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つまようじの溝は〝飾り〟 製造会社「溝なし」へ変化、決断の理由は
つまようじの持ち手部分についている「溝」を気にしたことはありますか?先日、国産つまようじの製造会社が「溝がないタイプに変わります」と発表して話題になりました。そもそも、この溝は「飾り」だというのです。変更した理由を尋ねると…。
「本日より『溝がないタイプ』に変わります」
昨年11月、国産つまようじの製造会社がSNSでこんな発表をしました。
投稿したのは、国内でわずか2社となった国産つまようじを作っている「菊水産業」(大阪府河内長野市)です。
普段使っているつまようじの持ち手側には、でこぼこした「溝」が付いています。
「取り出しやすくするため」とも言われたりしますが、菊水産業によると、あの溝は「こけし」と呼ばれ、こけし人形をモチーフにした「飾り」なのだそうです。
その「溝をなくす」という決定をしたのは代表の末延秋恵さん。購入者がSNSで「溝が深い」「溝が浅いのが入っていた」といった声を投稿していたことがきっかけだといいます。
末延さんは「製造機械が古すぎて、たまに調子が悪い時には溝がつかなかったり、逆に深すぎたりすることがありました」と話します。
そもそも、つまようじの材料のシラカバが、湿度や気温で膨張したり縮んだりするため、溝をつけるための機械の調整も簡単ではないそう。
機械のパーツを交換したくても、すでに新しい部品は販売されておらず、修理業者もいないため、社員たちで直しながら使っている状況だったそうです。
ここ数年で、菊水産業の国産つまようじがSNSなどで話題になり、昨夏ごろから注文が一気に増加。それまで1カ月間で100〜150箱ほどの売れ行きだったものが5千箱まで増え、検品と製造に多くの時間と人員を割かなければならなくなりました。
社員が1本1本、「先がちゃんととがっているか」「溝がちゃんと付いているか」など目で見て調べていました。
検品では、溝が深すぎたり浅すぎたりするものだけでなく、割れたものやささくれたものなども含め、多い時には全体の3分の1ほどを廃棄していました。
末延さんは以前から、検品で捨てられるものの多さに「もったいない」と感じていたといいます。
材料のシラカバは北海道から取り寄せていますが、確保できる量にはばらつきがあります。材料が不足していたコロナ禍では、十分な量を集めるだけでも一苦労だったそう。
「国産つまようじは、貴重なシラカバを使っています。刺す先の方はきれいなのに、飾りである溝のために捨てるものがあまりにも多かったんです」
そんな理由から、個人向けに販売するつまようじには溝をなくすことを決断。廃棄するつまようじの量は3分の1に減ったといいます。
SNSには「素敵な判断」「逆に高級感がある」「環境にも優しい」「無駄にしないためにも英断だと思う」「SDGsですね」などのコメントが付きました。
一方で、先代の社長はうまく溝が付かないときは何日も機械を止めて調整するほど強いこだわりを持っていたこともあり、問屋などに卸す商品には「溝あり」タイプも残したそうです。
末延さんは「検品の大変さはありますが、溝を付けるという技術を残すことも大切です」と話します。
世の中のすべてのつまようじから溝がなくなると勘違いした人もいたようで、末延さんは「『溝で耳かきをしていたのにどうしたらいいのか』という意見がたくさん届きました。『すべてが溝なしになるわけではない』ということを1件1件返信しました」と笑います。
「省けるものは省きつつやっていかないと、産業自体がもたなくなるという不安がありました。国産つまようじを長く後世に残すためにも、新しいことに挑戦していこうと思っています」
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