま新書)など。
Twitter:@ishikun3
HP:https://yoshikiishikawa.com/
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