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連載

#14 若者のひとり旅

「旅は追体験できない」〝衝撃〟は現地でしか…ひとり旅発信の女性

「バーチャルで匂いがかげるのか、人に触れるのか……」

インドでの旅で、現地の人たちと写真撮影をするあんさん=本人提供
インドでの旅で、現地の人たちと写真撮影をするあんさん=本人提供

目次

インドやタイ、アメリカなど20カ国以上を旅しながら、ローカルフードや穴場スポットを紹介するYouTubeチャンネルを運営する女性がいます。チャンネルの登録者は約7万人で、旅に関心のある若い世代のファンを楽しませています。しかし意外にも、幼少期は旅に縁がなかったそうです。なぜ、旅をしながら発信をするいまの人生にたどり着いたのか、聞きました。

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家族旅行ない幼少期

YouTubeチャンネル「anne's Trip / あん旅」(https://www.youtube.com/@annestrip9116)を運営するあんさんは、現在27歳。3年ほど前から旅の様子をYouTubeに投稿するようになりました。
 
あんさんは、航空系の専門学校を卒業後、2018年から航空会社のグランドスタッフとして2年間働いていました。
 
航空系の専門学校に進学した動機は「空港で働いている人はきれい」というイメージと、ジャスティン・ビーバーをはじめとする洋楽、ひいては英語への関心があったことから。
幼い頃、遠方に住む祖父母を姉妹で訪ねた時と、航空業界を舞台にしたテレビドラマ「GOOD LUCK!!」の印象から、空港に「かっこいい」「きれい」といったイメージを持っていた一方で、「裕福な家庭ではなかったため、家族旅行もほとんどなく、友だちの家の話をうらやましがる側でした」。
 
紀行番組として人気だった「世界ウルルン滞在記」も好きでしたが、「行きたい」というよりも、「こんな世界もあるんだ」と思う程度でした。
 
そんなあんさんの「旅への意欲」が高まったのは、専門学生時代だったといいます。
あんさんが運営する「anne's Trip / あん旅」
あんさんが運営する「anne's Trip / あん旅」 出典:https://www.youtube.com/@annestrip9116

同級生うらやんだ専門学校時代

専門学生時代のあんさんはエアライン科に通っていたため、海外の航空会社を含め、様々な研修の機会がありましたが、パッケージツアーのような仕組みで、学費とは別途費用が必要でした。
「仲のいい子はみんな行っていましたが、私は経済的に行けず。そこで『うらやましい』という気持ちになり、旅への欲がマックスになりました」

その「マックス」の状態で、初めての海外旅行に行ったのは、専門学校の卒業旅行として友人と二人で行った台湾でした。「当時はチケットも安く、バイトで貯めたお金で行けました」

観光雑誌を買い、行きたいところには付箋をし、「ドキドキしていました」。しかし、期待感と同時に感じていたのは、不安でした。

当時のネット環境は、使えるギガ数に制限のあるモバイルワイファイを、空港で借りて持ち歩くというもの。国内にいれば、何げない連絡もスマホで取り合えていましたが、海外でのネット環境が不自由になるのは不安材料の一つでした。

「旅行中は、ネットを使って調べる場合もありましたが、最小限に留め、使ってはオフにして使ってはオフにして…を繰り返していました」

ネット環境以外にも、「自分の英語スキルで本当に旅ができるのか」「ちゃんと電車に乗れるのか」「いい旅ができるのか」――。

ただ、台湾に到着し、いざ現地の人とふれあってみると、不安は吹き飛んだといいます。
「現地に行くまでは、ワクワクと、不安が混在していましたが、人とふれあうと、結局人が助けてくれました。『すごい優しいじゃん」って」

「ウルルン」からカンボジアひとり旅

その経験を経て、社会人になってからは徐々にひとり旅にも挑戦し始めました。

現地の友人とも会わない、まったくの「ひとり旅」は、カンボジアが最初でした。

実はその前に、友人と休暇中の旅行先を相談していたときに、「世界ウルルン滞在記」で目にしたカンボジアのアンコールワットをあんさんが提案しましたが、友人は浮かない返事。

ならば、と、次の日には自分の分だけチケットをとり、初の海外ひとり旅が決定しました。
番組内でアンコールワットに行ったのは女性だったこともあり、「すごく楽しそうで、自分でも楽しくできると思った」。飛行機に乗っているとき、まだ見ぬアンコールワットを想像するときも、頭には番組で見た景色が浮かんでいたといいます。

ひとり旅に踏み出せた心境を聞くと、「自分の好奇心だけで、行けたことが大きい。大切なのはノリと勢いです」。

2019年にカンボジアを訪れた際の写真=あんさん提供
2019年にカンボジアを訪れた際の写真=あんさん提供

「YouTubeやってみたら?」

当初は旅を楽しんでいただけでしたが、2022年からは、YouTubeに旅の様子の動画をアップするようになりました。きっかけは、結婚前の夫からの「YouTubeやってみたら?」の一言でした。

以前から動画編集が好きで、旅先での様子は個人的に簡単な記録として残していたそう。
ただ、この一言があってからはカメラも新調し、独学で編集などを学びながら、「発信」する側に。

「いったんやってみるか」くらいの気持ちで始めたといいますが、その年の間に収益化も果たしました。とはいえ、それだけで旅をしたり生活をしたりするのは難しく、ITベンチャーの社員としての仕事との、二足のわらじで生計を立てる時期が続きました。

そして2年前、3週間ほど滞在したインドの屋台での食事や、そこで出会った人たちとの会話の様子を発信すると、再生回数が伸び続けたといいます。現在では、24万回以上が再生されています。

あんさんの動画の中でも再生回数の多い、インドでの旅の様子をおさめた動画 出典: 【インド】オールドデリー屋台グルメツアーしてきた

「旅は五感」

旅としても「最高の経験でした」と振り返るインドへの旅。

日本では出会えないような人たちと出会ったことが印象的だったといいます。

「しつこく感じるくらいずっと話しかけ続ける人もいたし、鼻の穴にたくさんのハエが詰まったまま、道ばたで寝転がっている女性もいた。しかもその女性の傍らには子どももいて……。日本ではあり得ないような光景をたくさん見て衝撃を受けた」。インドに残るカースト制を現地で感じたとも語ります。

「『世界ウルルン滞在記』を見ていても思っていましたが、旅ってきれいなものばかりじゃない。時に過酷なこともあるけれど、旅ってこういうことなんだと思います。きれいなものも、しんどいものもある」

ソーシャルメディアを通じてひとり旅の様子が発信されると、動画や画像の豊富さゆえ、旅を追体験しているように感じます。

しかしあんさんは、「旅は追体験できない」ときっぱりと言い切ります。

「旅は五感を使うものだと思っています。食事でいえば、ソーシャルメディア上で、食べ物の画像を見ることができても、食べて、味やにおいを知ったりできるのが旅だと私は思っています」

「バーチャルで匂いがかげるのか、人に触れるのか……。現地に行ってからじゃないとわからないことは絶対にあります」

2023年にインドを訪れた際に撮影した町並み=あんさん提供
2023年にインドを訪れた際に撮影した町並み=あんさん提供

紹介した国の人からコメントも

あんさんが発信をする目的の一つは、旅に出る人にとっての事前の情報収集のため。二つ目は、自分の旅の記録のため。三つ目は、行けない人のため。

「完全に旅を楽しめるのは現地に行くことだと思っていますが、視聴者は元気な人ばかりではないと思っています。海外に行けない人も動画から旅を楽しんでほしいと思っています」

動画の登録者の男女比はほぼ半分半分。20代から30代に多く支持されています。
「『来月行こうと思っていたので、助かりました』というコメントがあったり、次の旅先選びに悩んでいる人からのコメントがあったりしますね」

意外だったのは、旅先の国の人からもコメントが付くことです。特にタイを紹介する動画にはタイ人と思われる視聴者から「Welcome to Thailand」などとコメントがつくそうです。

タイでの旅の様子をおさめた動画 出典: 【最新🇹🇭タイひとり旅🛵】バンコクで今話題のスポットを巡る

「これなら行ける」と「これなら行かなくていい」

経済的、時間的制約から、若い世代の旅が困難になっていることを指摘する声もありますが、YouTubeに加え、若い世代のユーザーが多いTikTokでも発信しているあんさんの体感では、海外旅行への関心自体は低くないと感じているそうです。

「ただ、動画を見た結果『こんな感じなら行けるな』と思う層と『こんな感じだとわかったから行かない』と思う層が二分されると思います」

そこであんさんが強調するのは、「若くて自由があり、身体が動くうちに、やりたいことはやった方がいい」ということです。

4年前、いつも旅先のあんさんを気遣ってくれていた父親が、病気の発覚から半年経たない間に亡くなりました。それを念頭に「元気なうちに旅をして、色んなことを吸収したい」と話します。

11月からは、世界一周を始める予定で、初めての南米にも挑戦し、アメリカではロードトリップをするつもりだそう。「今後も、たくさん発信していけたらいいなと思っています」


若者のひとり旅
<若者のひとり旅>
みなさん、旅行は好きですか?お金や時間が必要で、かつ天気やトラブルなど不確実性の高い「旅」は、〝コスパの悪い娯楽〟とも思われるかもしれません。令和を生きる若い世代は、どんな旅行をしているのでしょうか。なかでも「ひとり旅」をする理由は?そして、旅行をしない・できない理由とは?多方面から読み解きます。
     ◇
朝日新聞フォーラムでは、「若者のひとり旅」にまつわるアンケートを実施中です。回答は10月2日14時まで。ぜひお寄せください。
【回答はこちらから】https://www.asahi.com/opinion/forum/229/

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