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名画の主役に〝コスプレ〟 美術館が「大真面目」に企画する理由は

睡蓮をこよなく愛し、数々の名画をのこしたフランス印象派の画家クロード・モネ。その「睡蓮」になりきってみませんかーー。そんな一風変わったコスプレ企画を美術館が〝大まじめ〟に開催しています。なぜ、コスプレ?しかも花の?? 学芸員に聞いてみました。
徳島県鳴門市にある大塚国際美術館の「アートコスプレフェス2025」が始まりました。
世界的な名画の〝主役〟になりきり、絵の世界観の中で撮影できるイベントで、今年で9回目という〝風物詩〟にもなっています。
今年の新作であり、目玉は「モネの『大睡蓮』を体験できます!」とのこと。
モネは、愛情をかけて育てた睡蓮をモチーフに200点以上の連作を描きました。その集大成として描かれた大作が「大睡蓮」。オリジナルはパリのオランジュリー美術館にありますが、大塚国際美術館ではそれを陶板で再現し、屋外に展示しました。作品の周りには睡蓮の池があり、自然光の中で名画を見ることができる、目玉の展示です。
それになりきる? どんな体験なのでしょうか。広報資料に添えられていたイメージ写真には、モネの大睡蓮を再現した背景の前に、ピンクや青の大きな睡蓮を頭にかぶって、水面に浮かぶ〝睡蓮〟になりきった人たちの笑顔が写っています。
とても、シュールです。
学芸員の富澤京子さんに、思わず聞いてしまいました。「これ、真面目にやってるんですか?」
富澤さんは、「真剣に取り組んでます! 毎年毎年、難産で……」と語り始めました。
今年、なりきれることができる名画は、大睡蓮を含めて7作。
・ボッティチェッリ「春(ラ・プリマヴェーラ)」に登場する〝花の女神フローラ〟
花柄のドレスと花の冠でなりきります。
・ホルバイン「大使たち」
大使たちの衣装とポーズで絵画そのままの撮影が可能。
・ラ・トゥール「ポンパドゥール夫人の肖像」
18世紀に流行したエレガントなドレスで貴婦人になりきります。
また、過去にも登場して好評だったフェルメール「真珠の耳飾りの少女」、ブーシェ「ポンパドゥール夫人の肖像」。ゴッホの「ヒマワリ」のヒマワリになりきる、という、シュールなコスプレ企画もちりばめられています。
9年目にもなると、どう目新しさを出すかに苦心したそう。
さらに展示と展示の間に設けられた撮影スペースで、数分で脱ぎ着できる手軽さも求められます。それゆえ衣装はすべてオーダー品で、羽織るように着られるような工夫を凝らしてあります。
ロココ調のドレスは、歴史衣服研究家の力を借りて、布地のプリントからオリジナルで施したそうです。
ドレスに比べてさらにシュールさが漂う〝睡蓮〟のかぶり物ですが、これにも実は熱い思いが詰まっています。
「熱帯性の〝青い睡蓮〟を入れました。フランスでは青い睡蓮が咲かなかったため、モネが想像で描いたとされる幻の花です」とのこと。
この〝青い睡蓮〟は、大塚国際美術館では無事に開花して、今、見頃を迎えているそうです。絵画と本物の花を見ながら、コスプレを楽しめます。
そんなこだわり抜いたコスプレ企画には、「子どもから大人まで、アートのテーマパークのような気持ちで名画を楽しんでほしい」という願いがありました。
富澤さんは「コスプレされている人って、みんな笑顔なんです。〝敷居が高い〟と感じる人もいる美術館の中で、お互いに写真を撮りあったり、ちょっとした交流が生まれたりする良いコーナーだな、と思います」と話します。
鳴門の渦潮にも近く、大塚国際美術館には夏休み中、多くの子どもたちや、赤ちゃん連れの家族も立ち寄るそうです。
教科書などで一度は目にしたことがあるような世界26カ国の名画1000点余りを楽しめる美術館ですが、陶板で再現されていることから、「触れても大丈夫」という安心感があり、子連れにも人気とのこと。
また、海外旅行前の〝予習〟として使う学生も多いそう。
なぜ予習? 例えば北イタリアのスクロヴェーニ礼拝堂は、現地ではなかなか中に入れませんが、大塚国際美術館では再現した礼拝堂の中に座って、間近で壁画を見られます。
そして「もうこの世では見られない」作品が見られるのも特徴です。
ゴッホは花瓶に入った「ヒマワリ」を7点描きましたが、うち1点は第二次世界大戦のさなか、兵庫県芦屋市の空襲で焼失していました。それを資料を元に、原寸大で復元し、いまは7点の「ヒマワリ」を、大塚国際美術館で見ることができるそうです。
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