流れ星に願いごとっていうけれど、そんなチャンスはなかなか無いですよね。見つけるだけでもラッキーなのに、3回も願いを唱えるなんて・・・。夏の風物詩の「ペルセウス座流星群」は数少ないチャンスですが、今年は天候不順もあって残念。もしも流れ星を、自分の好きなタイミングで、決まった位置に出現させることができたら――。
全ての願いごとを叶えてしまいそうな野望を持つのが、この人、岡島礼奈さんです。彼女は、流れ星を人工的に作ることに取り組んでいます。その仕組みとは? どんな可能性を秘めているの? 岡島さんが高校生とディスカッションすると聞いて、「朝日やさしい科学の教室 クボタ・アクティブ・ラボ(株式会社クボタが1985年から協賛中)」に潜入してきました。
白いTシャツとジーパンのカジュアルなスタイルで高校生と語らう岡島礼奈さん
私たちが目にする「天然」の流れ星は、宇宙空間にあるチリが、地球の大気に突入する際に見える現象。秒速数十kmの速度で大気と衝突して発生したプラズマが、明るく輝いて空に軌跡を描くのです。では、「人工」の流れ星は?
「Shooting stars On demand」のフレーズで岡島さんらが計画している人工流れ星のイメージ。
ズバリ !「流れ星がつくれるの?」 それが今回のテーマ。疑問を解決すべく、まずは岡島さんの話に耳を傾けると、上空で輝く原理は「人工」も「天然モノ」も同じだそうです。岡島さんが代表を務める株式会社ALEのプロジェクトについて、ポイントを6つに整理しました。
(1)そもそも何を流す?
用意するのは、流れ星の元となるビー玉ほどの大きさの“粒”。高度約500kmの上空で人工衛星から粒を放出すると、大気に突入して流れ星になります。精度をもっと高めていけば、地上から操作して好きな場所やタイミングで流れ星を出現させることができそう!
(2)どんな色なの? 新色が続々登場!?
流れ星のカラーリングは、白、青、緑、オレンジまで開発ずみで、現在は赤も検証中とのこと。明るさは、0等星~マイナス1等星のレベルまで可能になりました。色が増えたら、流れ星で空をデザインできるかも?
(3)どのぐらいの範囲で見えるの?
打ち上げ花火よりもはるかに高い地点で輝くため、直径200kmの範囲で見ることができます。東京を中心にすると関東地方をほぼカバーし、約3000万人が同時に楽しめる計算に。
(4)いつ実現するの?
“粒”を載せた人工衛星を2018年に打ち上げて、2019年に広島の上空に流す、というスケジュールでのお披露目になりそう。
(5)法的な問題はないの?
現在は人工流れ星を作ることに対する直接の規制がなく、国連の宇宙損害責任条約、スペースデブリ(宇宙ゴミ)低減ガイドラインや、国内法(宇宙活動法)などからルールを検討中。軍事利用などがないように、ALEはパイオニアとして自らの基準を積極的に開示していくそうです。
(6)科学的な意義は?
宇宙船が大気圏へ安全に突入したり、スペースデブリを燃やすためのデータ収集に役立ちます。高層の大気や天然流れ星のメカニズム解明にも貢献。生命の起源が宇宙からやってきた有機物だという説まで検証できるかも!
岡島さんは、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の博士課程を修了後、ゴールドマン・サックス証券に就職した経歴の持ち主。大学在学時にも起業し、2児の母親でもあります。
出身地の鳥取県では「明るい星空を見ながら育った」と語る岡島さん
天文学と金融機関?不思議な組み合わせですが、いずれも今の仕事に生かされているそう。「全てが『科学と社会をつなぐ』という私の人生のテーマに関係しています。職業で何になりたいと思うより、何がやりたいかを探して、それをどうやって実現するかを考えることが重要です」と話します。
岡島さんの「流れ星を作る」というアイデアの原点は、大学生だった2001年に目の当たりにした「しし座流星群」の空前絶後の光景でした。では、流れ星をどうビジネスにつなげるか。岡島さんの計画は、夜空という世界最大のキャンバスに流れ星を描くエンターテインメントです。地上のイベントとのコラボや、飛行機や客船から流れ星を観賞する企画など、さまざまな可能性が!
「花火のように、多くの人が同時に流れ星を眺めて楽しむカルチャーを作りたい」。それが岡島さんの目標です。
「流れ星で螺旋(らせん)を描けたら面白い」。プロジェクトに参加するあるアーティストから、岡島さんや専門家が考えもしなかったこんなアイデアが出たそうです。実は、流れ星をカーブさせるのはけっこうな費用がかかるものの、物理的に不可能ではないそうです。「先入観のない人の意見は、面白いようにプロジェクトを進めてくれます。『早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け』というアフリカのことわざがあります。いろんな人の力を借りると、違ったアイデアも出て、自分が思いもしなかったところまで行けるんです」
岡島さんの話を聞いた後、高校生は6つのグループに分かれ、人工流れ星の可能性を考えました。ファシリテーターを務めた、ニュースサイト「ハフポスト」日本版編集長の竹下隆一郎さんが出したお題は「人工流れ星×〇〇〇」。竹下さんの「理系と文系、両方の力が必要な時代、キーワードは『組み合わせ力』です。人工流れ星を何と組み合わせたら、もっと魅力的になるのか、テクノロジーがより輝くのかを考えてほしい」との問いかけに、高校生たちはさまざまなアイデアをまとめ、グループごとに発表しました。
Aグループ「人工流れ星×ホンモノ」
天然の流星群が降る時間帯に合わせて、人工流れ星をコラボさせる前代未聞の天体ショー。「人々の視線を空に集め、宇宙に興味を持つきっかけに」という意図に、岡島さんも深く共感。
Bグループ「人工流れ星×クリスマス」
ホワイトクリスマスの雪の代わりに、流星群がロマンチックな夜を演出。同時に出たアイデアの「×新年」は、除夜の鐘のように煩悩の数と同じ108の星を流す案だったとか。
Cグループ「人工流れ星×オレの誕生日」
流れ星で文字を描いて、自分の名前とハッピーバースデーを200kmの範囲まで大々的にPR。知らないおじさんにお祝いされたり、意外なコミュニケーションが広がっていくかもしれません。
Dグループ「人工流れ星×フェス」
野外で行われる音楽フェスは集客力があり、人工流れ星との相性も抜群です。プロジェクションマッピングと競演させるアイデアも盛り上がりそう。
Eグループ「人工流れ星×サプライズ」
プロポーズを成功させる秘けつは、「キミのために用意した流れ星」。こんなプレゼントを贈られると、断るわけにはいかないはず(?)。外出する機会が少ない介護施設の入居者などに流れ星を見せてあげたい、という案も高い評価を受けていました。
Fグループ「人工流れ星×昼間」
日中に流れ星を見せようという大胆なアイデアで、五輪の開会式などの世界的なイベントを想定。岡島さんは「今の技術では明るさに課題があるけれど、どうすれば昼間に見せられるかを考える必要があると思う」
最後に岡島さんは「固定観念に縛られない、皆さんの伸び伸びとした意見が楽しかったです。これからも、その柔軟性を無くさずに頑張ってください!」と講評。一人で唱えるだけでは叶いそうもない願いごとやアイデアも、異なる背景を持って集まったチームで考えることで実現に近づくことを、参加した高校生たちは実感したのではないでしょうか。
クボタは「For Earth, For Life」のもと、世界の農業と水の未来を支え、食料・水・環境にまつわるグローバルな課題の解決に挑戦する企業です。若い世代に科学・技術への興味を持ってもらいたいと、第一線で活躍する研究者が最先端の科学を解説する「朝日やさしい科学の教室」への協賛を続けています。同教室は今回で50回目を迎え、そろそろ卒業生からノーベル賞の候補者が出てきてもおかしくないかも?