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表現の現場の「狂った」ハラスメント アーティストが立ち向かう理由

「性行為の強要、本当に深刻」「せめて、1年に1回、自分のOSをアップデートしましょう」

インタビューに応えるキュンチョメ=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
インタビューに応えるキュンチョメ=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

目次

「狂っている」。アートなど表現の現場におけるハラスメントの実態について、現代アーティスト「キュンチョメ」の2人は怒りを込めて告発します。「ジェンダーが不平等であるというこの国の大前提を認識すらしていない」。常に目の前にあることに向き合ってきた2人。「普通を変える」ために必要な「OSのアップデート」の仕方について聞きました。

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〈キュンチョメ〉
ホンマエリとナブチの男女二人のアートユニット。2011年、東日本大震災をきっかけに活動をスタート。大震災だけでなく、沖縄の基地問題、香港のデモ、ジェンダー問題など様々な社会課題を元にした作品が多い。最近では「表現の現場調査団」でハラスメントの実態を発表するなど社会活動も行う。アートにとどまらない活動で注目を浴びている。
キュンチョメ 公式WEB(https://www.kyunchome.com/
 

インタビューに応えるキュンチョメのナブチ氏=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
インタビューに応えるキュンチョメのナブチ氏=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

アーティスト自ら「表現の現場調査団」に

――キュンチョメは現代アートだけでなく、社会運動などにも取り組んでいる印象です。「表現の現場調査団」は、アートなんでしょうか。それとも、社会運動なんでしょうか。

ホンマ)
「表現の現場調査団」はアートではなくて、社会課題を解決するための調査団です。私たち以外にもメンバーがたくさんいて、それぞれがそれぞれの動機や思いをもって調査にあたっています。

ただ私にとっては、本気でどうにかしたいことをやっているという意味ではアートも社会運動もそんなに違いはなくて。どちらも、一人の人間として全力を尽くすという態度は一貫しています。だから両方の活動に気持ちや態度の差はありません。

「表現の現場調査団」は目指すゴールが明確に決まっています。アートは、結果が自分の想像の外に転がって行った方が面白いですが、「表現の現場調査団」はハラスメントをなくすという明確なゴールがあります。そのゴールを目指して、淡々と調査を進めていきます。

表現の現場調査団
表現の現場に置けるハラスメントの実態調査などをおこなう団体。キュンチョメなど12名のメンバーが参加している。

ナブチ)
僕たちは社会に訴えかけるためには色々な方法をとるべきだと思っていて。そして、アーティストは社会を変えるべきだと思っています。そのために、あの手この手で色々やっていこうという感じですね。

ホンマ)
手法は一個に限らなくていいよね。

ナブチ)
だから、映像を撮って、絵を描いて、というだけじゃなくて、アーティストだって政治家になったっていい。そして法律を作ったって、変えたっていい。むしろ、そうあるべきだと思うんです。

アーティストだから全てを作品で表現しなければいけないなんてことは全然なくて、縦横無尽に動き回っていいと思っているんですよ、人間なので。

ホンマ)
「表現の現場調査団」だけでなく、LGBTQに関する運動とかもやっているんですが、どちらも生きるうえでの態度であって、私にとってやらねばならぬことなんですね。


――アーティストという思想のもとで、アートと活動をやっているという感じでしょうか。

ホンマ)
そうですね。ただそれは、アーティストとしての思想というよりは「キュンチョメ」という思想と呼んだほうが近いかもですが。

ホンマエリ、ナブチとは別に「キュンチョメ」という脳みそというか思想があって、三権分立みたいに、三人の会議にかけて全体の方向性を決めているんですよ。エヴァンゲリオンに「マギシステム」っていうのが出てきて、三つの別の思想を持ったスーパーコンピューターが行動を決めていくんですが、あれに近いです。伝わりますかね、これ?(笑)

その「キュンチョメ・マギシステム」のもと、ある時は作品と呼ばれるものをつくることもあるし、あるときは社会運動と呼ばれることをやることもある。そんな感じです。

ナブチ)
自分の考えや、こうあった方が良いという未来を、作品という小さな箱の中に閉じ込めておく必要はないということなんですよ。作品っていうのは抽象化する作業でもあるんですけど、もっと具体的に社会を変えていくための手段を持っておくべきだと思っていて。

ホンマ)
そうそう、それは二足のわらじを履いているような感覚ですね。右足にアートという抽象を履いて、左足に社会運動という具体を履く。そして、具体、抽象、具体、抽象と二本足で前に進んでいく。そっちの方が遠くに行けるじゃんって。


――そういった活動スタイルのアーティストは珍しいのでしょうか?

ホンマ)
海外だと普通というか、もっと過激ですよね(笑)。最近だと香港の民主化運動なんかは、相当数のアーティストが運動に直接関わっていましたよね。知人のアーティストも出馬して、いつのまにか政治家になってました。

ナブチ)
切迫感のある国では、悠長なことを言ってられないんですよ。今は香港やミャンマーが顕著ですけど、数カ月後までになんとかしないと自分の命が危ない、という状況があるんです。

のんびり作品を作って、数年後に何か少しだけ変わっていればいい、みたいなことを言っていられない。でも本当は日本も同じはずなんです。遠い国の話ではない。

ホンマ)
差別だって、ハラスメントの問題だって、一刻を争うわけで。作品をつくって、オープンエンディングでみんな考えてねじゃ、とても間に合わないときがあります。

「表現の現場調査団」記者会見の様子(手前から3番目がキュンチョメ・ホンマさん)
「表現の現場調査団」記者会見の様子(手前から3番目がキュンチョメ・ホンマさん)

普通を変えるため「OSをアップデート」

――アートに関係ない人たちも含めて、社会課題に関わって世の中を前進させていくためにはどうしたらよいですか?

ホンマ)
標語のままじゃ標語で終わると思うんですよね。

ナブチ)
ジェンダー平等という言葉を1万回言っても、ジェンダー平等は達成されないですからね。難しいよね。

ホンマ)
SDGsを本気でやろうと思ったら、「普通」という概念を変革する必要がありますよね。だって、ほとんど全部、普通と思っちゃってるじゃないですか。使い捨てコップを当たり前に使うこともそうだし、明らかに価格が安すぎる服を喜んで買って着たりとか、管理職が全員男性だったり、普通化しているものを変えないと全く意味がないですよね。


――普通を変えるためにはどうしたらいいのでしょう?

ホンマ)
やっぱり知ることなんだと思います。例えば、何がハラスメントかそもそも知らなかったり、どういう事例があるのか知らなかったりすると、気づかずにやってしまうこともあります。なので、大前提として、知ることが必要だと思いますね。

特に表現の現場におけるハラスメントは、表現の現場特有の、特殊な状況で起きるハラスメントも多いので、どういう状況でどういうハラスメントが起きやすいのかを知っておかなければいけない。

ナブチ)
SDGsもそうで、不健康なことが当たり前にたくさん起きているという現実を知って、認めるところから始めて、それに加担している自分がどう変わっていけるのかを考えることが大切なんだと思います。

「表現の現場ハラスメント白書2021」より
「表現の現場ハラスメント白書2021」より

――お二人は以前からハラスメントが気になっていたんですか。

ホンマ)
そうですね。ただ、それがアート業界全体として普通の状態だったんです。普通の状態のところに自分たちも飛び込んでいったので、それが普通だと思い込んでしまっていた。でも、「あれ、これは普通だと思いこんでいる場合じゃないぞ」「それは私の思い込みだ」みたいに思ったわけです。こういう状態を普通だと思うのはやめようと。そうしないと、自分も無意識のうちに加害する側に回ってしまうだろうなって。知らず知らずのうちに学んでしまったことを、アンラーニング(過去に学んだ知識や価値観を捨て、新たに学び直すこと)しないといけないと思った。

ナブチ)
美術館なんかでも、参加女性作家が一人とか二人とかが当たり前の展覧会をやっている。偉い人はみんなおっさんが当たり前。だから、おじさんにも理解できたり、おじさんが喜ぶ作品を自然と作ってしまったりする。そういう状況を当たり前と思ったり、無意識のうちにやっていたかもしれない。

ホンマ)
恐ろしい話でね。その当たり前だと思っていた自分の「自然」をちゃんと更新して生きましょうという感じです。いわゆる更新作業ですね。多くの人たちにとって一番大切なのは、OSのアップデートだと思います。半年に1回くらい大掃除みたいな感じで決めて、みんなでやってもいいんじゃないですかね。せめて、1年に1回、自分のOSをアップデートしましょう、みたいな。そういうのをやっていかないといけない。

ナブチ)
windowsみたいに強制的に自動更新されないから問題なんですよね。

ホンマ)
そう、みんな自分のOSは最新だと思い込んじゃう。普通に生きていて、色んなニュースも目にしているから、「私は大丈夫だって思っちゃうけど、本当か?」って、自分で自分を疑う大変な作業をしないといけないんですよね。もちろん、こういう調査活動をやっているから私は潔白だという話ではなく、今後やってしまわないように、私自身も更新していかないといけない。

ナブチ)
自分が身を投じている場所だからこそ、自分が正常だと思ってしまう「正常化バイアス」(=自分にとって都合の悪い情報を無視して、起きていることが正常な範囲内だと自動的に考えてしまう心の動き)がどうしても働いちゃうんですよね。見ないふりをしちゃったり、知っていると思ってしまったりとか。

ホンマ)
でも、アンケートとか実態調査を見ると、本当にショックを受けます。『表現の現場調査団』の調査では、回答者数1449人中、129人が性行為を強要されたという結果が出ました。約1割ですよ。しかも全分野それぞれに被害に遭われた人がいるので、本当に深刻です。一人一人が意識するというだけでなく、構造を疑って変えていかなければならない。

ナブチ)
例えば構造的な問題の一つにジェンダー不平等があって、男性中心社会が今も続いているという問題点がある。だから例えば、男性の方が多いような状態では、「ジェンダーバランス悪くない?」と男性側からちゃんと言わないといけないし、もちろんこんなことを言ってる僕自身も、男性であることの加害性ともっと向き合わなければいけないと思っています。

ホンマ)
なかなか自分の意見を表明するのって勇気がいるかもしれないけどね。私も超ビビリだからそういう気持ちわかるし。でも、言わないと、10年後も100年後もこのままで、SDGsのゴールも夢物語になっちゃうじゃん。そうさせないために、NOというべきときはガンガン言ってくぞって思ってます。

インタビューさせていただいたキュンチョメのアトリエ=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影
インタビューさせていただいたキュンチョメのアトリエ=汰木志保(ソー写ルグッド)撮影

アートにも社会運動にも共通するもの――取材を終えて

様々な社会課題を、度肝を抜く方法で表現するキュンチョメ。当事者たちのリアルな意見も垣間見られ、作品が出るたびに毎回驚かされます。

そんなキュンチョメが、今年になって、「表現の現場調査団」という活動を発表しました。初めにハラスメントについてアンケート募集をしていたのですが、しばらくしたら真面目な顔で記者会見をしている様子を目の当たりにしました。もしかしたら、これもアートの一部なのか? そう思ってインタビューで質問しました。

しかし、「『表現の現場調査団』はアートとは呼べない」と強く語ります。ハラスメントで苦しんでいる人がいて、解決すべき方向が見えている。だからこそ、アートではなく、直接的な解決につなげるための社会運動という選択肢を取っている。そして、何より課題に苦しめられている人がいるからこそ、アートとは呼べないと言います。

様々な社会課題に向き合っているキュンチョメだからこそ、課題に向き合う信念は変わらず、状況に合わせてアートと社会活動を棲み分けながら活動しています。時にはアーティストは政治家になってもよいとも発言していましたが、キュンチョメの二人が政治家になった姿を見てみたい気がしました。

また、ハラスメントを生み出す「普通」という感覚を変えるために「OSをアップデート」するべきと表現しているのも印象的でした。「普通を変える」と言葉通りにとってもなかなか難しいのが現状です。それを身近な問題に置き換えることで、具体的な解決方法を探るヒントになることがあります。信念を突き詰めるだけでなく、個人個人が社会課題に向き合いやすくさせる姿勢を感じます。

ハラスメントを解決していくための社会運動は、一見、現代アーティストであるキュンチョメの活動とは異なって見える活動です。しかし、社会課題に向き合う揺るがぬ思いと、状況に合わせ的確に噛み砕く表現力が共通してありました。

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