連載
#51 小さく生まれた赤ちゃんたち
24週662gで生まれた6歳の男の子、初めての80m「親子ラン」
「『よーいどん』が楽しかった」
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#51 小さく生まれた赤ちゃんたち
「『よーいどん』が楽しかった」
2500g未満で小さく生まれた子どもと親が、80mのコースを全力で駆け抜けるーー。11月上旬、横浜ノースドックラン2025の企画として、初めて「親子ラン」が開かれました。参加したのは、2歳から7歳までの親子9組。大勢の観衆に見守られながら、全員が完走しました。11月17日は「世界早産児デー」です。
※世界早産児デー:早産の課題や負担に対する意識を高めるために、2008年にヨーロッパNICU家族会や提携する家族会によって制定された記念日
暖かい日差しで気温が20度を超えた11月1日。横浜市で開かれたマラソン大会の企画として、小さく生まれた子どもと親たちが80mの親子ランに挑戦しました。
参加したのは、妊娠24週370g~34週2408gで生まれた子どもとそのきょうだい、親の9組。子どもたちの年齢は2歳から7歳(小学校1年生)までです。
スタート前、足を伸ばしたり、肩を回したり、入念に準備運動をしていた子どもたち。気づけばコースの両側は、マラソン大会へ出場するランナーたちで埋め尽くされ、注目が集まっていました。
母親のひとりは、「すごーい! こんなことないよ!」と感激の様子です。
ほかの種目に先立ち、親子ランのスタートが切られました。
「……3、2、1、ピー!」
10秒のカウントダウンのあとに笛の合図が響き渡り、子どもたちが全力でダッシュ。そのうしろを親たちが懸命に追いかけます。
周りのランナーたちからは、「行けー! 頑張れー!」という声援が飛びました。
勢い余ってスタート直後に転んでしまった子もいましたが、諦めずに母親と一緒にゴール。最年少の2歳の女の子も、ゴール手前で母親に抱っこされながら走りきりました。
早く小さく生まれた子どもは発達がゆっくりだったり、障害や病気のリスクが高かったりします。この日の参加者のなかにも、3歳まで歩けなかった子や発達障害のある子、配慮が必要な子どもたちがいました。
そうした背景も含め、小さく生まれた子どもたちの状況を知ってもらいたいと企画されたのがこの親子ランです。
ぞくぞくと親子がゴールにたどり着くなか、ひとりの女の子がコースの真ん中より手前で立ち止まっていました。
妊娠24週4日(妊娠7カ月)370gで生まれた小学1年生の坂上芽(めい)さん(7)。知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断されています。音に敏感なため、ヘッドフォンをつけてのチャレンジです。
「頑張れ!」「めーい、めーい」と観衆が応援します。芽さんのそばには母親がいましたが、ゴール付近にいた父親も合流しました。
芽さんのペースで走り、スタートの合図から約3分後、親子3人でゴール。大きな拍手と歓声に包まれ、参加した親子9組がみんな80mを完走しました。
親子ランに参加したひとり、小学1年生の松井拓真さん(6)は、中等度の難聴のため両耳に補聴器をつけて生活しています。
2018年、妊娠24週6日662gで生まれました。生後4日目に脳出血、生後6日目には腸が破裂し、生後2カ月で敗血症となって生死をさまよったといいます。早産児に多く見られる目の病気「未熟児網膜症」の治療も受けました。
NICU(新生児集中治療室)とGCU(新生児回復室)に計8カ月入院。発達はゆっくりですが、今年の春から地域の小学校に通い、楽しく過ごしているそうです。
好きな勉強を尋ねると、「漢字!」と元気よく教えてくれました。
運動会でかけっこをしたことはありますが、親子ランは今回が初めてです。拓真さんが狙っていたのは「1等賞」。母親の亜美さんと一緒に全力で走りました。
残念ながら1位でゴールはできなかったものの、「『よーいどん』が楽しかった」と笑顔で答えてくれました。
亜美さんは「みなさんに見守られながら走れたことは、子どもたちにとっても親にとってもすごくいい経験になり、本当にありがたい機会でした」と話します。
「小さく生まれましたがこんなにすてきな舞台で最後まで走りきれて、たくましく育ってくれているなあと思います」
親子ランが開かれたのは、米軍施設「横浜ノース・ドック」(横浜市神奈川区)を舞台に2015年から続くマラソン「横浜ノースドックラン2025」です。
11月17日の「世界早産児デー」を前に、小さく生まれた赤ちゃん「リトルベビー」を知ってもらおうと企画されました。
初年度の今年は、神奈川県を拠点にリトルベビーや家族を支援するNPO法人penaのメンバーから参加者を募ったといいます。
penaの理事長の坂上彩さんは、「横浜ノース・ドックという非日常的な場所で小さく生まれた子どもたちが走り、地域のみなさんやリトルベビーを知らない人たちが大歓声を送ってくださいました。本当にうれしかったです」と話します。
参加した親からは、「スタートまでの10秒間、子どもの姿を見ながら、NICU時代の姿を思い出して涙が出そうになりました。改めて成長を感じた1日でした」「みんなが元気に走る姿をうしろから追いかけながら、ただただ感動しました」といった感想が寄せられたそうです。
彩さんは、親子ランで最後にゴールテープを切った芽さんの母親でもあります。
「小さく生まれると発達がゆっくりだったり、何かしら配慮が必要だったりする子どももいて、地域でどう思われるか不安を感じる家族もいます。ですが、このような機会にみなさんに知っていただいて、子どもたちがそれぞれの地域で笑って過ごせたらいいなと思います」
横浜ノースドックラン実行委員会は、来年以降も親子ランを続けていきたいとしています。

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