連載
#84 夜廻り猫
食事が出るのは弟妹だけ…何も聞かず迎えてくれたのは 夜廻り猫
戦時中、父が兵役にいくと、継母が自分にだけ食事を出してくれなくなって――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、幼少期にそんな経験をした男性を、あたたかく迎えてくれた隣人とのエピソードです。
きょうも夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵。新聞にじっと目を通す、年老いた男性の心の涙の匂いに気づきます。
男性は「自分の子ども時代を思い出してね」と語り出します。
自分の母が死んだ後、継母がきて弟妹が生まれ、父は戦争へ。すると、継母は男性のための食事を出さなくなりました。
暗くなっても外にいると、いつも向かいの男の子が「幸夫! 来ん?」と呼びかけてくれました。
男の子のお母さんは、戸棚から焼きおにぎりを出して、「食べ!」と差し出してくれます。
男の子の部屋からは、継母たちの夕食のようすが見えます。事情を察していたのかもしれませんが、「お前は飯がもらえないんだろ」と言われたことはなく、いつも「ただ遊びにきた」ように接してくれたのです。
男性は、「今も食べられない子どもがたくさんいるそうだ」「自尊心を損なわない助け方ができるといいな」とつぶやきます。
子猫の重郎にミルクを与えながら、男性は「子どもはみんな、招かれた客なんだから」とほほえみます。遠藤は力強く「はい」と頷くのでした。
作者の深谷かほるさんは、夏休みなど長期休暇には給食がないので十分に食べられず、休み明けにやせて登校する子どもたちがいるというニュースが心に残っているといいます。
深谷さんは「この問題は、今すぐ予算を十分取って解決するべきことだと思います。子どもがやせてしまうほど空腹でいるのを放置しているのは、埋め合わせのつく欠乏ではありません」と指摘します。
生まれた子どもは、みんなが歓迎されるべき――。
「心の奥底に、自分が歓迎されているという安心や自信があってこそ、人間は力が出せるのではないでしょうか」。深谷さんはそんな風に考えています。
戦時中や戦後など、子どもが満足に食べられなかった過去にも思いをはせ、深谷さんは「そんな過去の歴史は、人間を尊重できる社会を作るために生かしていくべきではないでしょうか」と話しています。
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