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#16 親になる

子育て〝詰んだ〟を救うのは誰? 「親を頼れない」ときにどうするか

危ういバランスで成り立つ育児は、ちょっとしたきっかけで“詰み”かねない。※画像はイメージ
危ういバランスで成り立つ育児は、ちょっとしたきっかけで“詰み”かねない。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

子どもがもらってきた病気がきっかけで、親までダウン。こんなとき、自分たちの親に頼れない状況では“詰んだ”と感じてしまいます。子育ての困難を救うのは誰か、いくつかの調査を読み解きつつ、便利な自治体のサービスを紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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ちょっとした病気で“一家全滅”

昨夏、生まれた子どもは生後半年を過ぎ、赤ちゃん用の遊び場などに行くため、外に出るようになりました。他の小さな子どもと接したり、家にはないおもちゃに触れる貴重な機会。しかし他方、びっくりするほど頻ぱんに、病気にかかります。

発熱と口の中に水疱ができる症状のあるヘルパンギーナになったときは、生まれて初めて「喉が痛い」という状況になったためか、大変なことに。

唾を飲み込む度にギャン泣き、離乳食やミルクが喉を通る度にギャン泣き、満足に食事を取れないため空腹でギャン泣き、そんなこんなでうまく眠れずにギャン泣きと、ひさしぶりに「一日中ギャン泣き」という状況でした。

こんな状況に、現在育休中で、日中はメインで育児を担当する妻がダウン。そうすると、核家族の我が家では妻子の看病を夫である私が一人ですることになります。結果、私もダウンし、一時的に“一家全滅”の憂き目に逢いました。

そのときはかなり遠方であるにもかかわらず、義実家から義母がリリーフに来てくれて、事なきを得ました。義母がまさにヒーローに見えたものですが、こうした支援がなければどうなっていたかとゾッとします。

実は、私自身は教育虐待のサバイバーで、いわゆる「毒親(※)育ち」です。実家とは絶縁状態で、こちら側の親は頼れません。義実家は子育てウェルカムだがかなり遠方、実家とは絶縁――こうした状況では、何かあったときにかなり苦労する、ということを、身にしみて感じました。
※過干渉や暴言・暴力などにより、子どもに悪影響を与える親を指す言葉。「毒になる親」の略。

個人的には、自分のように「毒親」育ちである場合、そもそも周囲に相談しづらく、助けを求めにくいため、『「毒親」育ちの子育ての困難』は、隠れた社会課題では、とも思います。

こうした理由以外でも、さまざまな事情で「親を頼れない」ということはどの家庭にもあることでしょう。「子育てウェルカムな親が近居している」のが最強と言われることがありますが、そんなに理想的な家庭ばかりではないはず。

(親の)親との関係を出発点に、子育て世帯の状況や困りごと、そしてその“支援”について、調べてみることにしました。

「妻側の親が重要」という調査結果

(親の)親と子育ての関係にフォーカスした、旭化成ホームズ株式会社による2016年の調査『共働き家族とサポートする親・そのくらしと意識調査』(2016年3、5、6月にインターネットで実施、有効回答300)があります。

これによれば、フルタイムで働く共働き子育て世帯は、「近居」の場合、7割が親による子育てサポートを受けており、長子が未就学児の場合は、さらに8割と高くなっています。

また、親の住まいとの距離が1時間以上の「遠居」でも、子育てのサポートは2割に上りました。この調査報告書では「同居に限らず、子育てと仕事の両立に、親の存在がなくてはならないものになっている」としています。

なお、サポートを受けている子世帯がお願いするのは「妻の親」の割合が高く、遠居では7割に及びました。「夫の親」と近居し日常的にサポートを受けている子世帯でも、重ねて「妻の親」からもサポートを受ける割合も7割、その中には1時間以上かかる「遠居」の親によるサポートも見られたということです。

この調査からは、やはり子育てのサポートに親、特に妻の親の存在が重要だと思われていることが浮き彫りになります。では、実際に子育て世帯はどんなことに悩んでいるのでしょうか。

2020年度の文部科学省委託調査『家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査』(インターネットで実施、0~18歳の子どもを持つ20~54歳の父母3421人が対象)では、その具体的な悩みが明らかになっています。

これによれば、「子育てをしていて負担を感じること」は「経済的な負担」が49.1%と最も高い結果に。次いで「時間的余裕がないこと」が29.6%、「精神的な負担」が29.0%でした。

性年代別にみると、20~30代の女性では「肉体的な負担」「精神的な負担」が全体より10ポイント近く高くなっていました。また、末子の年齢別にみると、年齢が上がるにつれ、「経済的な負担」が概ね高くなる傾向がみられる一方、「肉体的な負担」「精神的な負担」「時間的余裕がないこと」は年齢が上がるにつれ概ね低くなる傾向がみられました。

この調査からは、妻側が子育ての初期に特に「肉体的な負担」「精神的な負担」を感じていること、「経済的な負担」以外の負担は、子どもが大きくなるにつれて軽くなっていくことがうかがえます。特に前半については、「妻側の親の存在が重要であること」にもつながると考えられます。

同時に、これらの調査では深く追及されていませんが、妻側の親ばかりが重要になることには、不公平感というか、モヤモヤが残ります。夫も自分の親に積極的に働きかけるべきだと思いつつ、私の場合は前述した理由でそれもできず、心苦しいです。

親の“代わり”になるものは

「経済的な負担」を(親の)親が解消してくれるケースもあるかもしれませんが、一般的には、親がサポートできるのは、「肉体的な負担」「精神的な負担」と時間的な余裕ということになるでしょう。では、どれくらいの人が親に頼ることができているかというと、そう多くはないようです。

株式会社リクルートHR研究機構iction!事務局が2019年に発表した『週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査 2019』(インターネットで実施、計1039組の夫婦が対象)では、回答者の9割が夫婦と子どものみの核家族でした。

これによれば、配偶者の次に欠かせないものは「保育園・幼稚園の延長保育」で約半数という結果。「妻の親の協力」が欠かせないと回答した女性も46.2%でした。報告書では「頼れる親族や知人が生活圏内にいない家庭も多いのかもしれません」としています。

この調査からは、親の存在とほとんど同じくらい、「延長保育」のようなサービスが求められている、とわかります。

我が家は妻がまだ育休中で、保育園も保活が始まったところで、状況は違いますが、納得できる点も多々あります。

現在、もっぱら我が家で利用しているのは、自治体の施設による一時保育(一時預かり事業)。冒頭で紹介した赤ちゃん用の遊び場を備える自治体の施設では、30分~数時間の単位で子どもを預かってくれるサービスを、非常に安価に行っていることがあります。

一方で、自治体によっては、こうしたサービスは競争もし烈。すぐに枠が埋まってしまうため、ライブチケットの争奪戦のように「抽選に外れたら画面を何度も更新してキャンセルを待つ」といったことも起こると、ママ友・パパ友からは聞こえてきます。

また、今回のように、子どもが病気になったときは、病児保育のサービスもあると知りました。他にも、赤ちゃんが親と宿泊できる、あるいは赤ちゃんを泊まりで預かるショートステイや、日帰りでケアを受けられるデイケア、専門家が自宅に訪問してサポートしてくれる訪問ケアなどの事業が行われている自治体もあります。

このようなセーフティネットは「知った上でなかなか抽選に当たらない」といった問題がありつつ、少なくとも知られていなかった場合、いわゆる“孤育て”のように追い込まれやすいとも言えます。

選択肢が増えることは、“詰んだ”と絶望してしまう状態を避けられること。私の“一家全滅”の経験も、こうした解決策と共に、どんどんシェアするべきだと思いを新たにしました。
 

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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