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ネットの話題

「ネズミキツネザルです」「ややこしいな」大人気ポスターの制作秘話

ネットでたびたび話題になる病院のポスター。中には10万RTを超え、約40万いいねを集めたツイートも。
ネットでたびたび話題になる病院のポスター。中には10万RTを超え、約40万いいねを集めたツイートも。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供

目次

「お名前を教えて下さい」「ネズミキツネザルです」「ややこしいな」――。患者の取り違えを防ぐための、医師と患者の「名前確認」のやりとりを描いた病院のポスター。ネットでたびたび話題になりますが、制作した病院を改めて取材すると、ここ数年での変化もあったようです。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
 
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「これ好きw」投稿、900万回表示

「カバ」と「ネズミキツネザル」のかけあいにより、患者の取り違えを防止するために病院で実施される名前確認について説明するこちらのポスター。過去に何度も写真がSNS上に投稿され、話題になっています。

直近では11月上旬にX(旧Twitter)「これ好きw」という文言と共に投稿された写真が1.7万回リポストされ、約900万回表示されています。過去にはリポストが10万回を超え、約40万いいねを集めた投稿もあり、注目されてきました。ただし、こうした投稿には、病院名など一部がカットされているケースがありました。

制作したのは千葉の医療法人鳳生会成田病院です。同院では2019年12月から掲示を開始しているとのことでした。

 
ポスターの全体像。
ポスターの全体像。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供
「お名前を教えて下さい」と伝えるカバの医師。患者は「ネズミキツネザルです」と名前を答えます。思わず「ややこしいな」と“失言”するカバの医師に、こちらは人間の看護師が「先生!」と注意します。

こうしたかけあいに「このイラスト描いた人優勝」「例えがシュール。嫌いじゃないわ。」「前から何度か流れてくるけど、見るたびに笑ってる」とユーザーからのコメントが集まりました。

しかし、どうして人間ではなく、「カバ」「ネズミキツネザル」といった動物でこのようなポスターを制作したのでしょうか。

取材すると、ポスターを制作したのは成田病院情報処理室の矢野智之さん。本業はシステムエンジニアですが、絵を描くのが趣味だったそうで、2019年ごろから院内の掲示物のイラスト制作も担当するようになりました。

「以前のポスターは人間の医師と患者さん、看護師が登場するもので、患者さんの名前は“成田太郎”さん。自分がその更新を担当するにあたり、“ふつう”のポスターでは印象に残らないのでは、という思いがありました」
 
以前のポスターの全体像。
以前のポスターの全体像。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供
そこで、まずは患者の名前から、複雑なものを考えてみることにしました。その際、複雑な名前が実際に存在する動物を患者にして描くことを思いついたと言います。3つ以上の名前がつながるような複雑な名前の動物を探したとき、「ネズミキツネザル」を見つけました。

「ややこしい」と言わせる医師役には、「多少、雑なところがあっても愛嬌がありそう」として「カバ」を起用。全員が動物だとまとまりがないため、医師をたしなめる看護師は人間のままにしたと言います。
 

「院内は撮影禁止」無償配布も

こうした矢野さんのセンスやユーモアが、ネットでの好意的な反応につながっています。

しかし、実はこのポスターへの反響について、成田病院事務局の担当者は「最初は複雑な思いだった」と明かします。というのも、同院は基本的に院内撮影禁止。拡散されたポスターの写真は許可を得ず、投稿されたものだからです。

担当者も「患者さんのプライバシーへの配慮から、院内は撮影禁止ですので、ご理解ください」とあらためて注意喚起します。

記者が取材で訪れて実物のポスターを見ると、ネズミキツネザルの毛並みや診察室の椅子の光の反射まで描き込まれており、その完成度の高さに驚かされました。

院内では、禁煙エリアを示したり「歩きスマホNG」を伝えたりするポスター、食堂での感染防止対策を呼びかけるシール、職員への配布物などに矢野さんのイラストが使用されています。

現在、事務局は矢野さんに依頼するとき、細かい設定はせず一任しており、「新作を楽しみにしている状態」だそう。矢野さんはそれについて「プレッシャーがかかる」と苦笑いします。

大きな反響があったことで、京都や大阪、広島の医療機関からも、ポスターを掲示させてほしいという依頼があったそうです。

矢野さんが制作したオリジナルの著作物ではあるものの、当初は「医療全体の安全に貢献したいという病院としての思いで、正式に依頼していただければ、お使いいただいていた」(事務局担当者)。

以降も問い合わせが続き、現在は公式サイトの「掲示物ダウンロード」のページから、無償ダウンロードができるようになったということです。使用の対象は医療機関に限られ、目的外の使用は禁止で、利用規約の確認が必要。ただし、閲覧は誰でも可能です。

「SNS上での動向は知りませんでしたが、安定的に月に数件ダウンロードされているようなので、それを見るにつけまだおもしろがってくれる人がいるのだなあ、とうれしく思っておりました」と矢野さんは話します。

本来であれば、病院を訪れた人の目にのみ、触れていたであろうポスターが、ネットの普及により何度も“発掘”され、多くの人を楽しませています。気になる人は矢野さんの他のイラストを含め、チェックしてみてはいかがでしょうか。
 

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