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#17 Key Issue

「未婚男性は長生きしない」からといって結婚すべきとは言えない理由

日本人の平均寿命は男女ともに延伸しているが……。※画像はイメージ
日本人の平均寿命は男女ともに延伸しているが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

「未婚男性は長生きしない」という話、聞いたことはありませんか? これは統計を見ると、根拠がありそうな言説です。しかし、「だから結婚した方が……」と続けてしまうと、そこにはズレが生じてきます。

多様な家族の形が生まれる現代社会において、こうしたデータに接したときにどんな態度を取るべきか。9月10日に発表された令和2年版の人口動態調査の結果を基に、「結婚と健康」というテーマについて考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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〈Key Issue(キーイシュー)〉多様な生き方や価値観が認められる中、恋愛や結婚の形も変わりつつあります。「結婚」をテーマに、「Z世代」「メディア」「子育て」「健康」など記者の専門テーマから切り込みます。

未婚男性は長生きしない?

厚生労働省が7月30日、簡易生命表​​で2020年の日本人の平均寿命を発表。女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、共に過去最高を更新しました。この値は前年に比べ、女性が0.30歳、男性が0.22歳延伸。9年連続でプラスという結果でした。

こうした日本人の寿命が、実は「婚姻関係の有無」で整理すると異なっているということは、一部では知られた話です。より具体的に言えば、「未婚男性は長生きしない​​」という“傾向”があります。

厚生労働省が発表する人口動態調査には「配偶関係別」の死亡数という項目※があります。読んで字のごとく、結婚している人(有配偶)、いない人(未婚)、死別した人、離別した人ごとに分類した死亡数のことです。

※15歳以上の死亡数,年齢(5歳階級)・性・配偶関係別

そして、前述の“傾向”は、この項目や、それを裏付ける研究をもとに度々メディアに取り上げられ、時に「だから結婚した方が……」というように、危機感を煽って伝えられることがあります。

ここで、9月10日に発表された令和2年版(2020年の集計)の人口動態調査の結果を見てみましょう。これまでの“傾向”と一致し、男性は未婚者が最も死亡ピーク年齢が早く、中央値(累積%=50)​​が含まれる階級は65〜69歳。比例配分により死亡年齢の中央値を求めると67.20歳となります。

一方、有配偶男性の死亡年齢の中央値を同様に計算すると81.64歳。比較すると14歳の差があります。なお、死別は88.44歳、離別は72.87歳です。こうしたデータが未婚男性は長生きしないとされるゆえんです。

ちなみに、女性ではこれが逆転し、未婚者の死亡年齢の中央値は81.64歳、有配偶者が78.65歳となります。​死別は91.00歳、離別は80.91歳です。

このように「未婚男性は長生きしない」理由を生活習慣(特に食生活)の乱れや、収入などの社会経済状況に求める言説や、それを裏付ける研究も多くあります。

ただし、少なくとも上記の人口動態調査の結果について言えば、このデータは「未婚だから長生きしなかった」という因果関係を示すものではないことに注意が必要です。そもそも婚姻自体が寿命に直結するとは考えにくく、その間に婚姻に関係するさまざまな生活の要素が交絡因子として存在することは明らかです。

だからこそ、これらはあくまでデータであり、“日本人”と一言で括った中にいる多様な家族の形を反映するものではないこと、ましてや「結婚した方が……」という根拠にするべきものではないことを、あらためて認識する必要があります。

多様な実態にそぐわない

考えてみれば、既存の婚姻関係であっても、例えば単身赴任をしていたり、パートナーシップが破綻していたりすることもあります。その場合、生活スタイルは未婚と変わらないかもしれません。それぞれの家族に固有の事情があるはずです。

また近年は、多様な家族の形と、従来の家族の形を基にした社会のシステムの間にひずみが生まれていることを訴える声も多く聞かれるようになりました。

例えば、6月には夫婦別姓での結婚を認めないことが憲法違反であるとして国を訴えていた裁判において、最高裁判所は上告を退け、当事者の原告側の敗訴が確定しました。

選択的夫婦別姓に賛成する人は、早稲田大学などによる7000人規模の調査で7割に上っています。こうした希望を持つ人の中には、姓が変わる法律婚をするのをためらったり、また婚姻関係を解消したりして、事実婚を選ぶ人も出てきています。

これらの中には、法律婚をした夫婦と同様の生活を送るカップルもいるでしょう。逆に、それぞれ未婚と変わらない生活を送るカップルもいるでしょう。既存の婚姻関係を基にした調査項目には、この実態は反映されません。

また、日本では10月現在、同性婚は認められていません。3月に札幌地裁で同性同士の婚姻届を受理しないことを憲法違反とする初めての判決が出されましたが、国の責任が認められなかったために、原告の当事者たちが控訴中。全国でも同種の訴訟が続いているところです。

国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおりさんが代表を務める「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チームが大阪市で行った調査によれば、同市におけるLGBTの割合は2.7%。この値はOECD諸国の調査結果とも近い値です。

このように、一言で“日本人”と括った中には一定の割合で性的マイノリティーが含まれますが、例えばGのカップルは、婚姻関係と同様の生活を送っていても、上記の調査ではそれぞれ単独の「未婚の男性」という枠に入ることになるでしょう。

事実婚や性的マイノリティーを例に挙げましたが、家族の形が多様になる中、「配偶関係別」の死亡者数という項目は、だんだんと実態にそぐわなくなっていくとも言えそうです。

問題は問題として解消を

ただし、忘れてはならないことがあります。調査によって問題があることがわかった以上、その問題に対応することは必要であるということです。

前述した性的マイノリティー関する大阪市の調査を基にした研究では、性的マイノリティーのメンタルヘルスの問題が浮かび上がりました。自殺企図や未遂経験の割合も統計的に優位に高いことがわかり、海外の先行研究でも、同様の結論が得られています。

性的マイノリティーのメンタルヘルスの悪化の背景には、社会の差別や偏見がある可能性があります。このような問題の解消に向き合うことで、救われる人がいるのは事実です。そして本来、調査とはこうした問題を浮かび上がらせ、それに取り組むためにあるものだとも言えます。

「未婚男性は長生きしない」という問題も、その背景に生活習慣や社会経済状況といったさらなる問題があるなら、それを解消することを考えなければいけません。

ただし、それを「だから結婚した方が……」という方法で“解消”しようとするのはあまりに表面的です。繰り返しになりますが、結婚が直接、寿命に影響するとは考えにくいからです。

また、それは男性の生活習慣や社会経済状況の問題を、婚姻関係になった女性に押しつけることになりかねません。

未だに「だから結婚した方が……」という“あおり”を見かけることはあります。そんな時は、頭ごなしに「時代遅れだ」と否定するのではなく、根本的な問題点がどこにあるのか、注意深く切り分けをしていく必要がありそうです。
#アップデート専門記者トレンド分析
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