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エンタメ

東野幸治の恐るべき〝引き立て力〟 闇営業問題で見せたバランス感覚

ネットも活用、時代を読む〝情報屋〟

東野幸治=2014年4月18日、大阪市福島区、伊藤菜々子撮影
東野幸治=2014年4月18日、大阪市福島区、伊藤菜々子撮影
出典: 朝日新聞

目次

デビュー間もなくダウンタウンの番組で頭角を現し、現在では情報バラエティーのMCとしての顔も持つ東野幸治。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)では、千鳥、アンタッチャブル・山崎弘也といった芸人にスポットを当てた企画を提案しブレークさせ、2019年の闇営業問題では吉本興業と後輩芸人とをつなぐポジションで存在感を示した。今年8月の「雨上がり決死隊解散報告会」をはじめ、あらゆるターニングポイントに現れる稀有な芸人・東野の魅力について考える。(ライター・鈴木旭)

ダウンタウン人気を確固たるものに

東野幸治は、駆け出し時代から運命的な出会いを果たしている。その相手とは、今や大御所となったダウンタウンの2人だ。

1987年4月にスタートした『4時ですよ〜だ』(毎日放送)で共演し、当初はコーナーの告知を任されるポジションだった。しかし、そこから徐々に頭角を現し、同番組の終盤には司会を任されるまでになった。また、同時期にスタートした『素敵!KEI-SHU5』(関西テレビ)では、白いランニングシャツにトレーニングパンツ姿のキャラクター「セニョール東野」で人気を博すなど、後につながる芸風も萌芽している。

ダウンタウンの東京進出後、1991年に始まった『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)では東野の個性がさく裂する。様々な女性タレントとなかなかにガチなプロレスをする「キャリー東野のアイドル虎の穴」、ヘルメットとV字形の際どい水着で登場する今田耕司とのコント「放課後電磁波クラブ」など、若手らしく体当たりで挑む笑いで番組を盛り上げた。

その芸風は、後の人気番組『めちゃ×2イケてるッ!』(前同)における極楽とんぼ・加藤浩次にも影響を与えている。加藤がゲスト出演者を容赦なくジャイアントスイングする人気コーナー「爆烈お父さん」は、明らかに東野の存在あってこその笑いだった。

いずれにしろ東野は、今田、板尾創路らとともに、全国区でのダウンタウン人気を確固たるものにしたと言えるだろう。

『アメトーーク!』企画で後輩が大ブレーク

ダウンタウン関連の番組だけでなく、1990年代中盤からは『ウッチャンウリウリ!ナンチャンナリナリ!!』(日本テレビ)、『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)、『クイズ!渡る世間は金ばかり?!』(テレビ朝日系)など、東野は幅広いバラエティーに露出し始める。

2000年前後には、『明石家マンション物語』で明石家さんま、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(ともにフジテレビ系)でとんねるずと共演。どんな先輩に対してもスッと懐に飛び込む姿は、後続の芸人たちがバラエティーでどう振る舞うべきかを身をもって示したと言える。とくにアンガールズ・田中卓志が、東野にあこがれて芸人になったのは有名な話だ。

また、2003年4月からスタートした『アメトーーク!』では、東野の着眼点の鋭さを世に知らしめた。東野が提案した「どうした!?品川」「帰ろか…千鳥」「スゴイんだぞ!西野さん」といった企画は、どれもタイトルからして悪意に満ちている。ハナから東野はヒール役を買って出るわけだが、そのプロレスがもれなく面白い。番組を見終わった頃には、生贄である後輩芸人たちの評価が上がるのだから不思議だ。

「後輩の山崎に憧れてる芸人」では、アンタッチャブル・山崎弘也にスポットを当てている。同じ事務所の後輩だけでなく、琴線に触れた芸人であればいち早く取り上げるのも東野のすごさだ。ちなみに「後輩の山崎に~」が放送されたのは2009年。“ザキヤマ”の名が世に知れ渡り、本格的に大ブレークする前年の話である。

東野幸治=2017年3月5日、岡田晃奈撮影
東野幸治=2017年3月5日、岡田晃奈撮影
出典: 朝日新聞

闇営業問題で存在感を発揮

情報バラエティー『ワイドナショー』(フジテレビ系・2013年10月に深夜枠でスタート、2014年4月~日曜午前に移動)でも、東野は独自の存在感を発揮した。とくに2019年に起きた“闇営業問題”における言動は、改めて東野幸治という芸人の特殊さを感じた。

所属事務所を通さず、反社会的勢力の会合に出席した芸人が金銭を受け取ったとされる闇営業問題は、日を追うごとに情報が錯そうし吉本興業のお家騒動へと発展する。ついには、雨上がり決死隊(2021年8月解散)の宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号の田村亮が会見を開き、闇営業問題について謝罪したうえ、当時の所属事務所である吉本興業・岡本昭彦社長から「俺にはお前ら全員クビにする力がある」などと圧力を受けた経緯を告白。吉本興業は揺れに揺れた。

これを受け、ダウンタウン・松本人志と東野は、普段は収録番組である『ワイドナショー』を急きょ生放送に切り替え、視聴者に吉本興業幹部と芸人との関係改善に向けて動く意向を説明。

東野は岡本社長に対して「いつからそんなに偉そうになったのか」と厳しく非難したうえで、「吉本興業の横柄な態度を気になったりする方がいらっしゃったら、スタッフのみなさんとか、他の所属のみなさんとか、一般の方でもいいんですけど、言っていただいたら」と謙虚な姿勢を見せる。また一方で、「無期限謹慎のスリムクラブとか、(お笑いコンビの)2700とか、他の芸人とかつらいと思う。会見をしたいというなら、させてあげてほしい」と目を潤ませた。

そもそも東野は、芸人仲間から「デリカシーがない」「感情が欠落している」と言われるような芸風だった。だからこそ、キャラクター込みでエピソードトークやひな壇のガヤが余計におかしく聞こえたものだ。それが芸歴を重ね、事務所幹部と後輩芸人との間を取り持ち、事態の収束へと動くようになった。とはいえ、時にドライな笑いで湿っぽい空気を避ける。そんな絶妙なバランス感覚も冴え渡っていた。それは先述の『ワイドナショー』で闇営業問題について語った後、「いやぁ~年とったなぁ」とすぐさま自身の涙を笑いのネタにした場面にも現れている。

2020年2月に放送された『佐久間宣行の東京ドリームエンターテインメント』(ニッポン放送)の中で、東野は冗談交じりに「(吉本興業の)大崎・岡本体制で、俺、多分、序列No.5ぐらい」と語っている。後日、本人はこの発言を反省したようだが、実際の影響力は遜色ないだろう。ベテランと呼ばれるポジションとなり、自身の責任の重さを感じ始めたのかもしれない。

“情報屋”の気質とチャレンジ精神

フットワークの軽さ、アンテナの高さも、東野は芸能界随一だ。巷で話題の情報をチェックし、芸能界のゴシップ情報にも抜け目がない。そもそも“情報屋”の気質を持っているのだろう。

それだけではない。『東野・岡村の旅猿~プライベートでごめんなさい~』、『行列のできる法律相談所』(ともに日本テレビ系)、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)、『みえる』(テレビ朝日系)など、共演者の年齢やジャンルも実に幅広い。また同時にメインもサブもこなし、あらゆる番組に柔軟に対応する芸人のパイオニアと言える。

一方で、ツイッター黎明期にアカウントを開設し、大喜利のお題を投げてやり取りするなど一般投稿者との交流も早かった。YouTubeチャンネル開設そのものは遅かったが、話す姿を見せないラジオ動画「幻ラジオ」を投稿したのは2020年2月と早く、この手法は後に定番スタイルの一つとなっている(「幻ラジオ」は2021年3月で一旦休止)。

フリーディレクター・三谷三四郎が開設したYouTubeチャンネル「街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜」にも早い段階で出演。東野が引き金となり、様々な著名人が続々と登場する人気チャンネルへと成長している。こうした行動の根底には、旺盛な好奇心と、いかなる相手にも裸一貫で臨むチャレンジ精神があるに違いない。


常に時代を意識し、波打ち際を歩く芸人

ダウンタウンという大きな存在がいたことで、東野はデビュー間もなく脇を固めるポジションを担った。自分は何を求められていて、どう切り込めば笑いがとれるのか。引き立て役だったからこそ、全体を見る目が養われたように思えてならない。

『アメトーーク!』のプレゼン企画にしろ、『あらびき団』(TBS系)にしろ、一見、後輩をイジって面白がっているだけのようにも見える。先月8月にライブ配信された「雨上がり決死隊解散報告会」においても、FUJIWARA・藤本敏史が男泣きする中、「俺、ケツ、仕事あんねんけど……」と言い放って視聴者を笑わせる場面があった。最後にひと笑いほしいと考えたのだろうが、あえての優しさなのか、番組全体を考えたまでなのか、肝心の真意は不確定なまま微笑するのみである。

著書『この素晴らしき世界』(新潮社)を読んでも、東野が面白がるポイントは実にニッチだ。たとえば次長課長なら井上聡、矢野・兵動なら矢野勝也の側にスポットを当てる。より迷走し、より不幸の度合いが強く、より不可解な芸人ほど筆が乗る。この点は、ほとんど性癖と言えるものだろう。

ただ、それだけに東野の言葉には説得力がある。「絶対こんなヤツになりたくない! でも、絶対こんな面白いヤツを見逃したくない」というような、ある種矛盾した感情の高ぶりがこちらに伝わるのだ。だからこそ、東野はあらゆるターニングポイントに“いる”のだと思う。どこまでもドライで、どこまでもウェットなのである。

常に時代を意識しながら、大衆とニッチの波打ち際を歩く。そして東野自身は、どちらに深入りすることもなく、たまに漂流する海藻やひび割れた貝殻を拾っては灼熱の砂浜へと引き上げるのだ。この稀有な立ち位置こそが、東野幸治の才能ではないだろうか。

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