連載
#86 「きょうも回してる?」
ガチャガチャなのに録音できる! エモさと技術の〝CDプレーヤー〟
「売れば売るほど赤字みたいな商品」
まさかガチャガチャから出てくるもので、録音ができるとは――。SNSでもたびたび話題になる、小さなサイズのCDプレーヤー。製作者のどのような思いがそれを実現させたのでしょうか。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
今年1月から6月に発売された「オリジナル」のガチャガチャは、私が調べたところ1500アイテム以上あります。そのなかで、ガラケーやたまごっちなどの平成レトロのガチャガチャが10%以上を占めており、ひとつのトレンドになっています。
平成レトロに関連づけられてよく使われる言葉として、「エモい」があります。哀愁や情緒的、ノスタルジーなどを伴う何ともいえない複雑な気持ちや、心や感情が大きく揺さぶられるような気持ちを表現する時に使われているようです。このエモさがピッタリ当てはまる商品を作ってしまったのが、トイズスピリッツです。
今回は「本当に録音再生!レトロminiCDプレイヤーマスコット(以下、レトロCDプレイヤー)」を紹介します。6月に発売され、X(旧Twitter)でも何度もバズっているほど、どこかノスタルジーを感じさせ、共感を生んだのではないでしょうか。
トイズスピリッツは、ダイキャスト(金属製)の商品が得意なほか、他商品と差別化できる強みがあります。それは、安全に配慮したギミック(巧妙な仕掛け)を使ったガチャガチャです。
平成レトロのガチャガチャはミニチュアやチャームが多いです。しかし、このレトロCDプレイヤーは、ただのミニチュアではありませんでした。なんと、録音・再生できるのです。
音が出るガチャガチャは、3年前にブームになりました。バスのボタンをはじめ、家のインターホン、お風呂の湯沸かし器のガチャガチャなどを、一度は目にした人がいるのではないでしょうか。
ただ、それとトイズスピリッツの今回の商品は違います。
ただ音声が出るのでなく、本物のCDプレイヤーのように、1円玉の大きさの付属CDを入れないと、録音・再生ができないような仕掛けになっています。価格は1個500円。赤字覚悟で作ってしまった商品です。
レトロCDプレイヤーを作るきっかけについて尋ねると、代表の西村圭太さんは理由を2つ教えてくれました。
一つ目が、音声のガチャガチャのブームが下火になっているなか、世の中にない全く新しいものを作りたいという思いです。
「今までの音声の商品は、その場のシチュエーションを切り取った商品が多いです。でも、今までの音声の楽しみ方と、全く違う楽しみ方ができる商品にしたい。このレトロCDプレイヤーは、自分の好きな音声を吹き込むことで、その同じ音が出るといったものでも、その人によって使い方が無限に広がっていきます」(西村さん)。
二つ目のきっかけについて、西村さんは「確かにガチャガチャ以外で録音・再生の機能を備えた玩具はあります。ガチャガチャとして、本物のCDプレイヤーの録音・再生ができる雰囲気を再現したかったのです」と教えてくれました。
この雰囲気を表現するために、4種類のCDプレーヤー本体とは別に、付属メディアセットがあります。付属メディアセットには、CD1枚、CDケース、CDに貼るラベルシール(レーベル)、ミニカセットテープなどが入っています。
付属メディアセットと合わせることで、本物のCDプレイヤーの雰囲気が味わえると言えます。
西村さんは「レトロCDプレイヤーはメッセージ性がある商品にしたかった」といい、付属メディアセットのレーベルについて「レーベルにメッセージを書き、CDをセットし、自分の思いをメッセージに入れて楽しんでほしいです」。
思いの強さにただただ驚くしかありませんでした。しかもガチャガチャにも関わらず、特許を取っています。
なぜそこまでこだわるのかを聞くと、西村さんは「録音機能つきのCDプレーヤーを思い浮かべる場合、カセットを入れないと雰囲気はでないんですよね」と言いつつ、「ほんと、余計なことを追加してしまうからコストがどんどん膨れ上がってしまうんです」と自嘲気味に笑って応えてくれました。
現在の150円台の円安は、どのメーカーにとっても逆風であり、西村さんにとっても厳しい状況は変わりません。
「為替の影響を考えると、正直、作るのを辞めたかったです。売れば売るほど赤字みたいな商品。ただ、お客様から喜んでいただいて、『これすごいねって』と言っていただけることは、開発者冥利に尽きます」(西村さん)。
西村さんのモノづくりへの根源は、自分が子どものころ初めて買ったおもちゃのワクワク感を大切にしたいこと。これが西村さんがここまでにこだわる所以です。
そして、西村さんはこう言います。
「レトロCDプレイヤーは儲かるか儲からないかと言えば、儲かりません。ただ、こういう商品を作れるメーカーがあってもいい。アイデアや品質の高さがトイズスピリッツの強みです。日本のミニチュアのこだわった技術を世界に注目してもらいたいです」(西村さん)。
西村さんの話を聞いて、私はレトロCDプレイヤーがますます好きになり、エモさ満載だと思いました。このトイズスピリッツのガチャガチャへのこだわりを見ることができます。ちなみに、私にとって夏と言えば、蝉。蝉の鳴き声を録音しました。なんとも言えないエモいレトロCDプレイヤーになりました。
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東京都府中市に本社を置くトイズスピリッツは、8月3日と4日に開催される、東京都府中市の「市制施行70周年記念 第61回府中市商工まつり」に初めて出店します。トイズスピリッツのこだわりがたくさん詰まった商品を体感してほしいです。
「本当に録音再生!レトロminiCDプレイヤーマスコット」は、グレーメタリック、ブラック、ホワイト、ブルー、付属メディアセットの5種類。1回500円
1/10枚