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連載

#2 #受験生のモヤモヤ 学ぶ楽しさの見つけ方

「理想の顔」ってどんな顔? イメージを具体化する数学の力

PR by 明治大学

目次

みなさん、ご機嫌いかがですか?
 
私はというと、今日は右の眉毛がうまく描けたので、いつもよりちょっとだけハッピー!……のはずが、アゴに小さな吹き出物を発見してしまったので、プラスマイナスゼロ。結果、通常運転です。
 
こんなふうに、人それぞれに自分の顔の「理想」ってあると思うんです。日々その状態を目指すものの、なんだか顔が疲れて見えるな、とか「あれ?今日はメイクがハマらないな」とか、なかなか再現性がなかったりするんですよね。
 
私たちを振り回す「理想」とは何か。これをなんと「数学の力」で導き出す研究をしている先生が明治大学にいるんだそう。数学で? 私の理想が導き出せるの……?
 
不思議に思いつつ、訪ねたのは明治大学総合数理学部・荒川薫先生の研究室です。

荒川薫(あらかわ かおる)

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科教授。クリエイティブインテリジェンス研究所代表。
専門はメディア情報学、情報通信工学。 

「個人の好みや感性」は数式で導き出せる?

ーー先生の研究では「数学」を用いて「理想とする顔」を導き出すそうですね。早速ですが、どうしてそんなことができるんですか。
 
私は「人の好みを数理科学とコンピューターで的確に表現するにはどうしたらよいか」について研究しています。
 
数学は、関数の最大値や、最も発生確率が高い値、また、特定の条件の下での最適値などを算出できるものです。それを応用して、個人の好みや感性を考慮しながら最も似合う顔や化粧、つまり「その人にとっての最適な顔」を求める研究をしています。
 
ーー「個人の好みや感性」というのは、数字で測れないような気もするのですが……それもできてしまうんですか?
 
そこがポイントなのです。その前に、「人の最も好むものやデザイン」をどうやって推定するかについて、少しお話ししてもいいですか?
ーーもちろんです! お願いします。
 
多くの人の好みに関する統計データを解析して「こういう化粧品が人気」だとか、「こういう化粧法が流行っている」といったことを導き出すのは、実は難しくないんです。
 
しかし、当たり前ですが、人の顔は二つと同じものはありませんよね。人それぞれ違うものです。だから「この化粧品はこの人には似合うけど、あの人には似合わない」とか、人によって「もうすこし落ち着いた色がいい」とか「もっと華やかにしたい」など、好みのギャップが生まれる可能性があるのです。
 
ーーそれはそうですよね。万人に好かれるもの、というのは現実的でない気がします。
 
そこで「個人の好みや感性」を、コンピューターにインタラクティブ(対話的)に学習させることで、その人にとっての最適な顔を作っていくんです。
 
この辺は、「デジタルエステ」という、私たちの開発したシステムを実際に使ってみたほうがわかりやすいかもしれませんね。
 
ーーぜひ!!
 
では、この中から「いいな」と思う写真を選んでください。
ーーえーっと、……これ!
 
はい。では、次にこの中から選んでください。
 
ーーん〜〜〜。これ、かな……?
 
ありがとうございます。これを5〜6回繰り返して、最終的に一つを選びましょう。
 
ーーでは、これでお願いします!
はい。ありがとうございました。今回はモデルさんの写真を使いましたが、本来はご自身の写真で行います。
 
ビフォーアフターを並べるとこんな感じですね。
左が元の写真。右が5回ほど選択を繰り返してでてきた写真。
左が元の写真。右が5回ほど選択を繰り返してでてきた写真。
ーーおおー! 目や口元の印象が強く、お肌はなめらかになりましたね。最初よりも柔らかい雰囲気になったと思います。
 
いま、実際に木村さんが「これがいい!」と選んだことで「個人の好みや感性」を、コンピューターにインタラクティブに読み込ませていたのです。
 
こうした判断を重ねていき、自分の理想を形にするのが私の研究している「対話型進化計算」という手法です。
 
ーーなるほど。まずはコンピューターが基本となる選択肢を作ってくれたと思うのですが、それはどうやって導き出しているのでしょう?
 
最初は統計値をもとに、ある程度好まれやすいであろう選択肢を提示していますが、「突然変異」の選択肢も必ず表示するようにしています。
 
ーー突然変異?
 
例えば、「誕生日に何を贈られたらうれしいか」を100人に調査します。その回答の中で一番多いものが「衣類」だったならば、一般的に多くの人が望むものは「衣類」だと導き出せますよね。
 
ただし、100人の回答者の中で、男子小学生では「ゲーム」を欲しいと回答し、女子高校生だと「衣類」を欲しいと回答する、ということが起こっているんですね。人の特性によって最適なものは違うので。
 
さらに、女子高校生という属性のなかでも読書好きな人であれば「衣類」よりも「本」が欲しいでしょうし、より細かく属性を分けていくと最適なものは変わっていくのです。
ーーある程度の傾向はあっても、人それぞれ欲しいものは違いますもんね。
 
はい。その上、読書好きな女子高生の大半は「本」が欲しいと回答するけれど、読書好きな女子高生の中にも「本」より「アクセサリー」が欲しい人も数%はいるのですよね。この数%がとても大事で、無視してはいけない存在なのです。
 
だから、読書好きな女子高生Aさんの理想のプレゼントを求める際には、Aさんの属性を細かく分けて、同じ属性の人が好む確率や希望度が高い「本」や「衣類」を優先的に提示します。けれど、数%は違うものを希望する人もいる。その希望を拾うために、「アクセサリー」や「ゲーム」など全く異質なものも考慮する必要があるのです。これが突然変異です。

ーー似たようなものばかりじゃなく、違った選択肢も出るようにする、と。たしかにさっきの写真でも一枚だけほかとは雰囲気の違うものがありました。それが突然変異だったんですね。
 
最初に選んだものと似たようなものだけを用意していると、「最初の選択肢にはなかったけれど、本当はその人が気に入っているもの」を見逃してしまうかもしれない。それを防ぐために、突然変異は必要なのです。
 
そのうえで「私はこれがいい」と、人による選択を繰り返すことで、その人にとっての理想の形を提供するのがこのシステムの原理です。

言葉にできないニュアンスも、画像なら伝わる

ーーこの「デジタルエステ」技術、実際にどこかで活用されていたりするんでしょうか?
 
化粧品メーカーKOSEさんと共同で「美顔化システム」を開発しました。こちらはシワやシミ、毛穴などを最適化したり、肌の色味を調整できたりして、約400万通りのパターンから理想の顔を選び出せるものです。
 
ーー約400万……! ものすごい数ですね。
 
お客さんが自分で「どのくらいシミやシワを隠したいか」「どう見えるのが理想か」を選び、その状態を画像で販売員と共有できるのです。すでに導入されている店舗もあり、このシステムのおかげでお客さんと販売員さんの間で齟齬なく「理想の状態」の共有ができるようになりました。
 
ーー画像で共有できる、というのが重要なんですね?
 
そうなんです。例えば「もう少し明るくしたい」と伝えたとしても、自分の中の「明るく」と相手の「明るく」は違う可能性がありますよね。そのすれ違いは、実物を見ることで解消できます。言葉だと人によって受け止め方に違いがでてしまう可能性がありますから。
 
ーーそうした感覚的な差を、画像にすることで埋められる、と。
 
「どういうメイクでどういう自分になりたいか」を、一から考えるのってすごく難しいと思うんです。ですが、10個のサンプルがあって、そこからいいと思うものを選ぶことはできますよね。
「デジタルエステ」が体験できるアプリも開発されている。
「デジタルエステ」が体験できるアプリも開発されている。
ーーこの研究が進んでいくと、ほかにどんなことに活用できるのでしょうか。
 
超高齢社会へと突入しつつある世の中ですから、今後は高齢者にも「美顔化システム」を体験してもらいたいと考えています。
 
化粧を施すことによって精神的に元気になったり、生きがいを持ってもらえたりしたらいいですよね。あとは顔以外のもののデザインにもこのシステムを使えたらと思います。
 
ーーデザイン、ですか?
 
最近、学生とネイルのデザイン研究もしているんです。言葉では正確に言い表せない漠然としたイメージを、どう色味やデザインに反映させるか、といったものですね。顔もそうですし、物のデザインや配色を「こういう感じにしたい」と思った時の「こういう感じ」をどう表すかって、とても難しいんです。
 
この「対話型進化計算」を用いることで、選びながらその人の希望を的確に表現できるようになればいいなと思います。

よりよいものを自分で選ぶため、コンピューターがサポートする

ーー最近では「多様性」について語られることが多くなりました。同様に「なにが美しいかは自分で決める」といった価値基準がスタンダードになりつつあります。そのなかで「一つの理想の顔」を導き出すことについては、どのようにお考えですか?
 
私も主観はとても大切だと思っています。
 
・自分で普段通りのメイクをした顔
・プロのメイクアップアーティストがメイクをした顔
・自分でメイクをした顔をデジタルエステで処理した結果
・プロがメイクをした顔をデジタルエステで処理した結果
 
これら4通りの顔画像に対して、どれがいいか選んでもらうアンケート調査を行ったんです。その結果、本人からも第三者からも、自分の手でメイクした顔をデジタルエステで処理した結果が一番評価が高かったんです。
 
ーーへえ! それはおもしろい結果ですね。
 
日によって「今日はこんな感じがいい」とか「こんな気分」などの違いもあると思うのです。このシステムは毎回違うパターンを提案しますし、「自分はこうありたい」といった個人の好みや主観が重要で、それを反映できるシステムだと思っています。
 
数学は「これが最適」という答えを決めてしまうものなので、多様性を反映できる数理システムはなかなかありません。でも私が研究しているのは、もっと漠然としていて、個々人がその時と場合によって「最適」と決める、そういう数理システムなのです。
 
ーー一つの答えを導き出すだけが数学じゃない、と。
 
ベースとなる顔のモデルを作ってそれを評価する関数を決め、「これがベストな顔です!」と答えを出して終わりなのが数学の世界ではほとんどです。ただ、そこに対話的に選ぶ動作を加えることによって、多様な感性に対応できるようになっているのです。
 
ーーあくまで選ぶのは人であって、コンピューターや数学が行っているのは、そのサポートということですね。最初のモヤモヤがスッキリしました! 先生、今日はありがとうございました!

荒川教授の記事をご紹介!
 
数理科学する明治大学
快適な介護空間づくりのための感性モデルを構築する
https://www.meiji.ac.jp/koho/math-everywhere/interview/int_p05.html
 
Meiji.net
あなたの理想顔のイメージを簡単に画像化できる
https://www.meiji.net/it_science/vol191_kaoru-arakawa

 

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