連載
#7 未来空想新聞
月でファッションショーが開かれたら?服から未来を変えるデザイナー
ファッションデザイナー・森永邦彦さんに聞くファッションの未来
Sponsored by パナソニック株式会社
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#7 未来空想新聞
ファッションデザイナー・森永邦彦さんに聞くファッションの未来
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2003年に設立され、2014年には「パリ・コレクション」にもデビューした、アパレルブランドの「ANREALAGE(アンリアレイジ)」は、新しい視点と、最新のテクノロジーを駆使し、国内外で高く評価されています。未来のファッションを予見するかのようなアイデアを生み出す、同ブランドデザイナー・森永邦彦さんに、2039年のファッションを想像してもらいました。
ファッション産業は、製造過程で排出される二酸化炭素量や廃棄される衣類の多さから、「環境負荷が高い産業」といわれています。森永さんは、「未来では、大量生産・大量廃棄をする服作りはなくなり、シーズンごとに服を買っては使い捨てている今の時代が信じられなくなっているでしょうね」と予想します。
森永さんは、今の日常は、そんな大きな変化への「分岐点」だと位置づけます。「すでに消費者の意識は変化しています。デザインが良い、安いだけでは支持されず、どのようなストーリー、どのような意思を持って服作りをしているかが問われています」
森永さんが見据える未来のファッション界は、今の常識の枠を超えた世界です。ファッションの象徴的イベント「パリ・コレクション」がなくなることさえありうると想像しています。「ファッションショーが、メタバースのような仮想空間に移行する時代はすぐそこまで来ているように感じます」
「アンリアレイジ」は、「2022-23秋冬コレクション」として「2030年に月面で開催されるファッションショー」を想定したコレクションを動画で発表しました。「人がいるところにファッションが生まれる」とするならば、人が月で暮らす未来には、月で着ることを想定した服が必要になると考えたからです。
「17年経てば、月と地球を通信で結んで同時開催するようなショーが実現しているでしょう」と想像を膨らませる森永さん。「今年のショーで発表した服は、重力が地球の6分の1しかない月で着ると、宇宙服のように膨張して人を守り、地球に帰るとしぼんで美しいドレープ(ひだ)になります。どんなに環境が変わっても、一番近くで人を守れる服を作りたいですね」
森永さんは、ファッションを通じて、人々の新しい日常をつくろうと、「アンリアレイジ」のコレクションにテクノロジー(科学技術)を取り入れてきました。
「テクノロジーというと、人と対立するようなイメージを持たれがちですが、私にとっては、自然や人の感情と密接に結びついている。人が大事にしなくてはいけない部分を気づかせてくれる存在なのです」
例えば、森永さんが企業と共同開発した新素材は、太陽光の当たり具合によって変色したり、柄が変わったりする最先端テクノロジー「フォトクロミック技術」を取り入れています。「これを着ると『今日の日差しは強いな』『隣に人がいるから色が変わったぞ』といった、熱を持った感情が生まれるのです」
森永さんが取り組むプロジェクト「echo (エコー)」は、目の見えない人が「空間を認識する力」を服で表現するというもの。服に装着したセンサーが、周囲の様子を読み取り、振動で人に伝えるという、まさにテクノロジーとファッションの融合体です。「新しい知覚によって、コミュニケーションにおける温度感が感じられる服になった」と森永さんは振り返ります。
「未来はまだ見ぬテクノロジーであふれていると思います。それは血の通った、温かい、そしてプリミティブ(原始的)な感情が交差するものだと思うのです」
森永さんの思考のベースにあるのは、大学受験の予備校で出会った英語講師のユニークな考え方です。
「テーゼ(命題)とアンチテーゼ(反対命題)を融合して新しい概念を生み出すという思考法です。『色がない服』など、服に色があるという当たり前に対立する概念を並べて考えてみることで、新しいものを生み出すことを意識しています。」
森永さんは、服のデザインを通じて、世の中に新しい風を吹き込んでいきたいと考えています。「どんなに時代が変わっても、日常があれば非日常があります。服は、今の当たり前の世界から自分を遠くに連れて行く、日常を変える装置になると思っています。服を着た人の意識が変わることで、社会が動き、未来に変革が生まれる可能性があると信じています」