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連載

#63 どうぶつ同好会

「アカエイは赤ちゃんを出産する」投稿に驚き 手のひらに乗る大きさ

「プルンプルンで可愛い!」

手のひらサイズで半透明なアカエイの赤ちゃん
手のひらサイズで半透明なアカエイの赤ちゃん 出典: 眼遊 GANYUさん(@ganyujapan)の投稿より

目次

この夏、「アカエイは卵ではなく、赤ちゃんを出産する」というコメントとともにX(旧ツイッター)に投稿された写真が話題になりました。写っていたのは、手のひらサイズで半透明なアカエイの赤ちゃんです。「かわいい」と多くの人が魅了される一方、「勉強になった」という声も広がっています。

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プルンプルンの赤ちゃんが

話題になったのは、生き物を中心に撮影している写真家の森久拓也さん(44)の投稿です。

「アカエイは卵ではなく、赤ちゃんを出産するのですが、このサイズで産まれるって知ってました?」とアカエイの赤ちゃんの写真を投稿したところ、10万以上のいいねがつきました。

「プルンプルンで可愛い!」「知らなかった」「勉強になりました」といったコメントが寄せられています。

森久さんによると、漁師さんからアカエイをもらって観察していた際、「総排出腔(そうはいしゅつこう)」という排泄物を出したり、出産したりする穴から赤ちゃんのしっぽのようなものが見えていたといいます。

取り出してみると、「親と同じ形」の半透明の赤ちゃんが出てきたそうです。体盤幅(横幅)は10センチほどでした。

アカエイ
アカエイ 出典:眼遊 GANYUさんのサイトより

「想像よりも大きい」

「アカエイは卵ではなく、赤ちゃんを直接産むことは知っていましたが、なかなか見る機会がありませんでした」と森久さんは話します。アカエイの繁殖方法を知り、赤ちゃんを初めて見たのは、今から4年前でした。

当時撮影したのは、母親の子宮の中にいる発達途中の小さな赤ちゃんです。

アカエイは子宮の中でミルクを分泌します。森久さんは、赤ちゃんが卵の栄養と子宮内のミルクで育つということを聞いて、「哺乳類と繁殖方法がとても似ている」と驚き、関心を持ったといいます。

アカエイの赤ちゃん。母親は子宮内でミルクを分泌し育てているそうです
アカエイの赤ちゃん。母親は子宮内でミルクを分泌し育てているそうです 出典:眼遊 GANYUさん(@ganyujapan)の投稿より

それ以降、「次は産まれる直前のサイズを見てみたい」と思っていたそうです。

4年越しにその願いがかない、「想像よりも大きくて驚きました」と話します。

「多くの魚は卵を産みますが、孵化した直後は1cmに満たないとても小さい場合がほとんどです。そう考えると産まれた時から幅が10cmもあるのはとてつもなく大きいというのが実感できると思います」

SNSに投稿したのは、「こんなに大きなサイズの赤ちゃんを産むんだよと、『大きさ』に共感してもらいたかったから」と話します。大きさが分かるように、赤ちゃんを手のひらに乗せて撮影しました。

投稿へは「かわいい」という反応が目立ちましたが、「紹介した生き物に関心を持ってもらいたかったので、エイが赤ちゃんを産むなんて知らなかったという反応もうれしかったです」と振り返ります。

アカエイの赤ちゃん。卵黄が残っている珍しい状態だそうです
アカエイの赤ちゃん。卵黄が残っている珍しい状態だそうです 出典:眼遊 GANYUさん(@ganyujapan)の投稿より

そもそもアカエイとは?

では、アカエイとは、どんな生き物なのでしょうか? 会社員でアカエイの研究を続けている鈴木渚斗さんに聞きました。

ーーアカエイとはどんな生き物ですか?

「アカエイは日本各地に分布している『最も私たちの身近にいるエイ』です」

「エイと聞くと海にいるイメージがあるかもしれませんが、アカエイは汽水域(海水と淡水が混じりあう水域/河川の河口や干潟など)を好む種で、他のエイ類よりも低い塩分に適応するための能力を持っています。そのため、町中を流れる河川や用水路などで、アカエイが泳いでいるところを目撃され、ニュースになることもあります」

「ちなみに、エイの語源は諸説あります。形が葉っぱに似ていて『葉儀(いぇい)』と呼ばれたという説や、片側だけになった魚『片辺(かたへい)』といった説、主に東北地方で刺されて痛いことを『アイ』と呼ぶことから『エイ』となった説など、様々です」

「特徴的な形をした魚であるとともに、尾部には鋭いトゲがあるため、様々な呼び名がついていたのかもしれませんね」

ーーアカエイの赤ちゃんの投稿が話題になりましたが、アカエイはどのように出産するのでしょうか?

「多くのエイ類は、私たち人間と同じく赤ちゃんを出産する『胎生(胎児が母体内で発育し、ある程度自立可能となった段階で産み出される)』です。アカエイも胎生ですが、人間のようにへその緒があるわけではありません。アカエイの赤ちゃんは卵黄と、母親の子宮中に分泌される『子宮ミルク』と呼ばれる液を摂取することで急成長します」

「エイの種類によって妊娠期間や出産する数・サイズなどは異なります。例えば、マンタの妊娠期間は約1年で、1度の出産で1~2匹の赤ちゃんが生まれ、生まれたばかりの赤ちゃんの体盤幅は2m近くになります」

「しかし、アカエイは妊娠期間が約2~3カ月と短く、一度に5〜15匹程度の赤ちゃんが生まれます。生まれたばかりの赤ちゃんの体盤幅は10cm程度と小さいことが特徴です。つまり、アカエイは短い妊娠期間でたくさんの小さな赤ちゃんを産む繁殖戦略を持っていることになります」
アカエイの腹面。口の上にあるのは鼻の穴です
アカエイの腹面。口の上にあるのは鼻の穴です 出典:眼遊 GANYUさんのサイトより
ーーアカエイの産まれたばかりの赤ちゃんを見る機会は、どのくらい珍しいことなのでしょうか?

「アカエイは7~8月に出産のピークを迎えるため、5~7月ごろにしか、子宮内に赤ちゃんがいる状態を確認することができないと思います。さらに、アカエイの赤ちゃんは急成長するため、エイの形をした胎仔(赤ちゃん)を見る機会はなかなかないと思います」

「私も学生時代、アカエイの研究で約750個体を見てきましたが、そのうちエイの形をした胎仔が確認できた個体は10個体にも満たない程度でした」

ーー投稿には「毒のトゲ」は大丈夫なのかといったコメントもありました。

「毒のトゲ(尾棘<びきょく>)については、アカエイが自ら攻撃するわけではなく、危機がせまった時に振り回すため、むやみに刺激しなければ大丈夫です」

「釣った際などは、背中側(目がある方)を下にしておくと、尾の動くスピードが落ちるため、尾棘によってケガをするリスクは少し下がります」
 
アカエイの尾にある毒のトゲ
アカエイの尾にある毒のトゲ 出典:眼遊 GANYUさん(@ganyujapan)の投稿より
ーー水族館などでアカエイを観察する際のポイントを教えてください。

「子どもたちに教えたときに反響があるのは、『オスとメスの見分け方』です」

「アカエイのオスとメスの見分け方は簡単で、腹側の尾の付け根に『クラスパー』と呼ばれる交接器があるかないかで見分けることができます」
オスとメスの見分け方
オスとメスの見分け方 出典: 鈴木渚斗さん提供
「ちなみに、他のエイやサメも、この『クラスパー』の有無でオス・メスが分かるので、水族館を泳ぐエイやサメたちがオスかメスか見分けてみてください」

「身近な生物や有名な生物でも、実は分かっていないことがたくさんあります。どの生物も、今日まで様々な工夫をこらして命をつないできており、その方法は多種多様であることが興味深く、おもしろいと思います」

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